素晴らしいリーダーとは部下にビジョンを与える人〜コリン・パウエル氏

2006/10/19

 米サンフランシスコで開催された米セールスフォース・ドットコムのプライベートイベント「Dreamforce'06」には、元米国国務長官のコリン・パウエル(Colin Powell)氏が基調講演に登壇した。

■パウエル氏の講演に感銘を受けて始めたベニオフ氏の社会貢献活動

 基調講演では、まずホストとして米セールスフォース・ドットコム CEO マーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏が登場し、同氏とパウエル氏の関係を紹介した。ベニオフ氏がパウエル氏に初めて出会ったのは1997年の4月で、まだベニオフ氏がオラクルに在籍していたころ。当時パウエル氏が議長を務めていた「President Summit for America's Future(アメリカの未来のための大統領サミット)」に参加するためにフィラデルフィアを訪れたときだった。このときの基調講演でパウエル氏は企業の社会的責任について話し、これを聞いたベニオフ氏は大きな感銘を受けたという。

ジョークを交えながら熱く語る元米国国務長官のコリン・パウエル氏。入退場の際には、来場者全員が立ち上がり、スタンディングオベーションで歓送迎されるなど、政界引退後も相変わらずの人気だった
 

 フィラデルフィア出張から戻ったベニオフ氏は、当時の上司であるラリー・エリソン(Larry Ellison)氏にその話をしたところ、エリソン氏は即座に1億ドルを投入して基金「Oracle Promise」を設立し、恵まれない人にコンピュータを提供する活動を開始した。しかし、さまざまな経緯から「オラクルには、良いことをやろうとしても、企業文化として奉仕の概念が定着していない」と感じたという。

 それを受けてベニオフ氏は、「もし自分が起業することがあれば、設立の段階から企業の社会的責任という意識を浸透させていきたい」と考え、セールスフォース・ドットコムの有名な社会貢献活動「1-1-1モデル」を作った。「そして設立した『Salesforce Foundation』の最初のプロジェクトで、パウエル氏は『飛行機代もホテル代も負担しなくていい』といって参加するなど、多大な協力に感謝している」(ベニオフ氏)と語り、パウエル氏を壇上に招いた。

■リーダーに大切なのは、モチベーションではなくインスピレーション

 来場者全員のスタンディングオベーションで迎えられたパウエル氏は、まず「企業が地域社会に貢献していくことは非常に大切なこと」と説き、自分自身についても「国務省を去った翌日、つまり民間人としての再スタートを切った日に、『これから何をしていこうか』と考えた際に、『これからは民間人として社会に貢献していきたい』と決めた」と語った。

 続いてパウエル氏はリーダーシップに言及。「素晴らしいリーダーとは、人々にビジョンを与える人」だと定義した。しかし、そのビジョンをオフィスで唱えているだけでは不十分で、組織の隅々にいる部下もそのビジョンを確実に理解するようにすることが大切だ警告。「人々に動機を与えるだけでは駄目だ。大切なのはモチベーションではなく、インスピレーションだ」と語った。

 そして、パウエル氏は軍隊時代を振り返り、「軍隊では、まず自分に従ってくれる人たちが任務を遂行するために必要なものを、すべてそろっている状態にすることが大切だ」と教わったという。次に大切なのは、「部下の成果を認めること」。これは昇格といったオフィシャルなものだけでは不十分で、肩をたたいたり、声をかけたりといったスキンシップやコミュニケーションも大切だと強調した。また、組織の中で不真面目な人や、サボっている人がいる場合、無視してはいけないという。リーダーがこういった部下にきちんと対応しないと、一生懸命頑張っている部下がやる気をなくすからだ。

■外交政策にも一役買ったブラックベリー

演説では、国務長官在任中におけるブッシュ大統領との会話内容などにも触れ、観衆の笑いを誘っていた

 この軍隊での教訓は国務長官時代にも生かされた。パウエル氏が国務省に入ったとき、同氏は「職員が業務を行うのに必要なものをそろえよう」と心がけたという。そして、当時の国務省で使われていた旧式のコンピュータを新しいコンピュータに入れ替え、すべての職員がオンラインにアクセスできるようにした。また、ブラックベリーも取り入れた。

 「ブラックベリーは大変便利だ。あるとき、部下が国連である決議について、アメリカ代表とロシア代表がもめていると報告してきた。私は手元にあるブラックベリーでその場でその法案について検索し、アメリカの主張の方が利にかなっているという結論を導き出すことができた」(パウエル氏)といった裏話も紹介した。

 そして、当時の国務省には世界各国に関する情報が蓄積されていたが、数カ月おきにしか更新されていなかったため、この情報は6〜7カ月遅れの情報だったという。しかし、現代は情報社会であり、迅速な対応が求められていることから、「状況の変化をいち早く把握し、こういった状況を打破するためにも、最新のコンピュータやオンライン化は必須だった」と語り、パウエル氏は講演を締めくくった。

(@IT 大津心)

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米セールスフォース・ドットコム

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