災害や障害によってシステムが提供するサービスが停止した際、それを迅速に復旧するための手段として考えられるのはシステムの多重化である。物理的に離れた拠点で本番サイトとバックアップサイトを構築すれば、本番サイトが被災した場合でもバックアップサイトでサービスを継続することができる。ただし、それを実現するには多額の投資が必要となる。
「通常、BCMのためのバックアップサイトの整備には大きなコスト負担が伴います。もちろん、災害対策は重要ですが、大規模な災害対策サイトの構築/運用コストを当社だけで負担するのは現実的ではありません。そこで、必要な時に必要なリソースを使うことができるクラウドの活用を意識するようになりました」(荒川氏)
同社は、まず一般に提供されているパブリッククラウドの活用を検討するが、サービスレベルやパフォーマンスなどの観点から、パブリッククラウドだけで新統合IT基盤を構築するのは難しいと判断。そこで、自社専用の環境として利用できるプライベートクラウドを中心に据え、必要に応じてパブリッククラウドとシームレスに連携しながら利用できる環境の実現を目指すことにした。そのプライベートクラウドについても、自社で保有/運用するのではなく、信頼の置けるベンダーが運用する環境をサービスとして使えることが望ましい。それにより、運用管理の負担を抑えながらコストを最適化し、BCMの課題も解消できるからだ。
こうした高い要求に応えられるパートナーを選定するために、ルネサス エレクトロニクは提案依頼書(RFP)の中で次のような要件を満たすことを求めた。
「まずサービスレベルについては、SLAではなくSLO(Service Level Objective:サービスレベル目標)として100%を求めました。つまり、問題が起きたら返金して済ませるのではなく、しっかりと根本的な対策を施すことを求めたのです。また、災害対策として東日本と西日本のデータセンターで本番/バックアップサイトを提供すること、そして高いパフォーマンスを求めました。非常に厳しい要件ですが、幸い日立製作所から、これらを高いレベルとコストパフォーマンスで満たす提案をいただくことができました」(荒川氏)
新統合IT基盤で高いサービスレベルとパフォーマンスを実現するには、データベース基盤として何を使うかが重要となる。この課題の解としてルネサス エレクトロニクスが最終的に選んだのがOracle Exadata X5-2である。
実は同社では、すでにSCM(Supply Chain Management:サプライチェーン管理)システムでOracle Exadata X2-2を利用しており、Oracle Exadataのパフォーマンスの高さについては十分に理解していた。とはいえ、初めからOracle Exadataの採用を決めていたわけではない。UNIXサーバやLinuxサーバに1.5T〜2TBの大容量メモリを搭載し、さらにSSDを使うなどして高速化したサーバ環境でOracle Databaseを稼働させ、同社が求めるパフォーマンスが得られるかどうかを検証したという。しかし、その結果は芳しくなかった。
「汎用サーバ製品によってデータベース基盤を構築した場合、Oracle Exadata X2-2と比べてもパフォーマンスは向上しないことが分かりました。そこで、より新しいOracle Exadata X4-2で評価してみたところ、処理時間を20%も短縮できたのです。さらに、当時の最新世代であったOracle Exadata X5-2で検証したところ、処理時間は約半分に短縮されました。これらの結果からあらためてパフォーマンスの高さを実感し、新統合IT基盤もOracle Exadataで構築することに決めたのです」(荒川氏)
Oracle Exadata X5-2の高いパフォーマンスを生かし、ルネサス エレクトロニクスはシステムごとにサイロ化していたデータベースのスキーマ統合も果たしている。その理由として、荒川氏は管理負担の軽減と開発の効率化に加えて、データの整合性確保を挙げる。
「BCMのために本番サイトとバックアップサイトを用意した場合、システムごとにデータベースが異なる状態では、データの整合性を確保するのが困難です。そして当然、各システムは連携しているため、整合性が取れていないデータで連携処理が行われた場合には大きなトラブルに発展する恐れがあります。データベースを1つに集約すれば、この問題を解消できるため、新統合IT基盤ではぜひ実現したいと考えました」(荒川氏)
このように統合されたデータベースを、本番サイトとバックアップサイトで同期するために使われたのが「Oracle Active Data Guard」だ。新統合IT基盤では東日本データセンターに本番サイトを置き、西日本データセンターに開発/検証環境を兼ねたバックアップサイトを構築。両者をOracle Active Data Guardによって同期するという構成を採った。Oracle Active Data Guardを使って同期すれば、本番サイトと同じデータを用いて開発/検証環境でテストを行う際、東日本の本番サイトから西日本のバックアップサイトへ膨大なデータをWAN経由でコピーする必要がなくなり、作業を効率的に進められる。このメリットも、Oracle Active Data Guardを使う決め手となった。
データベースのバックアップ先としては、日立製のストレージが採用された。これをOracle ExadataとInfiniBandによって接続することで、大規模データの高速バックアップを実現している。
システムの監視に活用されているのは「Oracle Enterprise Manager 12c」である。拠点ごとにOracle Enterprise Manager 12cのサーバを立ち上げて監視し、問題が生じた際には日立製作所の運用担当者が通知を受け、ルネサス エレクトロニクスに報告したうえでリモート保守を行うという流れだ。
また、Oracle Database 12cの統合監査機能を使い、データベースに対する操作を全てログとして記録し、データベース監査を迅速かつ網羅的に行える環境を整えたことも、新統合IT基盤のポイントである。
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提供:日本オラクル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月20日
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