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フェムトセル無料配布で浮上した「ただ乗り」問題ものになるモノ、ならないモノ(42)(1/2 ページ)

ソフトバンクモバイルが通信品質改善策の一環として打ち出した、フェムトセルの無料配布。それがトラフィックの「ただ乗り」だとしてプロバイダ各社の怒りを招いている

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「救世主」のはずのフェムトセル無料配布が……

 いまやTwitter上の流行語ともなったソフトバンク社長の孫正義氏の「やりましょう」が原因となり、プロバイダ業界関係者が怒りに打ち震えていることをご存じだろうか。

 孫氏は、ソフトバンクモバイル(SBM)の携帯電話インフラに関して「電波が弱い」「圏外が多くて困る」「速度が出ない」といったユーザーの不満を解消すべく、3月28日の同社イベントでフェムトセル(家庭向けの小型基地局)の無料配布を公約した。この場で、基地局増設計画やWi-Fiスポット拡充などとの合わせ技による通信品質改善策をブチ上げたのは記憶に新しい。

 そして2010年5月21日から、「ホームアンテナFT」というサービス名称でフェムトセルの受付を開始した。ユーザーのフェムトセル無料配布に対する期待度はかなり高いようで、ネットやTwitter上には、賞賛の声が多数上がっている。SBM広報では「申込数は非公開」としているが、SBMと協議中のあるプロバイダの関係者が受けた説明によると「数千の申し込みがある」ということらしい。

 「数千」という申し込み数を多いと見るか少ないと見るかは、ほかに判断基準がないので何ともいえないが、SBMユーザーで宅内圏外に悩む人からすると、今回の無料配布策は救世主降臨にも思える措置なのかもしれない。

 そういえば、SBMは以前より「ホームアンテナ」という名称で、従来型の中継器を1万2000円(2年の縛りあり)で販売していた。「ホームアンテナ」ユーザーには、今回のフェムトセル版「ホームアンテナFT」の開始によりキャッシュバックが実施されるそうだ。

 従来型の「ホームアンテナ」は電波の中継器だ。これに対しフェムトセル版「ホームアンテナFT」は、携帯電話からのトラフィックを家庭に引き込まれたブロードバンド回線に流すので、その仕組みはまったく異なる。

 実は、フェムトセルの持つこのような仕組みが、今回の問題を大きくした。ブロードバンド回線を利用するということは、携帯電話からのトラフィックは当然ながら、ほかのプロバイダを経由してインターネットに抜けていく。プロバイダ側はこれを「ただ乗り」と表現して怒りをあらわにしているのだ。

一方的なやり方に怒り心頭のプロバイダ

 SBMが当初公表した内容では、フェムトセルの申し込みを受け付ける推奨ブロードバンド回線として、Yahoo! BBやNTTのフレッツ光ネクスト系サービスが明記されていた。すべてのフェムトセルユーザーがこの推奨ブロードバンド回線を利用するのであれば、ほかのプロバイダのネットワークをSBMのトラフィックが通過することはない。

 Yahoo! BBの場合は同じグループのインフラ内で処理されるわけだし、フレッツ光ネクスト系に関しては、フェムトセルのトラフィックを流すためのSBM系専用プロバイダをNTTのネットワークにつなぎ込むからだ。SBMは推奨ブロードバンド回線において、ネットワークの使用料として、NTTに対し「月額300円程度」(ある関係者)を支払うそうだが、これはあくまでもアクセス回線のみに限った話。

 問題は、SBMが推奨ブロードバンド回線以外のユーザーからの申し込みも受け付けている部分にある。推奨以外のブロードバンド回線にフェムトセルが接続されると、そのトラフィックは、「フェムトセル」→「ブロードバンド回線」→「プロバイダ」→「インターネット接続ポイント」→「SBM」と流れ、プロバイダからすると「ネットワークをただ乗りされる」ことになる。プロバイダの怒りの原因はここにあるのだ。

フェムトセルでのトラフィックの流れ
フェムトセルでのトラフィックの流れ

 プロバイダ側も「いたずらにフェムトセルを拒否して普及を阻止しようなどとは思っていない」(大手プロバイダ関係者)というが、「突然『推奨ブロードバンド回線以外でもフェムトセルを始めるのでよろしく』といった趣旨の通知メールがSBMから送付されてきただけ」(大手プロバイダ関係者)で、一方的なやり方に怒り心頭といった様子なのだ。

 実際、関西電力系のケイ・オプティコムでは、自社のホームページに「ソフトバンクモバイル社フェムトセル基地局に関するご注意につきまして」という形で文書を公開し、自社ユーザーに対し注意喚起を行っている。内容を読むと、いい方はソフトだが、要は「フェムトセルは、SBMが一方的にいいだしたもので問題があるから導入するな」といっているわけで、SBMのサービスを名指しでけん制するあたりに立腹度がうかがい知れる。

 さすがの事態に、総務省、プロバイダー協会、電気通信事業者協会などが、SBMのこのようなやり方を問題視したこともあり、SBMは慌てて主要プロバイダに対し話し合いを申し入れ、現在進行形で協議中のようだ。

 ただ、あるプロバイダの幹部は、SBMがプロバイダとの話し合いを待たないまま、推奨ブロードバンド回線以外のサービス提供を発表し受付を開始したことを「確信犯でやっているのだろう」と推測しているという。

 孫氏としては、インフラの増強をぶち上げたイベントから時間が経過してしまったのではインパクトが弱くなるので、できるだけ早期に始めたかったはず。しかし、プロバイダ側との事前協議を持っていたのでは、次に挙げるような問題を1つひとつ調整しなければならず、とても短期間での発表と受付開始はおぼつかない。まさに、Twitterの「やりましょう」のノリの延長線上で、根回しを省略して結論から先にブチ上げたことで、騒ぎが広がったわけだ。

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