日立がブレードPCを前倒し発表、HDDレスPCと組み合わせる

2005/5/24

 日立製作所は5月23日、クライアントPCをブレードサーバに統合するブレードPC「FLORA bd100」を6月3日に出荷すると発表した。日立が2月に発表した「セキュアクライアントソリューション」のメニューを拡充。ハードディスクドライブを搭載しない日立製のクライアントPCを接続して利用する。ブレードPCはNECや米ヒューレット・パッカード、米クリアキューブなども発表していて、今年の注目ソリューションに浮上してきた。

 日立が2月に発表したセキュアクライアントソリューションのロードマップでは、第1フェーズでHDDレスのクライアントPCを発表。2005年下期にフェーズ2としてブレードPCを投入することになっていた。日立はHDDレスPCの社内利用が好評なことなどからブレードPCの投入を前倒した。クライアントPCを仮想化し、リソースを統合する「統合ストレージ」のソリューションも2006年上期から前倒しし、2005年中に発表する予定だ。

日立製作所が発表したブレードPC「FLORA bd100」。右がクライアントモジュール

 FLORA bd100はブレード状のPCをラックに格納し、オフィス内からの情報漏えいをブロックするソリューション。ユーザーは日立が開発したHDDレスのノートPC「FLORA Se210」や、同日発表した同じくHDDレスのA4タイプのノートPC「Se270」、液晶一体型デスクトップPC「Se310」を使ってFLORA bd100にアクセス。FLORA bd100からPCへは、日立が開発した運用管理ソフトウェア「JP1」のリモート監視、ソフトウェア配布の製品「JP1/NETM/DM」を使って、利用アプリケーションの画面イメージだけが配信される。外出先からアクセスする場合は、日立製のVPNソフトウェアを利用する。PCからFLORA bd100にアクセスするには、USBメモリ型の認証装置「KeyMobile」を使って、認証を受ける。

 日立は2月に外出先のPCからオフィスの自席のPCにアクセスして、JP1/NETM/DMでアプリケーションの画面イメージを配信させる「ポイント・ポイント型」、米シトリックス・システムズの「MetaFrame Presentation Server」を使ってPCからサーバにアクセスし、画面をPCに表示させる「センター型」の2つを発表した。今回は発表したFLORA bd100は「ポイント・ブレード型」の名称で、ポイント・ポイント型の自席PCをブレードPCに統合した形だ。MetaFrameがマルチユーザーに対応したアプリケーションしか利用できないのに対して、ポイント・ポイント型、ポイント・ブレード型はどのアプリケーションでも実行可能。日立製作所の情報・通信グループ プラットフォームソリューション事業部 事業部長 松縄正人氏は「既存のPC環境、アプリケーションをそのまま実行可能だ」と説明した。

 FLORA bd100はブレード1枚に対して1台のPCを割り当てる。ブレードのクライアントモジュールは、インテルのCeleron M 1.40GHzを搭載。512MBのメモリと40GBのHDDを載せる。OSはブレードPC向けのライセンスである「Windows XP Pro Blade PC Edition」を利用する。Blade PC Editionは通常のWindows XP Professionalとほぼ同機能。クライアントモジュール1台の価格は13万5975円。クライアントモジュールを最大で14台搭載できるベースユニットは21万円。ベースユニットを積み上げることでフルラックに最大112台のブレードを格納できる。日立はHDDレスPCに接続して利用できるUSB接続のIP電話機も7月15日に出荷する。

日立の執行役副社長 情報・通信グループ グループ長&CEO 古川一夫氏。「昨日、海外から帰ってきたが、出張には(HDDレスの)セキュアPCを持っていった。今回持っていって感じたのは、安心、安全に使えることだ。遅延などのストレスは感じず、快適に使えた」と述べた

 ブレードPCはNECも発表している。NECの「仮想PC型クライアント統合ソリューション」では、クライアントPCの環境をブレードサーバ上で一元管理し、PCの処理に応じてリソースを柔軟に割り当てることが可能。ブレード1台に対してN個のPCを割り当てることができる仕組みだ。NECはPCの負荷の高まりに応じて柔軟にブレードのリソースを割り当てることができ、情報漏えいの防止だけでなく、システム投資の削減も可能とアピールしている。

 対して、日立が発表したFLORA bd100で実現するのは、ブレード1枚に対してPCが1台という1対1の仕組み。米HPや米クリアキューブのブレードPCも1対1のアーキテクチャだ。日立製作所の情報・通信グループ 情報システム本部 本部長 中島史也氏は、1対Nのアーキテクチャについて、「1サーバで30〜40人が使用するため、1人のユーザーが負荷の大きい作業を行うとほかのユーザーが影響を受ける」と指摘。「ユーザー固有のソフトウェアの登録は管理者が実施するため、管理が大変」などとも指摘し、日立が選択した1対1のアーキテクチャの優位性を説明した。「クライアントブレードは完全な個人環境を実現する。1人1人の自由な環境を使いたいというニーズにはクライアントブレードが最適だ」(中島氏)。

 ただ、日立もブレード間でのリソースの共有など業務効率の向上を実現する機能をセキュアクライアントソリューションに持たせることを予定している。それがフェーズ3として年内にも提供予定の「統合ストレージ」。クライアントリソースの仮想化と統合管理を実現するとしている。日立は、あるブレードがダウンした際に自動的に別のブレードに処理を引き継がせるフェイルオーバーの機能も8月にはFLORA bd100で対応させる考え。FLORA bd100とストレージを接続して、各ブレードのデータをバックアップする。

 日立によると、セキュアクライアントソリューションにはすでに約6万台の引き合いがあったという。日立の執行役副社長 情報・通信グループ グループ長&CEO 古川一夫氏は、HDDレスPCなどセキュリティを高めるためにハードウェアを工夫したPCについて、「今年度は30万台の出荷が見込まれる」と予測。日立はそのうちの「10%、3万台の獲得を最低線にしたい」と述べた。

 日立は外販を行うと同時に情報・通信グループ内にも広くセキュアクライアントソリューションを導入し、情報漏えい防止と、新製品開発の改善点の発掘につなげる。2004年下期には同社の幹部を中心に2000台のHDDレスPCを導入。2005年度上期にはHDDレスPCを4000台と、ブレードPCを6000台導入する。営業など外出先にPCを持ち出すことが多い従業員を中心にHDDレスPCを割り当てる考え。2006年度からは主にオフィス内でPCを利用する従業員にも拡大する。情報・通信グループだけでなく、日立全社への導入も検討する。

(@IT 垣内郁栄)

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日立製作所の発表資料

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