「情報銀行コンソーシアム」設立へ――ビッグデータから、ディープデータ時代に:個人の情報から価値を創造する時代
2013年9月30日、東京大学空間情報科学研究センターと慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科は合同で「情報銀行コンソーシアム(仮称)」を設立することを発表した。
2013年9月30日、東京大学空間情報科学研究センターと慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科は合同で「情報銀行コンソーシアムシンポジウム」を開催。「情報銀行コンソーシアム(仮称)」を設立することを発表した。
情報銀行コンソーシアムとは、パーソナルな情報を総合的に集約し利用を促す、いわば「情報を取り扱う銀行」の設立を目的とした団体である。2013年11月7日に開催されるキックオフミーティングを皮切りに、2015年には国内を含む実フィールドで実証実験を行い、約3年後の2016年には国際連携も視野に入れて活動していく計画だ。
「パーソナル情報を扱う組織」と聞くと、賛否両論があるだろう。それを承知の上で、なぜこのような組織をあえて作ろうと思ったのか。
コンソーシアムの代表を務める東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介氏は、「情報銀行」の未来を次のように語る。「例えば、あまりよく眠れないという40代前半のサラリーマンがいるとする。しかし、もしパーソナル情報が細かく見れたらどうだろうか。その瞬間から『40代前半のサラリーマン』全般への処方ではなく、ライフスタイルや病歴などを踏まえた『その人』への処方になる。また、災害時などにも応用できる。例えば、年配の方や障がいを持った方への避難経路の指示は、特別な配慮が必要かもしれない。もし情報があれば、この判断をシステム側で瞬時に行うことができ、人の命が助かるかもしれない。同じことが、住宅選びでも日々の活動を行う街の中でもいえる。『その人』の顔を見える化することで、新たな価値を創造できる」(柴崎氏)。
「情報銀行」の軸となる構想は、次のとおりだ。まず、個人が任意で情報銀行にパーソナル情報を信託する。その情報を情報銀行が管理し、企業や社会に対しそれらの情報を用いた新しい価値サービスの提供を促す。すると、カスタマイズされた情報など、個人にとって有益な価値が戻ってくる仕組みだ。
実は、このような取り組みは、数年前からイギリスでも行われている。「BIS(日本の経産省と労働省を足したような組織)」で、「midata」という実証実験が始まったのがきっかけだそうだ。midataには複数の企業が集まり、収集したパーソナルデータをどのように使うかといった実験を行っていた。
同組織はその後、2013年7月から「midata innovation lab」と形を変えて活動を開始。「Example personal data services」のページに行くと、データの活用事例が挙げられている。例えば、栄養バランスのアドバイスや次のミーティングに遅刻しないための時間管理、自分に適した電話料金プランや保険の選択などがある。midata innovation labはこれらの情報が集まる「銀行」であり、今回発表された「情報銀行コンソーシアム」もこれと同様に、さまざまなサービスを連携するためのトリガーになりたい考えている。
これらを実現するために、情報銀行コンソーシアムは以下のポイントを挙げている。
これに伴い、必ず浮上してくるのがプライバシーの問題である。課題に対し、柴崎氏は「プライバシーの問題やデータのコントロールといった議論は、必ず必要になる。しかし、手元にデータがない状態でそのような話だけをしていても意味がない。いずれは、個人がデータの公開範囲を指定できるようにする必要もあるだろう。他にも、データを実際に扱って初めて分かることがたくさんあると思っている。プライバシーを侵害しないか、かつ、それが社会の中でどのように役立つのかを設計し、データの受容性や知識を育てていきたい」と話す。
「現在、『ビッグデータ』という言葉がある。しかし、良い結果を生み出すかどうかを左右するのは、解析するデータ量ではない。ただ単に膨大な量のデータを解析するのではなく、その人が何をしていてどうやって日々過ごしているのかといった深さを持つ『ディープデータ』が要となる。企業にとっても社会にとっても、今後、そこが競争力の根源になるのではないか」(同氏)。
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