インターネットを介したシステムの応答速度のように、外部ネットワークによって左右される性能を約束するのは困難です。しかし何も約束しないと、ユーザーに損害をもたらす危険があります。
※この連載は「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」(細川義洋著)のCHAPTER1を、著者と出版社の許可の下、一部修正して転載するものです。
大手スーパー越後屋のオンラインショップシステム開発は設計工程に入り、一段落した模様。でも開発責任者章介(息子)の能天気な性格をよく知っている社長(父親)は、開発が本当に順調なのか心配です。そこで、顧問弁護士の塔子に偵察を依頼しました。
感激だなあ。塔子が、わざわざ僕に会いに来てくれるなんて。
別に“アンタ”に会いに来たわけじゃないわよ。お父さまが「心配だから様子を見てきてくれ」って言うから“進捗(しんちょく)”を見に来ただけよ。まったく、もう。
そんなに照れなくても。
照れてない! いいから要件定義書、見せなさいよ。
えっ? ああ、あれ? ええっと、どこだったかな。…… ああ、これこれ。たくさんあるけど見る?
見るわよ。そのために来たんだから。…… ん? これは?
何? 何か問題あった?
『ユーザーからの要望書』には、画面から商品を選んでショッピングカートにその情報を反映するまでの時間や、購入確定ボタンを押した後の明細表示画面を出すまでの時間が『3、4秒程度』って書いてあるわ。でも要件定義書には、『一般的なショッピングサイトと同等』と書いてある。これって事実上、性能要件を消してることになるんじゃないの?
ああ、それ。僕が「3、4秒かなあ」って言ったら、ベンダーの人が「じゃあ一般的なサイト並みですね」って言って書いてきたから、意識としては3、4秒程度のはずだよ。
でも議事録には何も書いてないじゃない。
大丈夫じゃないかなあ。何人も会議に出て話を聞いてたし。
前から思ってたんだけど、このベンダー、仕事が怪しいわね。インターネットの画面応答速度って約束しづらいから、勝手に言葉を変えたんだわ、きっと。
でも、仕方ないんじゃないの? インターネットってみんなが使うから、多少遅くなったりするもんでしょ?
あのねえ。買い物をしたとき、購入完了まで3秒で済むか10分かかるか分からなかったら、アンタその間どうする?
えっと…… 神様に祈る?
荷物まとめて巡礼にでも行けば!
でも、インターネットだからある程度は……
セッション? クッキー? どういうこと?
画面の応答速度が異常に長くなったとき、セッションをちゃんと切ってあげないと、そのPCからは再度ログインできなくなっちゃう危険があるわ。それに、ユーザーが自分で入力したクレジットカード番号なんかを記憶するクッキーをタイミング良く消さないと、カード情報がPCとサーバーに残っちゃうのよ。
よく分からないなあ。要するに、どうなっちゃうの?
※1 コンピューター間でデータを送受信するための論理的な接続のこと。クライアントPCがサーバーに自身を認証してもらい、以降のやりとりをスムースに行えるようにする仕組みだが、処理終了時に正しく切断しないと、同じPCから再度接続しようとする時にトラブルが起きる。
※2 クライアントPC内に作られるデータの格納領域。ここに置かれた情報は、サーバーが任意のときに参照できるが、氏名やパスワードなどの情報を入れたまま、正しく消去しないと、悪意を持つ別のプログラムからでも参照されてしまう。
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