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第5回 TCP/IPとイーサネット詳説 TCP/IPプロトコル(2/2 ページ)

UNIXに実装されたことにより、TCP/IPは急速に普及し始めた。今回はUNIXとTCP/IP、そしてイーサネットの通信モデルについてみていく。

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 1972年、米Xerox社のPARC(Palo Alto Research Center)は開発中のパーソナル・コンピュータAltoを複数接続する手段として、ハワイ大学で考案されたALOHANETのアイデアを発展させた、単純であるが高速なイーサネットを開発した。

ALOHANET

 ALOHANETは、無線を使ってハワイの4つの島に設置されたコンピュータ同士を接続するために開発されたネットワークである。ALOHANETの特徴は、いくつかの通信バンドを使用するのではなく、すべてのコンピュータで1つの通信バンドだけを使用して通信を行うことである。1つの通信バンドしか使用しないため、あるコンピュータがデータを送信すると、ほかのすべてのコンピュータがそのデータを受信することになる。データには宛先が付けられており、この宛先を調べて自分宛のデータかどうかを判断する。また、複数のコンピュータが同時にデータを送信すると(電波が衝突して)データが破壊されてしまうので、正しくデータが伝わったかを送信側に伝えるために、データを受信したコンピュータは確認のための応答をする。もし、データを送信してから一定時間内に確認応答が戻ってこなければ、送信側はデータが破壊されたと判断し、再度データを送信する。このとき、もし送信が重なったことによってデータが破壊されていたのなら、ほかの送信を行ったコンピュータも同様に送信をするため、再度データが破壊される可能性が高い。このような事態を避けるために、送信側の各コンピュータは再送信の前にランダムな時間だけ待ってからデータを送信する。

ALOHANETにおける通信モデル

ALOHANETは、たった1つの通信バンドだけを使用する無線ネットワークである。そのため複数のコンピュータが同時に送信を行うと、衝突が起こってデータが破壊されてしまう。すると、どのコンピュータもデータを正しく受信できないので確認応答を返すことはない。確認応答が戻ってこない場合は、再度送信を行う。ただし再送でまた衝突が起こらないように、各コンピュータはそれぞれランダムな時間だけ待ってから再送を開始する。これにより、再衝突の可能性が低くなる。


CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)

 Xerox PARCのRobert MetcalfeらはALOHANETの原理を応用し、ネットワーク媒体として1本の電線だけを使い、その電線にすべてのノード(「ノード」とは、コンピュータやブリッジなどネットワークにつながる機器の総称)を接続する「イーサネット(Ethernet)」を開発した。イーサネットはALOHANETと同様に、あるノードが送信したデータはネットワーク媒体につながっているすべてのノードに届くため、データには宛先を付け、自分宛のデータかどうかを判断する。また、複数のノードが同時に送信すると、信号が重なり合ってデータが破壊されてしまう。これを「衝突(collision、コリジョン)」という。

 ALOHANETでは、送信したノードが衝突を検出できないので(電波の特性上、自分が電波を出していると、それが強すぎて、ほかの電波を検出できない)、データの送信の度に相手からの確認応答を待つ必要がある。そのため、衝突が起こらない場合でもデータと応答の伝送時間がかかるうえ、衝突が発生した場合には確認応答の待ち時間を必要とするなど、あまり効率がよいものではなかった。

 イーサネットはこれらの点を踏まえて、CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)というアクセス制御方式を採用している。CSMA/CDとは、衝突が発生しないようにデータを送信する方法であるCSMAと、衝突の発生を検出する方法であるCDを利用して通信を行う方法である。

 CSMAとは「ノードが送信をするときには、まず、伝送路の状態を確認し、伝送路が空いていれば送信を開始する。もし空いていなければ、空くまで待ってから送信をする」というものであり、CDは「送信中は伝送路に自分が送っているデータと同じデータが流れているか監視する。もし異なるデータが流れている場合は、衝突が発生したと判断する」というものである。衝突を検出したときには、送信を中止し、各ノードはランダムな時間だけ待ってから、再度、データの送信を開始する。

 このように非常に単純な通信モデルであるが、ネットワークの利用率が低ければ衝突もそう多くは起こらず、複数のノードが自由に送信を行うことができる。

CSMA/CD

CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)は、衝突が発生しないようにデータを送信するためのアクセス制御方式であるCSMAと、衝突の発生を検出する方法であるCDを利用して通信を行う方法である。ALOHANETの通信モデルに似たアクセス制御方式を採用している。異なるのは、自分が送信したデータをモニタ(監視)していて、信号が異なっていれば、送信が衝突したと判断すること。


ネットワーク・トポロジー

 イーサネットは1本のケーブルにすべてのノードを接続するという、バス型のネットワーク・トポロジーを採用している。トポロジー(topology)とは、位相数学とか、図形や空間のつながり具合というような意味で、ネットワーク・トポロジーとは、各ノードをどのようにネットワーク媒体に接続するかといった物理的な配置と、その構成要素がどのようにして通信するかを表すものである。バス型のほかに、スター型、リング型が主に利用されている。

 バス型は、最もシンプルなトポロジーであるが、1度に1つのノードしか信号を送信できないため、各ノードでネットワークの利用時間を分割することになる。そのため接続されるノードの数が増えると、それに応じてネットワークのパフォーマンスが低下することになる。また、1つのノードに故障が発生してもネットワーク全体には影響を及ぼさないが、ケーブルが切断されるとネットワーク全体が停止してしまう。

 スター型は、1つのノードを中心として放射状に各ノードを接続する。これはメインフレームに端末を接続する場合などに用いたトポロジーである。すべてのノードを中央のノードで集中管理できるので、バス型のようなパフォーマンスの低下はなく、中央以外のノードに異常が発生してもネットワーク全体には影響を及ぼさないという利点があるが、中央のノードが故障するとネットワーク全体が停止してしまうという欠点がある。

 リング型は、ループ状の1本のケーブルに各ノードを接続するもので、光ファイバ・ネットワークなどでよく使われる通信モデルである。信号は1方向にのみ流れ、各ノードは信号を受信すると、必要な処理をして、信号を次のノードに送り出す。そのため、どのノードも公平にネットワークを利用する機会が与えられるが、1つのノードが故障するとネットワーク全体が停止する。

ネットワーク・トポロジー

主なトポロジーとして、1本のケーブルにすべてのノードを接続するバス型、1つのノードを中心として放射状に各ノードを接続するスター型、ループ状の1本のケーブルに各ノードを接続するリング型がある。


ネットワークの範囲による分類

 Xerox PARCは1980年にイーサネットシステムの販売を開始した。イーサネットはオフィスや大学の中など、比較的近くにあるコンピュータ同士を接続するネットワークとして設計されていた。最初のイーサネットは、最長1kmで、100台までのノードを接続することができ、転送速度は約3Mbits/sという仕様であった(一般的には、10Mbits/sのものから広く普及が進んだ)。このような比較的狭い範囲をカバーするネットワークをLAN(Local Area Network:「構内ネットワーク」などと訳される)と呼ぶ。一方、CATVのような都市や地域をカバーするネットワークをMAN(Metropolitan Area Network)と呼ぶ。また、国内の離れた地域間や、国外とを結びつけるような広い範囲をカバーするネットワークはWAN(Wide Area Network:「広域ネットワーク」などと訳される)と呼ぶ。電話回線網などがWANの代表例である。このようにネットワークがカバーする範囲(距離)に応じて分類されるのは、範囲に応じて使われる技術が異なるためである。

ネットワークの範囲による分類

ネットワークはカバーする範囲に応じて使われる技術が異なり、LAN(オフィスや大学の中など)、MAN(都市や地域)、WAN(離れた地域を結びつける)と分類される。


 イーサネットはその敷設が容易であり、安価であったため、LANにはうってつけであった。Xerox以外でもイーサネットの販売を行う会社が現われていった。イーサネットの開発者であるRobert Metcalfe自身も3Comという会社を設立して、イーサネットの販売を始めている。

 1980年代前半、あらゆる大学がワークステーションを導入し、その上ではUNIXを使い、イーサネットを用いてLANを構築していった。そして、LANではTCP/IPが積極的に使われていった。1983年からARPANETのプロトコルはTCP/IPに統一されていたため、TCP/IPを用いた数多くのLANは、ARPANETに接続することによって、LAN同士の相互接続を行うことができた。こうして、ARPANETを中心に多数のネットワークが相互接続した、ARPAインターネットと呼ばれる、巨大なネットワークが誕生していったのである。

今回のまとめ

  • TCP/IPは、仕様がオープンであり、特にBSD UNIXに実装されたことによって、普及が進んだ。
  • イーサネットは、1本のケーブルに複数のノードを接続するという、バス型のネットワーク・トポロジーを採用している。
  • イーサネットでは、CSMA/CDという、比較的単純なアクセス制御方式を使っている。これは、他のノードが送信中でない場合に限って送信を開始し、衝突が発生すれば、ランダムな時間だけ待ってから再送信するという方法である。


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