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お願い、おわび、催促の文書は相手の立場に立って文章コミュニケーション・リファクタリング!(7)(3/3 ページ)

「文章下手」が原因で、コミュニケーション不全に陥ったことはないだろうか? 言葉足らずで相手の誤解を招いたり、指示がまったく伝わっていなかったり……開発現場を改善するための「文章コミュニケーション」方法を紹介。

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催促するときは脅しにならないように

 エンジニアに限らず、社会人として仕事をしている人なら、誰かに依頼したこと(仕様や文書内容、文書形式の検討・確認の依頼、開発に必要な情報の収集の依頼など)を依頼した相手がなかなか進めてくれないときに、早く済ませてくれるように催促する文書を書かなければならないことがよくあります。

 しかし、誰かに何かを催促する文書を書くときは、表現に細心の注意を払わなければなりません。まず、約束を守らないからといって、相手を非難したり責めたりするような表現は禁物です。相手も人間です。自分に非(落ち度)があるとはいえ、叱責されると感情を害するおそれがあります。こうなってしまうと、話がこじれてしまうでしょう。

 催促の文書は、相手にできるだけ気持ちよく、自分が依頼したことを実行してもらうような表現を使うべきです。例えば、現状、自分が困っているので努力をしてほしいということが伝わるような表現にします。そうすれば、相手も依頼を受けたことを早く済ませてくれるでしょう。

 また、相手に催促したりお願いしたりするのが苦手な人は、丁寧過ぎる、またはへりくだり過ぎる表現にしがちです。そのような表現では、相手も特別努力することなく放置状態が続いてしまうおそれがあります。

 重要なことは、できるだけ冷静な、客観的な表現で記述することです。また、催促の文書では、現状、事実関係、催促せざるをえない理由を明確に、具体的に記述することが必要です。

 5月15日にご依頼いたしました「ユーザーインターフェイスの変更内容の検討、確認」の件ですが、お約束の期日が過ぎたにもかかわらず、いまだ結果をお知らせいただけていません。
 このままでは開発に支障が生じ、スケジュールを延ばさなければならなくなります。
 ユーザーインターフェイス仕様は最終的にお客様に決定していただかなければなりません。お客様の決定がなければ、開発作業を進めることができず、スケジュールが後ろに延びていくことになってしまいます。
 仕様の確定の遅れによる開発スケジュールの遅延はお客様の責に帰すことになります。
 大至急ユーザーインターフェイスの変更内容を検討、確認し結果をお知らせくださるようにお願いいたします。


 このような表現では、読み手が文書を読んだときに、「非難を受けている」「脅されている」と感じてしまうでしょう。こうなってしまうと、感情的にこじれてしまいます。

 たしかに、上記の文面に書いてあることは正論です。顧客が使用を決定(承認)してくれないから作業が前に進まないというのは、エンジニアの多くが、その通りだと肯定できる考えです。

 しかし、“その通りの”の主張をそのまま(生のまま)ぶつけても、事はうまく運びません。ソフィスティケートされた(オブラートで包んだ)表現が必要です。

 表現のポイントを見ていきましょう。まず、1行目では、上記のように、いきなり直接的な表現をするのではなく、読み手を感情的にさせないために一拍置くような表現が必要です。

 また、自分たちの現状を簡潔な表現で伝え、このように困っているということを伝えます。読み手に現状を理解してもらうことは非常に重要です。

 さらに、いつまでに実行してほしいのか(いわば最後通告期限)を明確に記述することも必要です。期限を明示していないと、それまでと同じ調子でずるずると進んでしまうおそれがあります。

 以上の注意点を踏まえて書き直したのが下の例です。

 今回、5月15日に依頼させていただきました「ユーザーインターフェイスの変更内容の検討、確認」の件でご連絡いたしました。
 5月30日までに、ご検討、ご確認の結果をお知らせくださるように、依頼させていただきましたが、6月1日の時点でご連絡をいただけていないようです。
 現在、ユーザーインターフェイス以外の部分の開発作業を先に進めていますが、ユーザーインターフェイスの仕様が確定しないと、次のステップに進むことができません。開発スケジュールを遅延させないためにも6月8日までにユーザーインターフェイスの変更内容を検討、確認し結果をお知らせくださるようにお願いいたします。
お忙しいところお手数をおかけいたしますが、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。


著者プロフィール

谷口 功 (たにぐち いさお)

フリーランスのライター、翻訳家。企業にて、ファクシミリ通信網を使ったデータ通信システム、人工知能、日本語処理関連のソフトウェア開発、マニュアルの執筆などに関わる。退職後、コンピュータ、情報処理、通信関連の書籍の執筆、翻訳、各種マニュアルや各種教材の執筆に携わる。また、通信、コンピュータ関連のメールマガジンの記事、各種雑誌においてインターネット、パソコン関連の記事やコラムなども執筆。コンピュータや通信に関連する漫画の原作を執筆することもある。

主な著作は、『SEのための 図解の技術、文章の技術』(技術評論社)、『ソフト契約と見積りの基本がよ?くわかる本』『よくわかる最新 通信の基本と仕組み』(秀和システム)、『図解 通信プロトコルのことがわかる本』『入門ビジュアルテクノロジー 通信プロトコルのしくみ』(日本実業出版社)、『図解 ネットワークセキュリティ』『マスタリングTCP/IP IPsec編』[共著](オーム社)など。


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