2015年から手を付けておきたいテクノロジをSF映画から考える:ITエンジニアの未来ラボ(3)〜年末特別企画(4/4 ページ)
「年末年始に、何か本を読んでみようか」と思っている、SF好きのエンジニアにお勧めしたい一冊『SF映画で学ぶインターフェースデザイン』監訳者の安藤幸央氏に今後のUIやシステムはどうなっていくのかを伺った。
機械学習の活用で「空気を読む」システムが当たり前に?
――単なるUIの話からはちょっと離れるかもしれませんが、SF映画の中では『ブレードランナー』『ターミネーター』『A.I.−Artificial Intelligence』など、人間の代わりに作業を行うロボットや、人間の代わりに考える人工知能などが多く登場していますね。この分野についてはどうでしょう。
安藤 人間の代わりに作業を行う「ロボット」は、すでに多くの工業用ロボットとして実用化されていますよね。また、最近ではAmazonの倉庫での商品オペレーションを、人間ではなくロボットに置き換えるという動きも出てきています。この辺りになると、かなりSFに追い着いてきている印象です。人間は、人間にしかできない作業をやり、それ以外の部分はどんどんロボットに置き換える、という流れは、進んでいく一方ですよね。
――「人間にしかできないこと」というと、今のところ、やはり「思考」の部分になると思うのですが、人工知能や機械学習の分野が急速に発展してきている印象もあり、その辺りがどうなっていくのかというのも気になりますね。
安藤 機械学習の活用は、今後さらに増えていくと思います。これまで、機械学習が使えなかった分野でも、それを応用できる素地が整ってきています。
従来、ある課題を解決するためには、人間がそのためのアルゴリズムを考えたり、プログラムを書いたりしていたわけですが、コンピューターに事例やパターン、データを大量に入力して機械学習させることによって、人間側でアルゴリズムを考えなくても、コンピューター側で正しい答えを導き出すことが可能になってきているんですね。こうしたことができるようになった背景には、あらゆる事象をデータとして蓄積、再利用できるようになってきていることと、機械学習のためのコンピューティングリソースを使うためのコストが、どんどん下がっているということがあると思います。
将棋やチェスの対戦プログラムも、昔は「強いアルゴリズム」を持っているものが強かったわけですが、今では過去の棋譜をベースに、過去の同様の局面の中での最善手を導き出す機械学習の能力を持ったものが主流になってきています。
最近では、そうした機械学習を行ったコンピューターと、直感的な判断を下す人間がタッグを組むことで、さらに強いプレーヤーを生み出すという試みも行われているようです。これはコンピューターの持つ「検索と抽出」という優れた機能で、人間の「考え」や「記憶」を補助することによって、「人間の拡張をしていく」という考え方ですよね。非常に面白いアイデアだと思います。
――学習したコンピューターが、人間を補助するという流れは、いわゆる「エージェントシステム」を思い出させますよね。
安藤 SF映画に登場するような、完全な自律型のエージェントが登場するのは、まだまだ先の話になるかもしれませんが、大量の機械学習ができるようになったことで、それにさらに近いものは実現する可能性が高まっていると思います。いわゆる「コンテクストアウェアネス」なシステムですね。前後の文脈をコンピューターが「先読み」して、一見同じような状況でも、よりふさわしい答えを提示するという仕組みです。
これは簡単な例ですけれど、ある人が「スマートフォンを持って車に乗る」という状況があったとします。スマートフォンをクルマのカーナビシステムに接続したときに、もしスマートフォンの画面に「地図」が表示されていれば、カーナビシステムは画面上に同じ場所の「地図」を表示します。また、もし「音楽プレーヤー」がアクティブになっていれば、カーナビシステムも同じプレーリストの画面からスタートする。もし、充電が切れそうになっていてシステムもスリープ状態であれば、ユーザーはスマートフォンを「充電」したいのだろうから、充電に電力を集中させる……といった形で、その時の「文脈」から、最適と思われる処理を選ぶのが「コンテクスト・アウェアネス」なシステムです。
ひと言で言うと「空気を読む」システムなのですが、機械学習がさらに一般的になることで、そうした「空気を読める人工知能」が、これまで以上にさまざまな分野で人間をサポートするようになるのではないでしょうか。
変わらない人間の能力を「技術の力で拡張する」方法を考えよう
――最後に、安藤さんが特に来年から近未来にかけて「注目したい技術分野」と、そうした技術に関わるエンジニアに向けたメッセージをいただければ幸いです。
安藤 先ほども出てきましたがインターフェースとしての「音」は、特に面白い分野だと思います。ゲームなど、コンシューマー向けのアプリでは「使い心地」や「使いやすさ」を高めるためのインターフェースとして「音」は重視されていますけれど、エンタープライズやビジネス向けの分野では、まだまだ「音」をうまく活用する余地が残されていると思います。それによって「使い勝手が向上」したり「エラーが少なくなったり」する「音」の使い方はないだろうかと考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
また、UIをデザインするときの根源的なテーマとして「さまざまな新しい技術が出てきて、性能が向上したとしても、人間が本質的に持っている“人の性能”は大きく変わらない」ということを理解しておくべきだと思います。それは、人間の認知能力や反応速度、感情といったもので、これらはどんな新しい技術やデバイスが登場したところで、急激に変化するわけではないですよね。
ユーザーである人間を機械側の都合に合わせて変えようとするのではなく、変わらない人間の能力を、技術の力で拡張するようなものを作ることによって、いかにも使っている人間自身が進化したような感覚を生み出すことができるのだと思います。そうした感覚を生み出せるものが、良いデザインを持ったUIということなのではないでしょうか。
また「機械学習」については、目覚ましくコストが下がり、活用のためのハードルが下がってきていますので、機会があればいろいろと試してみるといいと思いますね。クラウドなどが一般的になることで、必要になるデータを全部保存し、全部を使って学習をさせるといったことが、これまでよりも手軽にできるようになっています。
大量のデータと、答えとして何を導き出すかさえ分かっていれば、開発者が時間をかけてアルゴリズムを考えなくても、同等のことができてしまうという環境には大きなインパクトがありますよね。もしかしたら、いずれは「ヒットするアプリの作り方」や「失敗しないシステム開発の方法論」みたいなものも、導き出せてしまうかもしれません。
冒頭で紹介したSF映画の年表に加えて「NRI未来年表 2015-2065」というものがあります。こういったものを参考に、今回話に出た最新技術で何ができるのか、人間にとってそれがどんな意味を持つのかといったことに、想像をめぐらせてみてほしいと思います。
――ありがとうございました。
関連特集:ITエンジニアの未来ラボ
IT投資が増加していくとされる2020年に向け、技術の革新は進みこれまでにない多様な技術が開発現場で当たり前のように使われることが予想される。過去を振り返ると、スマートフォンやクラウドの出現により、ここ5、6年の間で多様な技術習得を迫られた開発現場も少なくないはずだ。では次の時代に向けてITエンジニアはどうあるべきなのか。本特集では日本のITエンジニアが現在抱える課題や技術への思いを読者調査を通じて浮き彫りにし、ITエンジニアは未来に向けてどのような道を歩むべきか、キャッチアップするべき技術の未来とはどのようなものかを研究する。
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