大和事業所が力を入れるのは、組み込み系とカスタマイズ

2006/7/21

 日本IBMは7月20日、報道関係者向けの説明会を実施し、同社の研究開発部門である神奈川県にある大和事業所の取り組みなどを説明した。同日に発表した自動車産業向け開発機関「オートモーティブ・イノベーション・センター」(AIC)の説明などを日本IBM 取締役専務執行役員 開発製造担当 内永ゆか子氏が行った。

日本IBM 取締役専務執行役員 開発製造担当 内永ゆか子氏
  日本IBMの研究・開発・製造部門は現在従業員2400名程度だが、そのほとんどが大和事業所に勤務しているという。そのほか、東京・豊洲、神奈川・藤沢、滋賀・野洲にも事業所を持つ。大和事業所は、主にユーザー企業の研究・開発活動の手助けをする「R&Dイノベーションサービス」やビジネスコンサルティング活動、インテグレーション/技術支援活動、大和事業所自身の研究・開発活動などを行っている。

 同社では、ワールドワイドで活動している企業の強みとして、世界各地に存在する他国の研究所とのコラボレーションを挙げ、「常に諸外国のメンバーとコラボレーションしている。必要であれば大和に来てもらうし、場所や時間の違いを意識することはほとんどない」(内永氏)という。

 R&Dイノベーションサービスの一環として行っている「IBM統合製品開発(IPD)」は、開発マネジメントプロセスの改善施策の1つで、意思決定プロセスやプロジェクトマネジメントの改善を図る。具体的には、製品別のライフサイクルにおける売り上げやコストを把握し、利益最大化に必要な意思決定を簡単に行えるようにする。しかし、「実際には製品ごとのコストが分かっていないケースがほとんどだ。また、開発期限も守れていないケースがほとんどで、87%のプロジェクトが期限を超過していた」(内永氏)と指摘し、IPDの必要性を強調した。

 IPDはすでに30社以上の実績を残しており、IPDを用いることで平均的に開発期間を36〜40%削減できるほか、初期費用は10%削減できているという。内永氏は、「多くの事例では、まずマーケティングありきで締め切りが設定され、トップダウン形式で開発現場に下りていた。つまり、開発現場の事情が反映されてなかった。これが開発がずるずると延びる一因だ」と説明した。

荷物の搬入口にRFIDリーダを設置し、トラック内のRFIDを読み取るデモ。900MHz帯を利用し、荷物がゲートを通過するだけで、入庫管理ができるようにしている 大和事業所が中心となって開発したBlueGene/Lの小型版「BlueGene/S」。一般のオフィスに設置するために、排熱等に苦労したという

 一方で、「他社に開発手法を提供するほど優れているなら、IBMのやり方で製品を作ったらどの程度効果がでるのか? と聞かれたことがある」(内永氏)との質問に応える意味も込めて、実際にユーザー企業の組み込みソフトウェア開発案件を日本IBMが支援した。そして、モデル駆動開発(MDD)やソフトウェアアーキテクチャ、ツール開発環境などを使用した結果、おおよそ生産性を2倍(工数を半減)にできた。このように生産性を上げることができたポイントは、「アーキテクチャをいかにきれいにするか」だったという。日本IBMがこのとき用いたツールは同社が協業しているアイ・エル・シーのGUI開発ツール「GENWARE2」やエンサークの「ENCIRQ Data Foundation Framework」など。これらを駆使した結果、アーキテクチャの再利用率を30%から50%に上げたほか、ソフトウェアの見える化の促進、テスト生産性を30〜50%向上させるなど、さまざまな効果が出たという。

 合わせて発表されたオートモーティブ・イノベーション・センター(AIC)は、自動車の研究・開発を支援するためのセンターで、「当社ではすでに飛行機分野や、欧州の自動車メーカーにおいて開発支援した実績がある。この実績を日本の自動車業界にも提供したい。車もIT化が進み、複雑性が増す一方である状況で、大変困っているメーカーが多いようだ」(内永氏)という事情を踏まえてのものだ。

sRGB対応の試作品ThinkPadやモニタなど Playstation3に搭載されることで有名な「Cell」のデモの様子

 内永氏は今後の大和事業所の方向性として、「主にデジタル家電などの組み込み系開発と、スーパーコンピュータやKIOSK端末などユーザー企業システムのカスタマイズに力を入れていく。これを当社ではワールドワイドR&Dに対して、“ローカルR&D”と呼んでいる」と語った。

(@IT 大津心)

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