もし要件定義担当者とベンダーが「グル」だったら?:美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿(9)(2/2 ページ)
悪意の有る無しにかかわらず、ベンダーと仲が良過ぎるユーザーが要件を担当すると、ベンダーにとってのみ都合の良い要件や、業務知識不足による要件不備を招く危険があります。
そ、それは無責任だねぇ……。
このシステムは、他にもトラブルがたくさん出ていたから、ユーザーはその欠陥と要件定義の不備を理由にベンダーへの費用支払いを拒んだの。それで、支払いを求めるベンダーとの間で裁判になったわ。
で、どうなったの?
いくらベンダー出身でも今はユーザー側の社員である担当者が決めた要件だから、最終的には相当の割り合いでユーザーが費用負担することになったわ。
じゃあ、今回のケースも?
一概には言えないけれど、同じような状況だものね。傷の浅いうちに契約は解除した方が良いと思うわ。たぶん違約金が発生するけどね。
違約金? あー、またパパに叱られるー。
1つだけいいこと教えてあげる。優秀な管理者は、問題なくプロジェクトを完遂する。でも、もっと優秀な管理者は、問題を早めに検知して、うまく損切りしながら最終的に組織に利益をもたらすのよ。
問題があった方がいいってこと?
そりゃあ無いに越したことはないけれど。誰だってプロジェクトを幾つか経験すれば、問題に直面することがあるでしょう? そのときに、損益を最小限に抑えて先へ進むことは、平穏無事なプロジェクトを運営するより、よほど勇気と知恵と体力が必要なことよ。だから、そういうことができる管理者は高く評価されるのよ。
そっかあ、じゃあ僕もパパに褒めてもらえるかな。
100発くらい殴られた後で、頭ナデナデしてくれるかもね。
ひい! ところで、ベンダーをドバーンした後はどうしたらいいんだい? ベンダーを変えても、ウチに要件担当とかできる人がいないことには変わりがないよ。
外から来た人にはオブザーバーになってもらって、業務に明るくてシステム化の目的をちゃんと理解してる人を責任者に据えるべきね。最悪、外部の人間しかいないのなら、実際にそのシステムを使う人や、システムの運用管理者になる人が、小まめに妥当性の確認をするべきよ。
妥当性の確認?
画面の推移や項目が決まったらその部分、計算やロジックができたらその部分というように、都度都度確認してもらうのよ。設計段階でもプログラミング段階でもね。
それって、外部の人を信頼していないみたいじゃない。その人、気を悪くしないかなあ。
章介。そういうところは、アンタの良いところでもあり、悪いところでもあるわ。大切なのは“trust but verify”よ。
え、何それ?
『信頼せよ、されど検証せよ』、ゴルバチョフとの中距離核ミサイル全廃交渉で、レーガンが好んで使った言葉よ。こんな有名な言葉も知らないなんて、アンタこそドバーンしちゃうわよ。
今回のPOINT
- ベンダー出身者が要件を担当する場合には、エンドユーザーや運用者による妥当性確認を小まめに行う
- ベンダーは、これらの管理をユーザーに積極的に提案する
次回掲載は3月20日、新キャラクター「いちろ」が登場します。お楽しみに!
書籍紹介
細川義洋著
日本実業出版社 2100円(税込み)
約7割が失敗するといわれるコンピューターシステムの開発プロジェクト。その最悪の結末であるIT訴訟の事例を参考に、ベンダーvsユーザーのトラブル解決策を、IT案件専門の美人弁護士「塔子」が伝授する。
細川義洋
東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員
NECソフトにて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムにてシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダー及びITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも稀有な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
- 要件やシステム化の範囲はどうやって決めるのか?
- 業務要件のモレを無くすためにマークすべき人とは?
- もしも要件定義の無いシステム開発の担当になったら
- もし要件定義担当者とベンダーが「グル」だったら?
- 修正の影響範囲が分からない? そんなの徹夜でおやりなさい
- その性能要件は消滅しました(えっ!?)
- 要件が決まるまで、テコでも動きません!
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- 要件定義を決めるのはベンダーの仕事でしょ?
- そもそも要件定義って何なのよ
- IT訴訟弁護士「塔子」参上!
- 登場人物紹介 有賀一郎
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- 登場人物紹介 成兼章介
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