長らく続いた不況に、ようやく終わりの兆しが見えてきた。しかし、景気が回復したとしても、リーマンショック以前並みに案件数が増えることはもはやないだろう。環境の変化に対応するために、いまITエンジニアは「これから進む道」を考える岐路に立っているのではないだろうか。「スキルアップ」以外の選択肢、「別の道」の可能性を探る。
2008年のリーマンショック以来長く続いた不況に、ようやく終わりの兆しが見えてきた。内閣府が発表した2010年2月分の景気動向指数(CI)によれば、景気の現状を示す一致指数は11カ月連続で上昇している。内閣府は「景気は改善している」との判断を示した。景気の動きについてはさまざまな見方があるが、「改善とまではいかないが、少なくとも底を打った感がある」という意見が増えつつある。
「景気が回復したら、以前のように仕事ができるようになるのか。それとも別の道を模索しなければならないのか」――多くのITエンジニアが不安や疑問を抱えていることだろう。景気の流れを受けて、SI業界は今後どのように動いていくのか。そしてSI業界の動きは、ITエンジニアの働き方にどのような影響を与えるのだろうか。本特集「岐路に立つITエンジニアたち」では、いくつかの「道」を提示していく。
まずは、SI業界の現状から確認しよう。経済産業省が発表する「特定サービス産業動態統計調査」によれば、調査を開始した1994年以来、「受注ソフトウェア」の売り上げは増加の一途をたどってきた。2008年度には売り上げ総額が約6兆7000億円と、過去最高記録をたたき出した(図1)。
しかし、2009年度の売り上げ総額は一気に転落、前年比93.7%と過去最大の落ち込みを見せた。厳しい現状については、多くのITエンジニアたちが実感していることだろう(参考:「危機感抱え、スキルアップに余念がないエンジニア」)。
次に、ユーザー企業の動きを見てみよう。ユーザー企業はリーマンショック以降「コスト削減」が経営上の急務となり、IT予算を含むコストを急激かつ大幅にカットした。
どれぐらいコスト削減したのかを見てみよう。図2は、IT予算の「予想額」と「実施額」のDI値(増加割合−減少割合)を示している(出典:社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT 動向調査2010」)。
IT予算のDI値は、「対前年比でIT予算を増やす」という回答の割合から「対前年比でIT予算を減らす」という回答の割合を引いて算出する数値だ。これまでずっとプラスだったIT予算のDI値が、2010年度予想で初めてマイナスに転じた。これはつまり、「IT予算を減らす」企業数が「IT予算を増やす」企業数を上回ったことを示している。このことから、多くのユーザー企業が2010年も引き続き「低予算」路線を維持することがうかがえる。
だが、悪い話ばかりではない。計画費において、大企業クラスがIT予算を復活させる動きを見せている。2009年には、売り上げ規模が大きい企業ほど大胆なコスト削減を実行した。早期に予算削減をした分、大企業の予算回復は早い。この動きはやがて、中小企業クラスにまで緩やかに波及していくだろう。
では、IT業界の市場はいつごろ本回復するのだろうか。ガートナー ITデマンド・リサーチによれば、景気回復とIT投資は相関関係にあり、「景気回復の兆しが見えた2〜3年後にIT予算が復活する」という傾向があるという。もし、2010年に経済成長率が1%半ばまで回復し、2011年度以降に2%台にまで回復すると仮定した場合、「日本のIT市場規模が本回復するのは2013年以降」と、同社は予測している。
「2013年ごろに、IT市場は本回復する」――。しかし、「本回復」は「以前と同じように回復する」という意味ではない。たとえ売り上げ規模がリーマンショック以前並みに回復したとしても、システムの受注開発案件はそれほど増えないことが予想される。
その理由として、「ユーザー企業によるIT予算の使い方が多様化している」ことが挙げられる。不況時、ユーザー企業は率先して「開発費」を削減した。計画比で見ると、2009年度の「開発費」は前年比マイナス20%と大幅に減少している(表1)。新規システム開発を控えている間、ユーザー企業は「クラウド」「仮想化」といった新技術への興味を強めた。仮想化技術やクラウドを導入した企業はまだそれほど多くないが、事業規模が大きい企業ほど導入に積極的な姿勢を見せている(参考)。
開発費 |
保守運用費 |
合計 |
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10年度予測 |
575 |
826 |
1401 |
09年度計画 |
571 |
841 |
1412 |
08年度計画 |
716 |
824 |
1539 |
表1:一企業当たりの開発費と保守運用費
社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT 動向調査2010」より抜粋
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興味深いのが、新技術導入における「経営方針の二極化」だ。大企業を中心に「新技術の導入を実施・検討している」企業の割合が高くなる一方で、「新技術の導入予定は今後もない」という態度を貫く企業も一定数存在する(参考)。
これらの状況から分かるのは「景気が回復しても、不況前と同じような仕事内容、仕事量には戻らない」ということだ。
景気はこれから1〜2年かけて緩やかに回復する。開発案件も一定数復活するだろう。しかし、人数と時間をかけた大規模開発はぐっと少なくなる。もしITエンジニアとして今後生き延びていくのなら、変化した情勢に対応できる人材になる必要がある。
ITエンジニアはいま、これからの道を考える「岐路」に立っているのではないだろうか。本特集では、環境の変化に対応するために動き始めた人々がたどる「2つの道」を提示する。
1つが「転職」という道だ。極度の冷え込みを見せた転職市場にも、ようやく動きが出てきた。特に、Web系企業などの求人の動きは目ざましい。「とにかく働きたい」というSI出身の技術者が、Web系企業へ転職する流れが出てきている。
もう1つの道は、「新サービスを立ち上げる」というものだ。SI企業内でクラウドサービスを立ち上げて、環境の変化に対応したサービスを提供しようとする動きが出てきている。
転職をして「外部環境」を変えるか、それともSI企業にとどまって「内部環境」を変えるか――。「スキルを磨く」以外の選択肢、「別の道」の可能性を、5月10日から14日まで全5回にわたって追いかけていく。
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