インターネットは知的財産権の敵ではない、レッシグ教授

2006/3/28

 国立情報学研究所が3月27日に東京都内で開催した国際シンポジウムで、スタンフォード大学法学部教授のローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)氏は「Creative Commons and Free Culture」と題した講演を行い、硬直的な著作権法からの自由を訴えた。

スタンフォード大学ロースクールのレッシグ教授

 レッシグ教授はアップルのiTunesなどを引き合いに出し、「インターネットは膨大な文化の流通と消費のメカニズムを作り出した。しかし同時に文化の消費のしかたを完全にコントロールするようになった」と指摘した。「アナログの世界では、著作権法は必ずしも強い制御力を持たなかった。例えば本を他人にあげたり、売ったりすることは法的に制限されていない。しかしデジタルの新たな世界では、利用するたびに1コピーとみなされ、毎回知的財産権保有者の許諾を得なければならなくなっている」と、インターネットによって著作権の制御が強化されている現状を語った。

 一方、インターネット上では単にコンテンツを消費するだけでなく、それらを素材として用い、新たな表現を生み出そうとする若者が増えていることをレッシグ教授は指摘、アナログの世界で文化を発信できるのは恵まれた少数のプロに限られていたが、デジタルの世界では誰もが創造表現を行えるようになったことに、飛躍的な進歩があると強調した。

 レッシグ教授は、アニメの動画像を引用・合成して作られたミュージックビデオや、ジョージ・ブッシュ米国大統領とトニー・ブレア英国首相の報道映像をつなぎ合わせ、あたかもライオネル・リッチーの「Endless Love」をデュエットで歌っているように見せたビデオを示し、こうした表現形態で創造性を発揮しているデジタルクリエーターが何万人もいる、と語った。

 「インターネットの“Read-Write Culture”(消費するだけでなく表現もできる文化)は、人々に発言する力を与えている。500ドルのコンピュータさえあれば、芸術、教育、政治など何でも自分の好きなことを表現できる。21世紀のリテラシーとはこういうことだ」

 しかし、著作権法から見れば、こうした活動はほとんど著作権法違反を問われることになる。「既存のシステムは、こういった民主的な文化に対応できるように作られていない」。現在の著作権法には簡素化と自由化が必要だが、米国の著作権法の改革は不可能に近いとレッシグ教授はいう。そこで同氏らが2002年に始めたのが「クリエイティブ・コモンズ」。知的財産権を主張する部分としない部分を分かりやすく示す手段を用意することで、著作権保有者が進んで自分の著作物の自由な利用を促せるようにしている。「これは解決策とはならない。しかし、人々を目覚めさせるために必要な手段といえる」

 日本は非常に重要な役割を持っている、とレッシグ教授は話した。「先進国だからといって、米国政府が望むほど(著作権の扱いは)単純ではないということを、日本なら伝えることができる。創造性を保つことの価値を、日本は世界の人々に教えるべきだ」

(@IT 三木泉)

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国立情報学研究所

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