ソフトウェア特許の保護期間20年は長過ぎ?
2005/10/7
OSDN(Open Source Development Network)ジャパンは10月6日、プライベートカンファレンス「Open Source Way 2005」を開催した。会期は10月7日まで。ここでは、弁護士 椙山敬士氏の「オープンソースの法律問題」と題した講演を紹介する。
まず椙山氏は、オープンソースは知的財産権に関連するものだと紹介。知的財産権は、特許や商標などの「産業財産権」(工業所有権)や「著作権」「不正競争防止法、民法」などに分類される。この知的財産権が侵害された場合には、未然に侵害を防ぐための「差止請求権」と、すでに侵害された分の請求を求める「損害賠償請求権」が認められているという。
そもそも著作権とは、オリジナルな表現を保護するための権利であり、プログラムではソースコードが保護対象に当たる。他者のソースコードをコピーして利用すると著作権の侵害になるが、まねをしたわけではないのに結果的にソースコードが似た場合には著作権の侵害にはならないという。保護期間は、創作者の死後50年間。一方の特許権は、表現ではなくアイデアを保護するための権利であり、ソースコードではなくその基となるアルゴリズムが保護対象に当たる。特許権を得るためには、特定の審査を経て認証される必要があり、保護期間は出願から20年間だ。現在、プログラムは物の発明として特許の対象になっているという。
オープンソースが関連する法律には、著作権法と契約法(民法)、特許法が挙げられた。特に著作権法と契約法は関係が深く、著作権のライセンス契約は代表的なものだという。椙山氏は例として家の売買契約を挙げた。家の売買の場合、家の所有者(売主)と買主は、申し込みと承諾で契約が成立し、所有権とお金を交換する。これが著作権のライセンス契約の場合、著作権者(プログラムを作った人)とライセンシーが申し込みと承諾を経て契約が成立する。条件付きライセンスであれば、「利用者が××という条件を満たす限りは、著作権の権利を行使しない」というものだという。ここでいうライセンスとは、「権利不行使の約束」と「禁止行為の解除」を差す。従って、GPL(General Public License)ライセンスでは、「GPLに書いてある条件を満たすのであれば、著作権の権利を行使しない」という契約になる。
Open Source Way 2005でオープンソースに関する法律を説明する椙山敬士弁護士 |
また、オープンソースを特許の問題として考えると、同一の者が著作権者であり特許権者である場合には、「オープンソースにしておきながら(権利不行使を約束しておきながら)、同じソフトウェアに特許権を行使するのは権利の濫用に当たる」という。しかし、そうでない場合は、オープンソースは著作権だけの問題であるため、別の特許権者の権利行使を妨げることはできないという。
侵害の判断では、著作権は「原告のプログラム」と「被告のプログラム」のプログラム同士を比較する。一方の特許法では、「特許に登録されている抽象的な説明文」と「被告のプログラム」が比較対象となり、この説明文のすべての条件が当てはまれば特許権の侵害と判断されるという。椙山氏は、「このようなことから特許については、『自分は行使したいけど、他者のものは邪魔に感じてしまう』と考えている企業もあるだろう。このような考え方から、近年のソフトウェアでは企業間のクロスライセンスやパテント・コモンズなどの考え方が現れてきた」と語り、オープンソースに対する企業の取り組みを分析している。
最後に椙山氏は、「ユーザーにオープンソースを提案する際、特許に抵触していないか調べてほしいといわれるのだが、現実的には難しい。どうすればよいのか?」という問いに対し、「基本的に1からプログラムを作った場合でも、オープンソースを利用してプログラムを作った場合であっても、特許権の視点からは同じことだ。作ったプログラムが結果として特許に抵触していれば、特許権の侵害と認定されるだろう。現実的には、特許の申請から登録までに1年半近くかかることなどを考えると、既存の特許に抵触しているかどうかを調べることは非常に難しいので、“エイヤッ”で作ってしまうしかないだろう。リスクとしては、1から作っても、オープンソースを利用して作っても同じだ」と説明。ソフトウェアの特許権に関しては、「個人的にはソフトウェアプログラムの性質上、特許権の有効期間20年というのは長過ぎると感じている。特許権の保護が業界の進歩を妨げかねない。既得権益を持つ大企業が、あまりにも特許権を振りかざす場合には、独占禁止法で調整するといった方向性なども期待したい」との意見を示した。
(@IT 大津心)
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