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Windows XPデータ移行のコストを抑えるクラウド活用術Windows Azureによるエンタープライズ環境のデータ移行の新提案(2/2 ページ)

企業システムにおけるWindows XPからWindows 7/8への移行では、コストや手間の観点で、多数の旧PCのデータをどうやって新たな環境へ移行させるかが課題となりがちだ。その解決策の1つとして、データ移行にクラウドプラットフォーム「Windows Azure」のストレージを活用する方法を提案し、どのようなメリットがあるのか解説する。

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クラウド(Windows Azure)を活用したデータ移行と活用しないデータ移行を比較する

 クラウド(Windows Azure)を活用したデータ移行と、活用しないデータ移行では、作業量やコストにどれくらいの差が表れるのかを、最もポピュラーで分かりやすい移行方法として外付けHDDを利用した場合を例に挙げて比較してみる。

 当比較については、エンタープライズ環境でのWindows XP搭載PCから、新OS搭載のPCへのデータ移行を想定し、以下の条件を前提とする。

  • 想定PC台数: 1000台
  • PC1台当たりのデータ量: 100ファイルで合計100Gbytes
  • 転送するデータ(Windows転送ツールを利用): ユーザーアカウントや電子メールドキュメント、お気に入りサイト、音楽、ビデオ、画像など

 まず、外付けHDDを利用する場合と、Windows Azureを利用する場合のそれぞれのデータ移行の大まかな作業手順を以下に記す。

●外付けHDDを活用する場合

  1. 旧PCにWindows転送ツールをインストールする
    Windows XPにはWindows 7/8への移行に対応したWindows転送ツールが搭載されていないので、新しいPCから古いPCにインストールする、あるいはマイクロソフトのWebサイトからダウンロードする必要がある。詳細は「32bit版Windows OS → 64bit版Windows 8移行ガイドWindows転送ツールの概要と実行手順」を参照していただきたい。
  2. 旧PCに外付けHDDを接続する
  3. 移行するデータを外付けHDDにコピーする
    Windows転送ツールにより自動でコピーされる。
  4. 新PCに外付けHDDを接続する
  5. 新PCのWindows転送ツール(プレインストール)を使い、外付けHDDからデータを復元する

●クラウドプラットフォームWindows Azureを活用する場合

  1. 旧PCにWindows転送ツールをインストールする
    外付けHDDを活用する場合」の1.と同様の手順になる。
  2. Windows Azureのポータルサイトでストレージを作成する
    ストレージを作成し、各PCの管理者と、「ストレージ アカウント名」と「アクセス キー」を共有する
  3. 旧PCにストレージエクスプローラをセットアップする
    ストレージエクスプローラー()をインストールし、手順2.で共有したストレージアカウント名とアクセスキーを入力して、Windows Azureのストレージと関連付ける(ストレージエクスプローラーについては後で説明する)。
  4. 移行するデータをストレージにコピーする
  5. 新PCにストレージエクスプローラをインストールする
    3.と同様の手順になる。
  6. 新PCのWindows転送ツール(プレインストール)を使い、ストレージからデータを復元する

 外付けHDDの利用は、個人などの小規模の移行には適しているが、前章でも述べた通り、移行するPCが1000台を超えるようなエンタープライズ環境の場合は、コストや作業時間、セキュリティ面などにおいて課題が残る。それぞれのデータ移行方法についての項目別の比較を以下の表にまとめた(より詳しいWindows Azureの料金内訳については次章で解説している)。

  外付けHDD クラウド(Windows Azure ストレージ)
コスト ・1TbytesのUSB2.0対応外付けHDD:1万円前後
【例】1000台のPCを移行する場合⇒1000万円(最大)
・費用を抑えようとすると、1台のHDDを複数回利用する必要があるため作業時間が増大する。
(「Windows Azureを活用したデータ移行の実際」参照)
・初期費用無料、従量課金制
【例】1000台のPCを移行する場合⇒82万6629円〜136万9288円
内訳:ストレージボリュームに基づく課金(1週間)11万4438円〜14万4456円/転送料金70万6408円〜122万4830円/ストレージトランザクション料金 1.68円)
(「Windows Azureを活用したデータ移行の実際」参照)
容量 ・製品によって容量に限度あり ・必要に応じた容量の利用が可能
バックアップ ・なし(本体のみでの保存) ・3重もしくは6重にデータを保存
(「なぜ、Windows Azureなのか?」参照)
セキュリティ ・データ復元の恐れがある
・紛失、盗難の恐れがある
(「なぜ、Windows Azureなのか?」参照)
・セキュリティと信頼性について業界標準に準拠したデータセンター
・アクセスキーの再発行が簡単に可能
(「Windows Azureを活用したデータ移行の実際」参照)
転送方法 USBなどのインターフェースが必要 インターネットに接続されたネットワークが必要
2種類のデータ移行方法の比較

Windows Azureを活用したデータ移行の実際

 ここからは、Windows Azureを活用したデータ移行の具体的な手順と、料金内訳を紹介する。

 作業の担当は、全体のデータベースとなるストレージを管理する移行担当責任者と、実際に各PCの移行作業を行う、移行作業者に分かれている。

 初めに、移行担当責任者が行う作業の手順を解説する。なお、Windows Azureの申し込み(Microsoftアカウントの作成を含む)は事前に済ませていることとする。

●移行担当責任者の作業

1.Windows Azure上にデータを保存するためのストレージを作成
 Windows Azureの管理ポータルで、「URL」と「場所/アフィニティグループ」を入力するだけでストレージを作成できる。Windows Azureは、常に保管するデータ内容のコピー(複製)を3つ保持するが、前述の通り「地理的レプリケーションの冗長化」項目をチェックすることで、一次拠点に加えて地理的に離れた(数百キロ)二次拠点でもデータを保管することが可能だ。

Windows Azure上にデータ保存用のストレージを作成する
Windows Azure上にデータ保存用のストレージを作成する
管理ポータルの画面左下隅にある[+新規]をクリックすると、このメニューが現れるので、[データ サービス]−[ストレージ]−[簡易作成]とクリックする。
  (1)データ保存先となる名前を指定する。これがストレージアカウント名になる。
  (2)[東アジア]を選ぶ。
  (3)[地理冗長]を選ぶ。

2.アクセスキーを確認
 Windows Azureの管理ポータルから作成したストレージを開き、画面下端の中央にある[アクセス キーの管理]をクリックすると、以下の画面のようなポップアップが現れる。上二段の「ストレージ アカウント名」と「プライマリ アクセス キー」は後ほど必要となるので控えておく。プライマリアクセスキーとセカンダリアクセスキーは自動で作成されるが、何度でも再生成できる。

アクセスキーを確認する
アクセスキーを確認する
管理ポータルの左メニューの[ストレージ]をクリックしてから対象のストレージアカウントを選択し、画面下端にある[アクセス キーの管理]をクリックすると、このダイアログが表示される。あとで利用するのでストレージアカウント名とプライマリアクセスキーをメモしておく。

●各PCの移行作業者の作業

1.Windows転送ツールをインストール
 前述の通り、まず移行するデータの入った旧PCにWindows転送ツールをインストールする必要がある。

Windows転送ツールを旧PCにインストールする
Windows転送ツールを旧PCにインストールする
インストール方法については、上記リンク先の記事を参照していただきたい。

2.ストレージエクスプローラーをインストール
 ストレージエクスプローラーとはクラウド上のストレージとローカルのPCとを接続し、ストレージにファイルのアップロード、ダウンロード、削除、更新を簡単に行うことができるツールである。今回は例として、直接フォルダからストレージにアクセスできるストレージエクスプローラーの1つ「Gladinet」を利用した。Gladinetには無償版と有償版(1アカウント5000円)があり、法人格の利用の場合、有償版を使う必要がある。仮に各部署ごとに移行作業者が計10人いるのであれば10アカウント(5万円)が必要になる。

 Gladinetの他にも、Windows Azureで利用可能なストレージエクスプローラーを次のMSDN Blogsにて確認できる。

3.マウントするストレージの設定
 ダウンロードしたGladinetのインストールファイルを起動する。その後に表示されるウィザードの「仮想ディレクトリ設定」画面で、[ストレージサービス]に「Windows Azure Blob Storage」を選択し、[仮想ディレクトリ(アカウント)名]に任意の名前を入力する。

マウントするストレージを指定する
マウントするストレージを指定する
  (1)「Windows Azure Blob Storage」を選ぶ。
  (2)任意の名前を入力する。

4.ログイン情報の入力
 「Account name」と「Primary Access Key」のそれぞれに、「移行担当責任者の作業」の2.で確認したストレージアカウント名とプライマリアクセス キーを入力する。

ログイン情報を指定する
ログイン情報を指定する
  (1)メモしておいたストレージアカウント名を指定する。
  (2)メモしておいたプライマリアクセスキーを指定する。

5.「仮想ディレクトリにクラウド同期フォルダを有効にする。(PROのみ)」のチェックを外し、完了ボタンをクリック
 ここにチェックが入ってオンになっていると、ローカル環境との同期が実行されてしまい、ローカル環境のディスク容量が圧迫されてしまうので、チェックを外してオフにしてから[完了]ボタンをクリックする。

同期フォルダの設定を変更する
同期フォルダの設定を変更する
  (1)チェックを外してオフにする。オンのままだとローカル環境のディスク容量が圧迫されてしまう。

 仮想ディレクトリの作成が完了すれば初期設定は終了だ。その後、自動的にエクスプローラーが起動し、コンピューターに設定したストレージの仮想ドライブが表示される。

6.データのアップロード
 Windows転送ツールを使い、Windows Azureストレージに直接、移行するデータをコピーする。この手順は通常のネットワーク・ドライブを介した移行手順と変わらない(詳細は前述の解説記事を参照していただきたい)。

 あとは新OS搭載のPCで、コピーしたデータを逆の手順でダウンロードすれば、移行は完了する。

Windows Azureの料金

 Windows Azureのストレージを利用する場合、初期費用は一切掛かることがなく、利用する際のデータ量と期間により課金される。内訳を分類すると大きく(1)ストレージボリュームに基づく課金、(2)データ転送料、(3)ストレージトランザクション料金、となる。

(1)ストレージボリュームに基づく課金
 ストレージに保存するデータ容量に対して時間ごとに料金が発生する。データ容量と選択したストレージ(地理冗長ストレージかローカル冗長ストレージ)により料金は異なり、また、利用する容量が多いほど容量当たりの単価は安くなる。

  地理冗長ストレージ ローカル冗長ストレージ
最初の1Tbytes/月 7.89円 5.82円
次の49Tbytes/月 6.65円 5.40円
次の450Tbytes/月 5.82円 4.99円
次の500Tbytes/月 5.40円 4.57円
次の4000Tbytes/月 4.99円 3.74円
次の4000Tbytes/月 4.57円 3.08円
9000Tbytesを超える容量/月 (マイクロソフトへの問い合わせが必要) (マイクロソフトへの問い合わせが必要)
Windows Azureのストレージボリュームに基づく課金
料金はいずれも1Gbytes当たりの単価である。詳細はマイクロソフトのストレージ料金の詳細説明ページを参照していただきたい。

(2)データ転送料金
 ストレージへのデータのアップロードは無料だが、ダウンロードする際に転送料が発生する。また、設定したデータセンターの地域によって料金は異なる他、利用する容量が多いほど容量当たりの単価は安くなる。

  ゾーン1(米国、欧州) ゾーン 2(東アジア、東南アジア)
最初の5Gbytes/月 無料 無料
5Gbytes〜10Tbytes/月 9.97円 15.78円
次の40Tbytes/月 7.48円 12.46円
次の100Tbytes/月 5.82円 10.80円
次の350Tbytes/月 4.16円 9.97円
500Tbytesを超える容量/月 (マイクロソフトへの問い合わせが必要) (マイクロソフトへの問い合わせが必要)
Windows Azureのデータ転送料金
「ゾーン」はデータセンターの所在地を大まかに表している。「ゾーン1」には米国東部と米国西部、米国中北部、米国中南部、北ヨーロッパ、西ヨーロッパが含まれる。「ゾーン2」には東アジアと東南アジアが含まれる。詳細はマイクロソフトのデータ転送料金の詳細説明ページを参照していただきたい。

(3)ストレージトランザクション料金
 ストレージに対する読み取り、書き込み操作に掛かる料金である。10万トランザクション当たり0.84円掛かる。

 以上を踏まえて、仮に1000台のPCのデータ(それぞれ100ファイルで合計100Gbytesと仮定)を移行する場合に掛かる料金を以下の表にまとめた。なお、Windows Azureのストレージ上にデータを保管する期間は1週間とし、1Tbytes=1024Gbytesで計算した。

ストレージの種別 地理冗長ストレージ ローカル冗長ストレージ
データセンターの所在地 ゾーン1(米国、欧州) ゾーン2(東アジア、東南アジア) ゾーン1(米国、欧州) ゾーン2(東アジア、東南アジア)
(1)ストレージボリュームに基づく課金 14万4456円 14万4456円 12万219円 12万219円
(2)データ転送料金 70万6408円 122万4830円 70万6408円 122万4830円
(3)ストレージトランザクション料金 1.68円 1.68円 1.68円 1.68円
合計 85万866円 136万9288円 82万6629円 134万5051円
移行作業に掛かるWindows Azureの料金
1000台のPCのデータ(それぞれ100ファイルで合計100Gbytesと仮定)を移行する場合に掛かる料金を計算してみた。

Windows Azureはデータ移行にも有用

 本稿ではデータ移行にWindows Azureを利用するメリットや、外付けHDDを利用する場合との比較、Windows Azureによる実際のデータ移行手順と料金について解説した。このようにWindows Azureを活用すれば、エンタープライズ環境にある何百台、あるいは千台以上のPCのデータ移行費用や社員の貴重な時間と労力の消費を、比較的低く抑えることができる。

 ただし、ストレージ利用が長引けば、それだけ費用も増加する点には注意が必要だ。つまり、移行費用をなるべく抑えるには、できるだけ早くストレージから新PCへデータをダウンロードしてストレージを解放する必要がある。

 そのためには、移行作業をスムーズに進められるように、実際の作業前に計画を十分に練って準備することが欠かせない。特にWindows Azureについては留意すべきだろう。本稿のようにストレージだけを使うなら決して難易度が高い方ではないが、それでもオンプレミスのストレージとはさまざまな差異のある「サービス」だけに、その運用には事前に慣れておいた方がよい。自社でカバーしきれないといった場合には、Windows Azureを対象とした外部のサポートサービスの利用を検討してもよいだろう。

 マイクロソフトによるWindows XPのサポート終了は、刻々と迫っている。自社に最も適したデータ移行作業を計画するにあたり、「Windows Azureの活用」という手段もあるということが読者諸兄の一助になれば幸いだ。

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