面倒だから、番号ポータビリティは使わない?

2006/1/11

 野村総合研究所(NRI)は1月10日、第33回メディアフォーラムを開催し、2006年11月1日に施行されるMNP(番号ポータビリティ)と携帯電話市場の動向などを説明した。講演したのは、野村総合研究所 情報・通信コンサルティング一部 上級コンサルタント 北俊一氏と、同 主任コンサルタント 園生賢一氏。

番号ポータビリティはあまり利用されない?

 北氏は冒頭、「2006年には、“MNP”と“新規参入”という2つの『隕石』が落下し、インパクトを与える」と断言。2006年11月1日に開始することが決定したMNPと、2006年秋〜2007年春にかけてBBモバイルとアイピーモバイル、イーモバイルの3社が携帯電話市場に新規参入することによるMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想携帯電話サービス事業者)の参入の可能性の出現などが、市場に大きくインパクトを与えると予測した。

 MNPの開始により、電話番号を変えずに携帯電話キャリアを変更できるようになる。従って、従来よりキャリア間の移動が流動的になると予測されており、携帯電話の各キャリアは、「どう11月を乗り切るか」で頭が一杯の状況だという。ただし、北氏は「MNPに向けたキャリア間の戦いはすでに中盤戦に入っている」と分析。各キャリアは、すでにMNPをにらんだ年間割引(年割)、長期割引、家族割引などの囲い込み系サービスを投入し、キャリアを変更するコストの上昇に成功しているという。この点について、北氏は「NTTドコモとAUの月次解約率は0.81%と1.21%で、世界的に見て驚異的に低い数字だ。この中には料金未払いなどの強制解約も含まれることから、意図的な解約はこの半数程度ではないか。年割の加入者は7割といわれており、これらの施策がキャリア変更の敷居を高くするのに成功している」と分析した。

野村総合研究所 情報・通信コンサルティング一部 上級コンサルタント 北俊一氏
  また、携帯電話の機能がPC並みに複雑化し、カスタマイズ機能も豊富になったことから、『自分仕様』へカスタマイズするユーザーが急増。機種変更時に、あらためてカスタマイズしな直さないといけないことから、「機種変更すら面倒くさくなっているユーザーが増えている」(北氏)と指摘。キャリア変更時の手間を面倒に感じるユーザーが増えつつあるとした。

 NRIが2005年9月に2500人を対象に行った調査で「MNPがない場合の今後2年間のキャリア間移動」を試算したところ、NTTドコモからAUへの移行が312万契約、NTTドコモからVodafoneへが96万契約、AUからNTTドコモへの移行が198万契約、AUからVodafoneへが33万契約、VodafoneからNTTドコモへの移行が171万契約、VodafoneからAUへが148万契約と分析。NTTドコモの契約数は、移動前が4978万契約(シェア56.1%)で移動後が4939万契約(同55.6%)、AUは移動前2407万契約(同27.1%)に対し、移動後は2636万契約(同29.7%)、Vodafoneが移動前が1499万契約(同16.9%)で移動後は1309万契約(同14.7%)となり、NTTドコモはほぼ変わらず、AUが微増する分、Vodafoneが微減する予測となった。この結果、キャリア変更する契約数は合計958万契約で、8884万契約(調査時点の契約総数)の10.78%だった。

 一方、上記の質問に対して「1年以内にキャリアを変更する予定がない」と回答したユーザーに対して、「○○○@docomo.ne.jpといったメールアドレスは変わる」「長期割引・年間割引は引き継げない」「家族割引を利用している場合、自分だけがキャリアを変更すると料金が高くなる可能性がある」「ポイントは引き継げない」「着メロ、着うたフルなどのコンテンツやゲームは継続利用できない」といった5点と、2000〜3000円の手数料がかかることを明記したうえでMNPを利用したいか聞いたところ、ほとんど希望者はいなかったという。北氏は、「例えば、変更手数料を移動後のキャリアが持つことや、長期割引のキャリア間の引き継ぎを認めるなどの施策を行えば、先の5点の問題はクリアできるが、これはカネでユーザーを引っ張るだけの不毛な戦いになる可能性が高いため、NTTドコモなどは行わないだろう」と指摘。低価格による訴求ではなく、サービスやコンテンツ面でユーザーに訴求し、キャリア変更を訴えることが重要だと述べた。

 新規参入事業者に対しては、「とにかくエリアを充実させなければ、既存キャリアと同じ土俵にも立てない」(北氏)と指摘。iPodやPSPなどにW-CDMAやTD-CDMAのチップを埋め込むなどの新しい付加価値創造やMVNOの出現などに期待したいとした。

日本でMVNOを成功させるためには、データ特化や小企業対象が有効

野村総合研究所 情報・通信コンサルティング一部 主任コンサルタント 園生賢一氏
 MVNOは、周波数や無線設備を自ら保有せずに、自社ブランドの携帯電話や無線サービスを行う事業者を指す。実際の例では、英国のヴァージン・モバイルがT-mobileのインフラを利用して展開しているケースなどが成功事例として挙げられるという。これは、ブランド力が弱いキャリアと、ブランド力が強くヴァージンレコードなどのコンテンツを保有するヴァージン側の思惑が一致し、Win-Winの関係構築に成功した例だという。

 一方日本では、セコムがKDDIのインフラを利用して提供している「ココセコム」や、トヨタ自動車がKDDIを利用して提供している「G-BOOK」などが挙げられるが、現状ではデータ通信が中心だ。

 園生氏は、今後日本でMVNOを成功させるためには、「電話料金は安くてもトータルでプラスになる」「データ通信サービスの提供が不可欠」「既存キャリアにできなかった価値の創造」といった、日本独自のビジネスモデルの構築が必須であると指摘。今後の具体的なケースとしては、「データ特化や小企業を対象としたMVNOが有望であるほか、富裕層を囲い込むビジネスモデルなどが生まれる可能性もある」(園生氏)と予測した。

(@IT 大津心)

[関連リンク]
野村総合研究所

[関連記事]
企業の広告費や販促費はマイレージポイントに替わる? (@ITNews)
レガシーマイグレーションはうまくいっていない〜NRI (@ITNews)
NRI、ITILに“What”は載ってるけど“How”はない (@ITNews)
シングル・サインオンでは不足、サンとNRIのID管理とは (@ITNews)
システムの“のりしろ”IT基盤を強化せよ、NRI (@ITNews)
Tomcat、Strutsで基幹システムを構築、NRIが支援サービス (@ITNews)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)