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日本伝統の島型オフィスは本当に正しいのか特集:ITエンジニアを変えるオフィス(5)(1/3 ページ)

あなたのオフィスに「島」はあるだろうか。日本のオフィスのほとんどは「島型」である。伝統的なこの形式は、果たしてナレッジワーカーにとって理想的といえるのだろうか。島型オフィスが普及した背景と、現代における「変形島型オフィス」の可能性を探る。

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 日本のオフィスは「島型」。この島型という言葉、聞いたことがあるだろうか? 実例をお見せしよう。

写真1 日本伝統の島型オフィス
写真1 日本伝統の島型オフィス

 なーんだ、うちのことか、と納得される方が多いだろう。それもそのはずで、日本のオフィスの90%以上がこのレイアウトを採用している。地域や組織の種類は問わない。官庁でも学校でも会社でも同様である。

 写真1の場合、上司は左端に座って全体を見渡せるようにする。このようなレイアウトを島型対向と呼ぶ。向かい合った(対向した)机の集合が1つの島を形成している。島型オフィスを英語ではアイランドオフィスと呼んでいる。

■島型対向オフィスの利点と欠点

 このようなレイアウトを採用する利点の1つは、電話機が少なくて済むことである。この場合は机の角同士が合わさる3カ所に合計3台で足りる。かつて電話機がまだそれほど普及していなかった時代には、非常に便利なレイアウトであったと思われる。またワーカー同士が互いに向き合って顔を見合わせているため、グループ内で情報が行き渡りやすいというメリットもある。情報の点で親密なグループを作ることが可能になる。

 欠点としては、共有された情報がグループの外には出にくいことが挙げられる。1つの島だけで1つの閉鎖的な空間・社会を形成し、排他的になりがちである。また、島ごとに係長や課長がおり、その背後には部長が控え、何人もの管理職の後ろには社長が控えている……という複雑な階層構造が存在する。そのため組織全体として情報の流通が非常に悪くなり、会社全体の意思決定が遅くなるという欠点がある。

 しかし、この欠点は長所でもある。ピラミッド型の階層構造そのものがオフィスレイアウトに表現されているというのは、便利なことである。例えば、その会社に入ってきた外部の人はオフィスを見れば上司がどこに座っているかすぐに分かる。これは優れたシステムと考えてよい。だからこそ日本では長いこと、この島型に慣れ親しんできたのであろう。

 ここで、設問「オフィスは島型で本当にいいのか?」に答えねばならない。

 その答えは「少し変えたらOK」だ。具体的にいうと、変形島型がお薦めだ。説明しよう。

ワークスタイルは変化した

 会社組織は、相変わらず課長だとか部長だとか、ヒラからトップまで階層構造が存在する。あるいはその隠れみのみたいにチームリーダーとかマネージャなどと呼んでいる。しかし、何十年も前から比べれば少しは変わって、上司が少なくなったのではないか。

 これを「階層構造の階層が少ない」という。いままで5階建てだったものが4階建てくらいには変わった、という程度だ。

 それよりもこの10年間での大きく様変わりした点がある。「情報のネットワーク化」である。LANケーブルでオフィス全体が、そして会社全体がネットワーク化されてしまったことだ。社内で見知らぬ人同士が1つのプロジェクトを進行させることはよくあることだ。

 こうなると上司は端に座って全体を見渡せても、自分の部下が何をしているのか把握不可能になってしまった。簡単にいうと、ワークスタイルが変化したのである。

集中を妨げる「視線」

 もう1つの変化は「価値観の違い」だ。プライバシー尊重である。島型オフィスで何がイヤかというと、上司や同僚の視線だ、という時代なのである。ふと目を上げると同僚や上司の視線のせいで考えが中断されたり、気まずさを感じたり、という経験は誰でも持っているはずだ。仕事のクオリティを上げるために集中しているときは、この視線をどうにかしたいものである。その方法を個条書きにしてみよう。

  • 話をしたかったら、自分が視線を合わせればいい
  • 1人ひとりの周りに個人の空間を設け、互いの視線を外す。そうすると集中力が上がる
  • 正面からの視線はお互いに攻撃的。気まずい
  • 自然に視線を外せるような位置取りが好まれる
  • 目に入る情報をすべて受け止めると、パンクする

 まとめると、視線の取捨選択をしたいのである。すなわち、視線のオンオフができるような仕掛けをオフィスのレイアウトに設けたいのだ。

アメリカがまねした日本のオフィス

 筆者は次のような実験を行ったことがある。

 2つの場所(東京都と岐阜県)にそれぞれ異なるオフィスがある。1つは日本伝統の島型オフィス。写真2は、島型オフィスでの視線の調査の様子である。

写真2 島型オフィスでの視線の調査。アイカメラを装着
写真2 島型オフィスでの視線の調査。アイカメラを装着

 もう1つは、アメリカ式島型オフィスを設置し、あらかじめ1年以上使用したオフィスである。

 実は、アメリカにも島型オフィスは存在する。というか、すごく学ぶべきものがある。これは、ずばり日本の影響である。

 1980年ごろから、アメリカで島型オフィスについてかなり検討された時期があった。当時は日本に比してアメリカの対GDP比財政赤字がひどいものであった。日本の経済的な繁栄に対し、アメリカは学ぶべきものは学ぶ、という姿勢であった。その1つにナレッジワーカーのオフィス環境があった。

 当時、日本のオフィス環境のひどさは(いまでも大差ないが)大変なものだったので、筆者は学ぶべきものなどあるのかと気になっていたものだった。

 そのアメリカ人にとって「学ぶべきもの」とは、オフィスレイアウトだった。

 島型レイアウトは日本では存在するが、外国ではまず目にしない。当時、欧米諸国で主流だったのは個室である。1人が1つのコーナー、あるいは部屋に入るというものである。これは広い国土を持つアメリカや人口の少ないヨーロッパだからこそできることであり、当時の日本人はそれを大変うらやましく思ったものである。

 しかし、1人が1部屋に閉じこもることが本当に良いかというと、必ずしもそうとはいえなかった。当時のアメリカでは情報の流れの悪さが問題になり、島型対向を参考に、アメリカ人独自の島型オフィスがつくられた。それが写真3のようなオフィスである。これはなかなかのものだ。なにやら、日本得意のコンパクトカーを思い起こすものとなっている。

写真3 アメリカ式島型オフィス(野呂研究室)研究室ではこれを「四つ葉のクローバーオフィス」と呼んでいる(スチールケース社製)
写真3 アメリカ式島型オフィス(野呂研究室)
研究室ではこれを「四つ葉のクローバーオフィス」と呼んでいる(スチールケース社製)

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