「富士通、社内システムを全面的にOpenStackへ移行」の本当の衝撃:責任者にインタビュー(1/3 ページ)
富士通が2015年2月に発表した、社内システムの包括的なOpenStackベース基盤への移行は、驚きをもって迎えられた。これについて、同社のIT戦略本部長と、統合商品戦略本部商品戦略企画室長にインタビュー取材したところ、これは発表の内容以上に「シリアスな」OpenStack導入事例だということが分かってきた。
富士通は2015年2月18日、「グループ国内外すべての社内システムを次世代クラウド基盤へ刷新」というタイトルのプレスリリースを発表した。
これは、多くの人々を驚かせた。富士通グループが全世界で稼働中の、全ての社内システム(約640システム、サーバー数にして約1万3000台)を、今後5年間でOpenStack上に移行する、という内容だったからだ。
まず、社内ITシステムを対象としたOpenStack導入計画として、世界最大級の規模だ。しかも、富士通グループの「全ての」社内システムが対象だと言い切っており、業務を支える重要なシステムが例外なく含まれる。これだけでも、「OpenStackは『新しいアプリケーション』に適したプラットフォームだ」と考える人々にとって、十分に衝撃的だ。富士通がエンタープライズIT企業であり、「本移行で培ったスキル・ノウハウをリファレンスモデルとして、お客様へのソリューション提案・システム構築・運用に活用」(プレスリリースの表現)するということを差し引いても、同社にとってのリスクはかなり大きいことが容易に想定できる。
そこで、富士通グループの情報システム統括部署に当たる、富士通 IT戦略本部の本部長を務める纐纈(こうけつ)孝彦氏と、同統合商品戦略本部商品戦略企画室 室長の杜若(かきつばた)尚志氏にインタビュー取材したところ、これは2月のプレスリリースの内容以上に、富士通にとって重要な意味を持つことが分かってきた。
纐纈氏と杜若氏によると、OpenStackプラットフォームへの社内システム全面移行は、富士通のIT関連事業全般をクラウド的なものに変えていくための起爆剤であると同時に、具体的な取り組みを急ピッチで進め、ノウハウや知見を得るための、大規模な実験場として機能するのだという。富士通のITインフラ製品は、サーバー、ストレージ、ネットワークの全てにおいて、クラウド的なものに変身すべく、開発努力が進められていく。ミドルウエアや業務アプリケーション、そしてカスタムアプリケーション開発も、クラウド的なアーキテクチャに移行していく。同社のIoT(Internet of Things)関連をはじめとする他の事業も、このプラットフォームの上で展開されていく。
一方、2015年度中には、この社内向けプラットフォームを、パブリッククラウドサービスとして、顧客に対しても提供開始。当初はIaaS(Infrastructure as a Service)に一部のPaaS(Platform as a Service)機能を組み合わせたものだが、社内システムの移行の進展に従って、これを順次クラウドサービス上の機能として追加していく。さらに、マルチクラウド、ハイブリッドクラウドのインテグレーションを提供していくという。
OpenStackベースの基盤は、社内ITを根本的に改革する取り組み
上記では事業との関係を強調したが、「今回のOpenStackへの移行は、富士通の社内ITにとって避けて通れない次のステップ」だと、纐纈氏は説明する。
2月のプレスリリースに述べられた、OpenStackへの移行対象となる「640システム、約1万3000台」の内訳は、国内が450システム8000台、海外が190システム5000台。これは、IT戦略本部が責任を持つ社内業務システム全てを意味する。他に、一般的には「部門システム」などと呼ばれる、各部署が独自に構築してきたシステムもあり、そのサーバー数は約5万台にも達する可能性があるが、これらは対象外となっている。
富士通では事業部単位で基幹システムを構築していた経緯があり、サーバー数が増えるだけでなく、機能の重複するシステムが多数併存する状況になっていた。また既存システムはそれぞれに増改築を繰り返してきたことから、複雑化が進行してしまっていた。
「例えばシステム間のデータ連携は、これまで連携先システムごとにタイトに行われてきた。このため、あるシステムのデータ項目を追加しようとすると、このシステムの全ての連携先への調査とテストを、一つずつ実施しなければならなかった」(纐纈氏)
これを改善するため、富士通は2010年から仮想化によるサーバー集約と、アプリケーション集約の二通りで、全社的なIT統合を進めてきた。だが、どちらの観点からも、満足のいく状況にはなっていないという。
まず、現時点でも、全サーバーの約6割が物理サーバーのままだ。また、仮想化できたケースでも、基本的には業務システム単位でサーバーを集約したレベルであることから、十分な効率化ができていない。仮想化の物理サーバーは、各業務システムの最大ピーク負荷に合わせてサイジングされているため、平均負荷で考えるとCPUやメモリの使用率は低い。
また、アプリケーション集約の観点からは、データ連携をメッシュ状からESB(Enterprise Service Bus)経由に改変するなどの取り組みを行ってきたが、投資規模の大きさから、予定より大幅に遅れる見通しとなっている。
こうした状況の中で、社内システムの運用を根本的に変革するために、OpenStackへの全面移行を進めることにしたという。
クラウドにより、富士通と顧客の業務システムの間でも共通化も図れる
「これからは、クラウドが富士通にとっての主戦場になる」と纐纈氏は言う。
つまり、「富士通、同社の顧客企業にかかわらず、一般企業にとって、社外向けのシステムと社内向けのシステムが別個のプラットフォームで運用される時代は終わろうとしている」という認識だ。両者は共通のプラットフォームで動かすようになる。そうであるなら、アプリケーションレベルでも、コンポジット化を進め、積極的に共通化を図っていかなければならないとする。
「個別の業務システムを見ていくと、認証、ワークフロー、データ連携、マスターチェックなど、共通部分が30%程度ある。こうした部分を、共通部品として再利用できるようにしたい。つまり機能のサービス化であり、どのアプリケーションからも簡単に使えるようにしていかなければならない」(纐纈氏)
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