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私だけ不当に評価が低い。どうして?ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス(6)(2/2 ページ)

常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。

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「すべてやります宣言」してみよう

 とにかく私はSEに、目標面談をきちんと受けるように提案しました。それにはまず書類を作らないといけません。書類に記入する目標は、キャリア目標、チーム目標、ビジネス目標の3つです。SEはいいます。「何を書いていいのか、よく分かりません」

 「キャリア」「チーム」や「ビジネス」という言葉は、会社の目標管理でよく出てきます。難しく聞こえますが、キャリアは「わたし」、チームは「あなた」、ビジネスは「みんな(会社)」、この言葉に置き換えられます。

 キャリア目標には、SE自身が仕事で得たいと思うことを書きます。チーム目標にはSEがメンバーのために役立つと思うことを書きます。ビジネス目標は、SEが会社のためになると思うことを考えて書くことになります。SEはこれを聞いていいました。「自分に理解できる言葉にすれば、書きやすくなりますね」

 そのとおりです。難しい言葉が出てきたら、自分に分かるやさしい言葉に置き換える。こうすると理解のスピードがアップします。

 そして私はSEに、上司や会社が要求していることを「すべてやります宣言」して書類を作ることも提案しました。

 「うーん、難しい……。でもやってみます」

 数日後にSEは書類を完成させて、上司と目標面談をしました。面談はスムーズに終わりました。その後SEは、樋口研究室のオフィスに来るたびに、私と一緒に「すべてやります宣言」を実行しているかどうかをチェックしました。

 そして1年後の今日、SEが手に入れたもの。それが「A評価(とても良い)」だったのです。「上司は私に、『よく頑張った』といってくれました。うれしかったです」

あらゆる方向から自分を眺めてみる

 自分の成果がなかなか認められないというケースは、よくあると思います。こういう状況で困ったら、自分がどう感じるかだけでなく、相手が自分をどう見ているかを考えてみてください。

 そのために役立つ方法が、いまから解説する「三次元ビューチェンジ」です。この方法を使うことで、相手とのズレを見つけ、修正のきっかけをつかむことができます。

図1 三次元ビューチェンジ
図1 三次元ビューチェンジ

 自分を前や後ろから眺めることを「前後ビュー」といいます。前から見る人は前進を優先する行動派の人、後ろから見る人は事例を優先する慎重派の人です。

 左や右から眺めることを「左右ビュー」といいます。左から見る人は変化や改革を好む革新派の人、右から見る人は安全や維持を好む保守派の人です。

 上や下から眺めることを「上下ビュー」といいます。上から見る人は全体像を知りたいと思う親分型の人、下から見る人は一緒に土台を築いていきたいと思う子分型の人です。

 三次元ビューチェンジを試して、自分と相手のズレを発見したら、それを少し自分の考え方に付け加えながら仕事をしてみてください。相手からの評価が少しずつ良くなってくると思います。

 これを聞いて、SEはいいました。「自分のことも重要だけど、相手のことも考える。これが重要なのですね」

 そのとおりです。自分の価値も大切にする、相手の価値も大切にする。この2つのバランスが取れていると、食い違いや失敗を未然に防ぐことができると思います。

 いつも多角的に自分を分析できるようになると、それがメンタルヘルスを正常に保つスキルになります。ぜひこの方法を使って、自分をいろいろな方向からチェックしてみてください。

筆者紹介

樋口研究室

樋口節夫

日本アイ・ビー・エムに22年間勤務し、その後独立。アーキテクトとしてメインフレームからオープンシステムまで幅広いシステム構築に携わった経験から、コンピュータシステムの良しあしはそれを使う人間の良しあしによって決まることを発見。人間のパフォーマンスアップツールとしてITコーチング手法を開発し、人材開発およびテクニカルコンサルタントとして活躍中。『ITコーチング入門―SE・ITエンジニアのための問題解決とスキルアップ』(技術評論社刊)をはじめ、技術系や人材系の著書多数。主宰する樋口研究室では、ITエンジニアが危機から身を守るための練習会(ワークショップ)も実施している。



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