テクノロジでより良い未来を作るためには変化を恐れずじっくりと準備――日本で働く米国人ワーキングマザー経営者の格闘記:Go AbekawaのGo Global!〜MarkLogic編(後)(3/3 ページ)
エンタープライズ NoSQLを提供する「MarkLogic」の日本支社長、三浦デニース氏へのインタビュー。後編は、夫婦とは何か、ワーキングマザーへのアドバイスなど、三浦氏のキャリア(人生)に焦点を当てて、話を伺った。
お互いを理解し思いやれるようになった時、夫婦はパートナーになる
阿部川 ご主人との関係はいかがですか?
三浦 主人と私は本当の意味で「チーム」です。どんな家族も、共働きの夫婦であればなおさら、チームワークが大切だと私は思います。主人はとてもオープンな性格ですので、チームとして大変うまくやれています。
出産した当初、3カ月ほどは伝統的な夫婦の形で、主人は外に仕事に出掛け、私は専業主婦として家で子どもと過ごしていました。彼が帰宅するまでに、部屋を掃除して、洗濯をして、家族の夕食を作って、という生活です。
状況が変わったのは、私がマークロジックに入社することになって、家族三人でカリフォルニアに移り住んだときです。私にはやらなければならない仕事が待っていましたが、主人は転職先が見つかるまでの3カ月ほどは無職でした。
全てが反対になり、私が仕事に出掛けて夕方帰宅するまでに、主人は掃除や洗濯、炊事などをやらなければならなくなりました。
ある日、帰宅すると主人が言いました。「今まで本当に申し訳なかった。家事がこんなに大変だとは思わなかった」と。主人は家事の大変さが分かり、私たち二人はそのとき初めて、本当の意味でお互いを思いやれるようになったのです。
阿部川 真の意味での、パートナーですね。
三浦 その通りです。普段はあまりじっくり話す時間がとれませんが、その日にあった良いことを少しずつシェアするようにしています。良いことの楽しみも悪いことの重荷もシェアしています。
異なる文化、異なる分野、双方をミックスした新たな価値を生み出す人へ
阿部川 お子さんたちには二つの祖国がありますが、その点はどう考えですか?また、将来はテクノロジ関連のキャリアを目指してほしいと思いますか?
三浦 子どもたちには、単に二つの言葉が分かるだけではなく、二つの国の文化を理解する人になってほしいと努力しています。続けるのが大変な努力ですが、同時に、家族の絆を強めてくれる楽しい努力でもあります。
私はアートやデザインが大変好きなのですが、学費の面からその分野を大学の専攻として選べませんでした。アーティストやミュージシャンになろうと思ったこともありません。しかし子どもたちには、テクノロジも、アートのようなクリエイティブな分野も、両方ミックスしたような、クリエイティブに満ちた何かを担ってもらいたいと思います。
単なるゲームといったものではなく、何か次のレベルのもの、世界を変えるもの、人々を刺激して発想を豊かにさせるもの、そんなものを考え出してくれればいいな、と願っています。彼らの世代が将来テクノロジとアートをどのように融合させられるのかと想像すると、少し嫉妬すら覚えますね。親にできることは、なるべく良いツールを与え、チャンスを作り、彼らの想いが早く実現するように助けることだと思います。
阿部川 最後に、エンジニア読者にメッセージをお願いします。
三浦 アジャイルに関連する全てのことはエンジニアにとって大切です。データベースに限らず、クラウド技術、ミドルウエアの活用、開発方法などに対してアジャイルなやり方を知ることは、競争優位に立つ上で大変重要なことです。どれほど早くマーケットシェアを占められるかで企業の売り上げは決まりますので。
アジャイルといえば、単に開発のための方法論の一つと思われるかもしれませんが、データベースの世界でいえば、新しいタイプのデータモデルを知り活用すること、ビジネス拡大に伴う都度のサイジングやプランニングの見直しなども、アジャイルな方法だと考えればいいでしょう。それらを知らないエンジニアは、それらを学ぶこと、それも今すぐにでも学び始めることが大切です。というのも、知らないことを学び、パラダイムをシフトするのは、結構時間がかかるからです。
現在データベースの世界では、NoSQLやビッグデータが広まるなど、大きなパラダイムシフトが起こっていると思います。データをどのように蓄積するかではなく、どのようにマネージするか、すなわち、どのように賢く検索するか、どのように賢くアクセスするか、どのように賢くシェアするか、が問われているのです。これらを深く調査、研究してみてはいかがでしょうか。
日本には、革新的なテクノロジに関して、またクリエイティブな思考に関して、そして業界のトレンドセッターとして、これまで強固で素晴らしい歴史があります。私が今回お話ししたことが、日本のエンジニアやデベロッパーの方々を刺激し、新しいエキサイティングな未来をもたらしてくれることを、心待ちにしています。
Go's“think out loud”〜インタビューを終えて
三浦さんは、学級委員長や、もしかしたら生徒会長だったのではないだろうか。問題は何かを見極め、熟考し、分かりやすく整理する。解決策を早口で提案し、リーダーシップを持って実行する。おそらくその意味では、彼女は小さいころから「社長」だった人だろう。しかし彼女の本当の強さは、間違いなくその忍耐力。自信を持って日本市場に攻め込むまで、通算7年の歳月を使ってじっくり準備するなど、なまなかにできることではない。マークロジックの企業としての底力でもある。
データのトランザクションがあるところには、必ずデータベース技術が存在する。その最前線に身を置く彼女からは、インタビューを通して、日々の仕事のタフさやプレッシャーが強く伝わってきた。そして同時に、テクノロジが創り出す未来への完璧な信頼と自信で、そのプレッシャーをいともたやすく飛び越えてもいるとも感じた。「次の世代のファウンデーションを創り出すために、一所懸命仕事をする」、その言葉は二人の子どもたちに向けた、ワーキングマザーからのメッセージでもあった。
アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、キャスター・リポーター
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語トレーナー、コミュニケーションに関する執筆、講座、講演も行っている。
編集部より
「Go Global!」では、インタビューを受けてくださる方を募集しています。海外に本社を持つ法人のCEOやCTOなどマネジメントの方が来日される際は、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。
ご連絡はこちらまで
@IT自分戦略研究所 Facebook/@IT自分戦略研究所 Twitter/電子メール
- 9時から17時までなんて日本人は働き過ぎ
- IoTならエジプトの諸問題を解決できる、そして学ぶなら日本がいい
- 日本で仕事すると、打ち合わせばかりしている気がする
- 私は「ナマケモノ」 レイジーになりたいので一生懸命勉強した
- ずっとプログラマーになりたかった
- 前例のないアジャイル事例を達成したらCOBOLプロジェクトを任された
- 人生は勉強だから、いろいろなことを学ばないと
- 父を思い医者を目指し、好きを求め車業界へ しかし国の経済発展を願いIT業界に飛び込んだ
- マネジメントも大切だけど、プログラミングを完全に手放すことはきっとない
- 学校帰りは「PCバンでオンラインゲーム」が、韓国の子どもの日常
- 分からない分、何でもできる。新しく勉強し始める時が一番自由だ
- 校長先生に「マジで行ってほしい」って言われて日本に留学した
- 若者が今、経験していることは私たちが経験したものとは違っている
- 「Apple II」に「Lisa」、そして「Macintosh」 私の青春はAppleとともにあった
- 「床で寝る」って日本の人に言ったら、びっくりされた
- 5歳くらいのとき、父と「これは何?」「CPUだよ」と遊んでいた
- 私には「日本の文化」がインストールされている
- 私はまだ18歳で、それまでの人生の全てはミャンマーに置いてきた
- 「ハードに」ではなく「スマートに」仕事をしていきたい
- 父のようなエンジニアなりたい そして少女は海を渡った
- エンジニアはきっと、皆、同じ夢を見ている
- 「話題にし続けてください。それが世界を変える」 ウクライナのエンジニアは今も戦っている
- 入試の点数は今でも覚えている だって人生で一番大事なことでしょう?
- 日本の女性が「あたし」って言うの、かわいいですよね
- ネパールの最高学府卒エンジニアは、給料の半分以上をふるさとに送金している
- 日本語は「西野カナ」が教えてくれた
- 「ジェイ、どう?」 オフィスの視察かと思ったら面接だった
- 末は「神父」か「エアクラフトエンジニア」か
- 日本人は「なぜこのコードを書いているのか」をおろそかにしがち
- 「最悪のシナリオ」と「最高のシナリオ」に大きな違いがないならリスクがある方を選ぶ
- バグがあっても心配いらない、それは単なるコードです
- 次元削減、局所性鋭敏型ハッシュ――コンピュータサイエンスは美しい
- 七転び八起き エンジニアだから何度でも立ち上がれる
- ラッピングの切れ端から、サンタクロースの正体を知った
- 技術かマネジメントか どちらかではなくどちらも大切
- 兄が私を技術の世界に連れて行ってくれた
- 「左様でございます」 チャレンジだけが成長の種になる
- 「人を幸せにしたい」から、人事を目指し、エンジニアになった
- プロジェクトが終わり、システムが動いている。こんなにうれしいことはない
- 数学が苦手だった、だからITの道に進んだ
- 日本の社会保障は神
- 医者にもなれる成績だったけどプログラマーを目指した。それが海外に出る近道だったから
- 日本のエンジニアは信じられないくらい細部にこだわる だがそれがいい
- セキュリティスキルはポッドキャストで身に付けた
- 学び、感謝し、挑戦する リリィ・ティオングの世界
- 「PCの切り抜き帖」と「3つの願い」、私は13歳だった
- 英語が難しい? エンジニアはもっと難しい言語を知っているじゃないか
- ロックやパンクが好きな人は、強い言葉をよく使う?
- 時間を厳守すること、誠実であること、清潔に仕事をすること、高い品質を維持すること 私を魅了した日本の価値観
- 小学校からバイリンガル ヒンディー語とマラーティー語の
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Go AbekawaのGo Global!〜MarkLogic編(前):事例! 事例! 事例! 女社長がとった忍耐強い日本参入作戦
注目のグローバルIT企業トップに話を伺うインタビューシリーズ。今回は、エンタープライズ NoSQLの先駆者として市場をリードするテクノロジ企業「MarkLogic」の日本支社長、三浦デニース氏に話を聞いた - Go AbekawaのGo Global!〜TechTarget編(後):人は幾つまでチャレンジできるか? 45歳だろうが、75歳だろうが、それが必要であれば「いつでも」だ
「TechTarget」APAC(アジア太平洋地域)統括ヴァイスプレジデントのJon Panker氏に、テレビリポーターからキャリアチェンジしたご自身の経歴を踏まえて、職業選択とチャレンジについて話してもらった - Go AbekawaのGo Global!〜TechTarget編(前):マネジャーは教師でもあり生徒でもある
注目のグローバルIT企業トップに話を伺うインタビューシリーズ。第2回は、IT製品/サービス情報メディア「TechTarget」APAC(アジア太平洋地域)統括ヴァイスプレジデントのJon Panker氏にお話を伺った - Go AbekawaのGo Global!〜Udacity編(前):ドミノピザにあって、ピザハットにないものとは?
ビジネスマンが生涯学び続けるためにテクノロジは何ができるか――オンライン講座の雄「Udacity」のVP、クラリッサ・シェン氏に話を聞いた - Go AbekawaのGo Global!〜Udacity編(後):何が素晴らしいって、仕事欄に「Web開発者」と書けたことだよ!
全ての意欲がある人に学ぶ機会を与えたい――オンライン講座サービス「Udacity」の目指す教育とは何か。女性副社長インタビュー第2段 - 元MSエバンジェリストが問う「グローバル」とは「海外で働く」とは
単身ベトナムに移住し、法人立ち上げ、現地エンジニア採用などに携わっているエンジニアの姿を通じて「グローバル」な働き方のノウハウや心構えなどをリポートする本連載。初回は「そもそもグローバルとは何か」「グローバルに打って出るための第0歩」を読者と共に考えます - 年収2500万円以上も夢じゃない? インドネシアでエンジニアとして働くという選択
成長著しいインドネシアでは、システム開発の需要が増え日本人エンジニアの人気が高まっているという。インドネシアで働くために必要な能力、そして気になる年収は?