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第181回 Intelが167億ドルで手に入れるもの頭脳放談

Intelが167億ドルでAlteraを、AVAGO TechnologiesがBroadcomを買収するなど、半導体業界は大型買収が続いている。半導体業界の再編は、1次リーグが終わり、決勝トーナメントが始まっている。

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 このところ半導体業界で大きな買収話が続いている。目先の規模感に従って先にIntelによるAlteraの買収を取り上げさせていただく。

 Intelは、いわずと知れた半導体最大手かつマイクロプロセッサー首位であり、AlteraはFPGA(Field-Programmable Gate Array)業界をXilinxとともに二分する一方の雄である。かねてよりIntelはAlteraのFPGAの製造を請け負っており、関係が深かったが、ここにきて買収が正式発表されたということのようだ。つまりは、結構長いこと両社で話し合いの過程があったはずで、急な話ではない。

 あまりFPGAについてご存じない方もいるかと思うので説明しておくと、「フィールド」とはつまりは工場の外を指し、ユーザーが使用する現場環境でも「プログラム」できる論理デバイスである。プログラムといっても主としてハードウエアのプログラミングなので、その部分は通常のプログラム言語ではなくVerilogとかVHDLといったハードウエア用のプログラム言語でプログラムする。このごろは内部にCPUコアを組み込めるので、いわゆる普通の「ソフトウエア」も内蔵することがある。

 簡単に言ってしまえば「何にでもなる」非常に便利な半導体製品である。FPGAの出始めのころは、その価格の高さもあって試作品としての用途が主であった。高価だが簡単に書き換えできるFPGAでまず開発試作してから、「製造に時間がかかるが単価の安い普通の」半導体に焼き直して量産していたわけだ。

 しかし10年以上前からだろうか。FPGAの価格がどんどん安くなり、搭載可能な論理ゲートやメモリの規模が大きくなってくると、数があまり出ない用途から「普通の半導体」はFPGAにどんどん浸食されていく。「普通の半導体」を製造するときの大きなイニシャルコストを製造すべき数量で割って考えると、多少単価が高くとも、「単価×数量」で計算すれば済むFPGAのまま量産してしまった方がペイするからである。昔は「フィールドプログラマブルでない」ゲートアレイという商品は大量に製造されていた半導体の花形商品の一つでもあったのだが、今や絶滅危惧種かほぼ絶滅状態にまで落ち込んでしまい、代わりにFPGAがカスタム論理LSIの市場を支配している。

 FPGAは、いまだに成長している分野ではあるのだが、巨人Intelの売り上げ規模からすると投資金額の割に売り上げが小さいのではないかという意見もあるらしい。実際、数兆円単位で売り上げを数える会社が、数千億単位の会社を飲み込んでも、さして大きく売り上げが伸びるわけではないだろう。ままあることだが、ベンチャーで100億円あるいは10億円でも売り上げれば、ゼロからの出発で大成功だと思うが、買収されて大きな会社の一部門になってみたら経営の柱にもならない泡沫事業になってしまう。

 それに比べたらAlteraは「事業の一つの柱」くらいには見なされる規模感は十分にある。しかしIntelには相当の危機感があり、Alteraを買収したのだと思う。それは、CPU→GPU→FPGAという昨今のコンピューティングのトレンドからきている。CPUもマルチプロセッサー化、マルチスレッド化で進歩しているが、特定の負荷の重いコンピューティングタスクとなるとCPUとは桁が違うプロセッサー数、スレッド数を同時に処理できるGPUが登場しなければ収まらないということは理解いただけていると思う。

 GPUでおしまいかというとそうでもないのだ。GPUだと本当に並列に実行できる計算コア数はせいぜい数百個くらいだが、FPGAはさらに桁の違う数の演算回路を並列に動作させることが可能だ。そして回路を「ぶん回して速度を稼いでいる」GPUやCPUに比べると、FPGAの場合は本当に必要な回路だけを並べればよいので、計算量の割に消費電力を抑えられる可能性もある。このため、巨大なデータセンター用の処理装置として、FPGAが急速に伸びてきているのだ。

 今や社会のインフラともいえるデータセンターは、かってはハイエンド(当然高価)のマイクロプロセッサーを大量に飲み込んでいたが、このごろでは、CPUも使うことは使うが、メインのデータの流れはFPGAを通るような形に変化しつつある。FPGA自体はフィールドプログラマブルなので、必要に応じて改変、改良も可能だ。そのまま手をこまねいていては、遅かれ早かれ、重要なこの市場から叩き出されてしまう、という危機感がIntelを行動に走らせたのだと思う。

 もう一つの大きな買収発表が、AVAGO TechnologiesによるBroadcomの買収だ(社名はBroadcomを継承する。Broadcomのニュースリリース「Avago Technologies to Acquire Broadcom for $37 Billion」)。Intel、Alteraの組み合わせからすると一回り規模は小さいが、買収される方のBroadcomにしても売上高は73億ドル以上あると思われるので、それなりの規模の買収である。

 しかし、どちらもあまり聞きなれない名前かもしれない。買収される側のBroadcomの方がまだ通信向けのSoCなどでよく聞く名前かもしれない。電子工作ファンには、Raspberry Piに搭載されているSoCチップを作っている会社、というと分かってもらえるだろう。その名の通り「ブロードバンド」化の進んだ時代、つまり、ADSLとかケーブルテレビ用のセットトップボックスとかが脚光を浴びた時代に一気に大きくなった会社である。近年ちょっと伸びが頭打ちになっていた感もある。

 それに対してAVAGO Technologiesは、一般にはあまり名を聞かない会社なのだが押しも押されもせぬ世界の大手半導体会社の一角であり、現代のインフラを支える会社の1つといってもいいかもしれない。あまり名前を聞かない理由は一つだと思う。AVAGO Technologiesの主力が普通のシリコン半導体ではなく、ガリウムだとかヒ素だとかを素材としていて普通のシリコンで作る製品とは異なる「プロフェッショナルな」世界にいるからだ。かといってそれほど特殊な場所で使われているというわけでもない。

 この会社はマウスなどに組み込まれる光センサー製品から始まっていると思うのだが、今や光で接続するようなバックボーンでは欠かせない半導体を作っている。今や光なしには何も接続できない時代だ、みんなが毎日スマホで見ている画面のデータもその途中では光になって通過しているに違いないのだが、意識するのはラストのLTE回線くらいか。実際にはその後ろ側で動いている「インフラ」の膨大な装置やネットワークがあるわけだ。その中で、AVAGO Technologies=物理層でも一番下のところが主力の会社と考えると、Broadcomは物理層の途中あたりからネットワークに繋ぐあたりの中間層をやっているという認識でよいかもしれない。従来の水平分業、垂直統合などの概念からは外れるが、プロトコルの階層的には一種の「垂直統合」と言えないこともない。こちらは「垂直統合」で従来より守備範囲が広がることになる。当然相乗効果を期待してのことか。それとも他にも目論見あってか。

 どちらも従来の事業分野から一歩踏み出す買収に踏み切ったわけだが、それが大きな一歩になるのかどうかは、買収後の方向性が明らかになるまで分からない。しかし、動きの速いこのごろだから、買収の端境期に経営判断がもたつくようだと後手にまわる可能性もないわけではない。特に気になるのはFPGA業界のライバル、Xilinxの打つ手だ。座していては、そのうちIntelの攻勢にさらされることは明らかだから、相手の出てきそうなところに先手を打っておきたいところじゃないか。どこに手を打つ? それともこちらも誰かに買われるか、買うか? 半導体業界も1次リーグは終わり、決勝トーナメントがとうに始まっている感じだ。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。


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