検索
連載

「SI⇒Web」転職は可能? 技術者に必要な能力と意識特集:岐路に立つIT技術者たち(3)(2/2 ページ)

SI企業とWebサービス企業は、求められるスキルや考え方にさまざまな違いがある。SI企業で働いてきたエンジニアがWebサービス企業へ転職する際、どんなスキルや考え方が要求されるのか? DeNAで採用と育成を担当するエンジニアが語る。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

Webエンジニアは「使いやすさ」にこだわる

 次に、「使いやすさへのこだわり」について見ていこう。SI企業で働いていたエンジニアの応募書類を見ていると、「SI業務の大部分は社内業務システムの開発」という印象がある。DeNAでも、社内業務向けのパッケージソフトウェアをいくつか導入しているが、中にはものすごく使い勝手の悪いものがある。

 「自分たちで作ったら絶対こういったユーザビリティにならないのに」と思うが、逆になぜそういうユーザビリティになったか推測してみると、「業務システムは会社のルールで使わざるを得ないからではないか」という結論に至る。

 末端のユーザーには、業務システムを選ぶ権限はない。業務をシステム化することが重要で、表示の分かりやすさ、ボタンやリンクの位置、画面遷移のシンプルさなど、細部でどれくらい使いやすいかは、それほど重視されていないのではないか。

 一方、コンシューマ向けのサービスでは、同じことができてかつ使いやすいWebサービスがあれば、ユーザーはどんどんそちらに移ってしまう。そのため、Webサービスを作るエンジニアは、いつもユーザーの立場に立ち、細かい使い勝手を追求している。「使いやすさへのこだわり」が必要なのだ。いままでこういったことを意識せずシステム開発をしてきたエンジニアの場合、ここにもギャップがあるのではないだろうか。

スモールスタートとスケーラビリティを意識する

 最後に、「スモールスタート」と「スケーラビリティ」について解説する。

 受託開発の場合は、顧客企業の依頼に基づいて開発を始める。少なくとも契約があるので、「開発したのにコストを回収できない」ということはない。一方、Webサービスの場合、開発してもユーザーに受け入れられなければ、開発に掛けたコストは回収できない可能性がある。そうした背景もあり、わたしたちはWebサービスを「小さく」始める。

 システム投資を最小化するために、少ないサーバを使ってなるべく商用ソフトウェアを導入せずに開発する。特定の商用製品に依存せず、適切なオープンソースソフトウェアを組み合わせて、あるいは独自開発したものをベースに開発を進められる力が求められる。スキルが特定の製品に依存しているエンジニアの場合、ここにまたギャップが生じる。

 一方で、サービスが当たると、予想を超えたスピードで成長していく。それを想定せずに設計・実装していると、成長に応じて大幅にシステムを改修する必要が出てきてしまう。場合によってはトラフィックに耐えられず、システムが停止してしまうこともありえる。

 極端なことをいうと、すべてのWebアプリケーション開発者は、性能やスケーラビリティを考慮しながらアプリケーションを開発することが求められる。単に必要なロジックが実装できればいいわけではない。負荷対策のため、自分が動かしたいプログラムの1つ下のレイヤ、あるいは別のコンポーネントまで把握することが必要になる。

SIからWebサービスの世界へ

 恐らく、こういったスタイルの開発を業務内ですべて経験しているSI企業のエンジニアはほとんどいないのではないか。ただ、Webサービスに興味を持つエンジニアであれば、業務とは関係なく使いやすいWebサイトを見つけて使っていたり、その使いやすさがどのように実現されているか調べたり、あるいは自分でサービスを開発する際に活用できそうなオープンソースソフトウェアやプログラミング言語を見つけて試用したりしている。これはそのまま、そのエンジニアの能動性にもつながっている。

 Webサービスの世界は、常に新しいものを生み出していくことが求められる。未経験のことであってもためらわず飛び込んでいく思い切りの良さ、垣根を作らず知識を吸収できる好奇心、そこで成果を出していくことにこだわる粘り強さがあれば、上記のようなスキルは後からついてくる。

 こうした部分は、職務経歴書に表れず、採用する側としては見極めに最も苦労する部分ではある。とはいえ、一番重要なのは、「新しいものにどん欲にチャレンジする力」「現状に満足せず自分自身を成長させられる力」なのだ。

 なんといっても、自分で作るべきものを考えて、自らコードを書いて実現できる環境がここにある。そういう環境で働くエンジニアになりたいということであれば、いままでの経験にとらわれずチャレンジしてみるのが第一歩である。それは転職であっても、自宅でのトライであっても、どちらでもよいはずだ。

著者紹介

能登 信晴 (のとときはる)

ディー・エヌ・エー システム統括本部 技術戦略部 部長。システム統括本部 技術戦略部 部長。1996年、慶応義塾大学環境情報学部 (SFC)卒業後、日本電信電話(NTT)入社。情報通信研究所、サイバースペース研究所にて検索エンジンの研究開発に従事。2004年、ディー・エヌ・エーに入社し、以来「ポケットビッダーズ」「ポケットアフィリエイト」「ペイジェント」「モバオク」「モバコレ」などのサービス開発・運用に関わる。

インタビュー記事:『マネジメントとは「自分の環境を作る仕事」だ』(@IT自分戦略研究所)



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る