常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。
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決断する。どんなときでも大切な行動です。でも、いざ決断が必要となったら、結構迷ったり悩んだりしませんか。
自分が決めないといけない。でも、どうやって決めたらよいか分からない。そんな迷いが積み重なってくると、メンタルヘルスにも悪影響が出てきます。今回は、大切な決断をしないといけなくなったとき、正しい判断をする方法を考えてみましょう。
福岡のIT企業に勤めている、入社して7年目の男性エンジニアの事例です。彼はお客さまのプロジェクトでサブリーダーをしています。彼がいつも悩むのは、自分の決断の遅さです。選択肢が出てきて、どれかに決める段階になると、必ず決断をするのが遅れる。彼は何とかこれを改善したいと思っています。
彼は、平日の夜の約束の時間になると、樋口研究室オフィスに電話をかけてきます。22時ちょうど。今日も時間ぴったりにオフィスの電話が鳴りました。
「もしもし……」。あれ? 今日の彼の声、何だかハリがないな。何か気がかりなことを抱えているようです。私は尋ねてみました。
「迷っています。いまの会社を辞めようかどうか……」
何と、会社を辞める? 突然の話だったので、さすがに私も驚きました。彼と私は毎週話をし、問題が出てきたらすぐに一緒に対策を考えています。だから私の知る限り、大きなミスはしていないはずなのですが……。何かあったのかもしれません。
「退職した先輩から、新しい会社に来ないかというお誘いを受けたのです」
なるほど、彼の心を迷わせるに十分な内容です。でも私には、その会社が良い会社なのか悪い会社なのかまったく分かりません。どうしようかな。私も一瞬、迷ってしまいました。彼は話を続けます。
「これを逃すと、二度とチャンスが来ないような気がして。もう後悔したくありません……」
もう後悔したくないというぐらいですから、過去にとてもくやしい思いをしたに違いありません。実は彼には、決断の遅さで後悔していることが3つありました。
最初の後悔は、彼が大学生として就職活動をしていたときに起こりました。IT業界が西暦2000年問題の対応で揺れていたそのころ、大卒の求人数は史上最低だったそうです。
彼は、いろいろな業界について研究しました。でも調べれば調べるほど、自分がどの会社に行きたいか、自分が何をしたいのかが分からなくなっていったそうです。迷った揚げ句、彼は大学院に進むことにしました。就職難という理由もあったかもしれませんが、もう少しじっくり自分の進む道を考えたい、そう感じて大学院に進んだそうです。
そして2年後。結果的に自分の道は発見できませんでした。彼はそのときのことを思い出しながらいいます。
「結局、時間稼ぎをしただけ。決断から逃げたのかなあ、そう感じました」
2つ目の後悔は、彼が入社して3年ほどたったときに起こりました。会社で早期退職制度の募集があったそうです。彼は勤続年数が少ないので、この制度の対象にはなりませんでした。でもこのとき、彼はかなり驚いたそうです。尊敬していた先輩やスキルの高い社員が、早期退職の割増金をもらって、どんどん会社を辞めたり独立したりしていったのです。彼はいいます。
「こ、こんなにたくさんの人が会社を辞めて、ほんとにいいの? そう思いました」
彼は当時、目の前の仕事をこなすので精一杯でした。だからなぜみんなが会社を辞めていくのか分からなかったそうです。でも後になって考えると、その意味も分かってきたといいます。
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