生物学からMakerムーブメントまで、ニコニコ学会βの範囲がさらに広がる!:D89クリップ(61)(3/3 ページ)
インターフェイス系の研究が多かったニコニコ学会βが、生物学・データ分析などのセッションを加え、ますます広がった。10万人を集めた第4回シンポジウムをレポートする。
Makerムーブメントを可視化 Fab100連発
第4回ニコニコ学会βシンポジウムでは、Makerムーブメントについてのセッションも行われた。日本全国に散らばるFablabから5つの市民工房が集まって100連発を行う5thセッション「Fab100連発」セッション、そして自分たちでハードウェアを量産するベンチャー企業を集めた8thセッション 「ハードウェアベンチャー」である。
2011年に、日本で最初のFablabが、つくばと鎌倉に創立した。そこからまだ2年もたたない今、10を超えるFablab創立の動きが、日本全国に広まっている。また、Makerムーブメントと呼ばれる「すべての人が作る」、これまでの製造業と社会との関わり全体を変えていく動きが注目され、テレビでも連日特集が組まれている。
Fab100連発は、そのFabの動きに早い段階から取り組んでいた5つの市民工房が、それぞれの活動について20個ずつ紹介することで、Fab活動全体についての流れを総覧できるセッションだ。
の5つの市民工房が登壇する。IAMASの小林茂先生が座長、僕が司会を務めた。
座長の小林茂先生から、Fab活動全体に触れた解説をまず挟み、最初の登壇者であるFablab Kamakuraの渡辺ゆうかさんの発表が始まる(タイムシフト)。
Fablab Kamakuraは2011年に創設され、21世紀型の人材育成工房として活動している。鎌倉は地元の職人が多い土地で、Fablab Kamakuraのプロジェクトも木工職人、革職人といった職人とのコラボや、素材そのものと向き合うものが多い。
ニコ生のコメントが盛り上がったのが「メタボベルト」と「FUJIMOCK FES」。
「メタボベルト」は革のベルトの内側にレーザーカッターで焼き目を付けてどのぐらいウエストが増えてしまったのかを可視化してくれる。このデータはオープンソースで公開され、誰でもメタボベルトを作ることができる。
「FUJIMOCK FES」は、プロの木こりと一緒に富士山の間伐を行い、木材を切り出して製材し、作品に加工するまでの一貫した取り組みを行う。
Fablab鎌倉については、アイティメディアのMONOistで創設者の田中浩也先生にインタビューした際に、いくつかのプロジェクトについて紹介いただいたので、併せて読んでもらいたい。
2番目の登壇者が、FPGA-CAFE/FabLab Tsukubaのすすたわりさん(タイムシフト)。
作った作品でなく、FPGA-CAFE/FabLab Tsukubaのそれぞれの工作機械や、工房を成り立たせる課程について20個の発表を行った。
まず、物件を改装してFablabとするときの改装工事を自分たちで行う、その過程を発表。剥離機で床をはがす、モルタル塗料を水で溶いて塗るといった内装工事のプロセスをすべてFablab内で完結。
これまで電気工事士の資格を持っていなかったすすさんが、このために資格を取得して電気の配線を行った、という話のあたりから、技術好きのユーザーからのコメントが集まり始める。
続いて、Fablabつくばの機材類と使い方の紹介。
流行の3Dプリンタは置いていないが、電子回路の設計に特化した機器類を備えたFablabつくば。チップマウンタ・N2リフロー炉、N2ハンダごて、恒温槽、測定器類といった大学の研究室並みの設備と、それを使いこなすスキルに
「高度な技術とアナログな技術が両方必要なんだね」
「なんだかまったく分からんけどわくわくするわ」
「マンガに出てくるハカセの家だな」
などなど、オンラインから大きな注目が。
もちろんFablabらしく、半田付けが初めての人に丁寧に教えるワークショップも行っているが、常連客から新しい人に教える文化が定着しているという。
つくばのFablabはニコニコ技術部などでも良く使用されていて、電子工作スキルの高い人たちが良く利用しているイメージがある。それを裏付けるような発表だった。
3番目の登壇者はFabLab Shibuyaから、梅澤陽明さん、山本詠美さんの2人が登壇(タイムシフト)。
FabLab Shibuyaは、Co-labという、フリーランスのデザイナー、クリエイターなどが入居している渋谷のシェアオフィス内に置かれている。
それだけにFablab shibuyaの企画は何らかの形でビジネスにつながっていたり、外部のクリエイターとつながっていることが多い。
世界的なハッカソン Space Apps Challenge Tokyoと連携して、工作機械を参加者に提供するプロジェクトや、外部の組織に出張してのワークショップなどを頻繁に行っている。
中でも福島に出張してのワークショップ、企業とコラボしてのワークショップ、外部イベントへの積極的な参加などは、ほかのFablabとの大きな違いなのではないだろうか。
また、Fablab Shibuyaでは、プロジェクトの資金をクラウドファウンディングで調達する試みも行っている。
4番目の登壇者はFabcafeから、岩岡孝太郎さん、金岡大輝さんの2人が登壇(タイムシフト)。
Fabcafeはこれまで紹介してきた市民工房というよりも、「工作機械(レーザーカッター)の置かれたカフェ」である。通常通りカフェとして利用するお客さんも多い。
Fabcafeの発表は、Cafe=人がたくさん集まる場所、という場所がら、「集まった人で作って楽しむ」というカラーが前面に出た発表になった。
世界的に注目され、CNNにも取り上げられたバレンタインデーの企画、「人間の顔を3Dスキャンして、人面形のチョコレートを作る企画」からプレゼンがスタート。
そしてホワイトデーには「人間の全身を3Dスキャンして、人形型形のグミを作る企画」と続く。もちろんコメントは騒然。
さらに、カフェらしくマカロンにレーザーカッターでメッセージを刻印する企画や、ドーナツに加工する企画など、お菓子やカフェなど食品をテーマにした企画、クリスマスオーナメントやTシャツデザインなど、楽しい企画が続いた。
最後の登壇者として、座長の小林茂先生が再度登壇(タイムシフト)。IAMASイノベーション工房f.laboはIAMASが運営に携わるラボである。学校が運営していることで、公的機関/教育機関というカラーが強い。f.laboの発表は、「作る人を増やすにはどうすれば良いか」という試みが連続して発表される20連発になった。
工作機械の使い方を覚えるために入門講座を行い、修了証を自らレーザーカッターで作らせ、完成すると講座修了とする導入編から始まり、
複雑なアプリケーションが扱えない子供でも、手書きやiPadでの写真などを基にデジタル工作機械で使用するデータを制作するワークショップ、手書きのイラストを基にレーザーカッターで出力して小さいフォークを作るワークショップ、人間の顔を3Dスキャンするアプリケーションで顔形を作り、ボトルキャップに3Dプリントするワークショップなど、 機械の使い方を教えると同時に、「その道具で何ができるか」を楽しませながら覚えさせるワークショップが連発される。ニコ生も「これやってみたい!」「面白そう!」というコメントで埋まり始める。
f.laboのプレゼンは導入編から、「さまざまな手法を使って時計を作る」「平面の組み合わせで立体物のシャンデリアを作る」など、だんだんプロのもの作りの人にも答えられるような幅の広いワークショップに進み、最後に公開されたのが「展開図武道界」。参加者は椅子の展開図を作成し、レーザーカッターで椅子を制作する。このときに接着剤の利用は禁止、人間の体重に耐えられないような椅子は失格として、会場での投票により優勝策を決めるイベントでFab100連発を締め、会場は8888のコメントで埋まった。
このFab100連発セッションはほかのセッションと連続性がある。この後に行われた「ハードウェアベンチャー」は、楽しみから始まるFabが、実際に事業を立ち上げ、小規模ベンチャーでありながら量産ハードウェアを作っている会社を集め、ハードウェアの量産について語り合ったセッションである。ハードウェアベンチャーセッションの内容はこの記事に詳しい。
「起業するなら今、日本の家電力は世界一」、ハードウエアベンチャーがニコニコ学会βで熱弁 (ITPro)
広がるニコニコ学会
これまで触れてきたように、今回のニコニコ学会では、これまで対象にしていなかったようなさまざまな研究が見られた。今回は触れられなかったが「研究してみたマッドネス」の野生の研究者セッションのクオリティ、ポスターセッションのクオリティもこれまでにないほど高かった。ポスターセッション、野生の研究者の発表は、「ねとらぼ」などの記事で多く触れられている。
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取り上げられた記事の多さから考えても、これまでで最高のシンポジウムだったのではないかと思う。
2012年の発足時に比べて、運営にかかわる委員の数が増えていて、セッションを企画する座長もバラエティに富み始めた。また、ニコニコ学会βの会場で出会った研究者同士が、コラボによって新しい研究をスタートする流れがいくつか見られた。シンポジウムだけだったニコニコ学会が、場として機能し始めている様子がうかがえる。
次回のニコニコ学会βシンポジウムは12月に再びニコファーレで行われる。次回のシンポジウムも、ぜひお楽しみに!
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