マネジャーは教師でもあり生徒でもある:Go AbekawaのGo Global!〜TechTarget編(前)(1/2 ページ)
注目のグローバルIT企業トップに話を伺うインタビューシリーズ。第2回は、IT製品/サービス情報メディア「TechTarget」APAC(アジア太平洋地域)統括ヴァイスプレジデントのJon Panker氏にお話を伺った。
アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広が、注目のグローバルIT企業トップに話を伺うインタビューシリーズ。第2回は、IT製品/サービス情報メディア「TechTarget」のアジアパシフィック地域(APAC)統括ヴァイスプレジデントのJon Panker(ジョン・パンカー)氏だ。前編はTechTargetの人材育成理念、後編はキャリアチェンジや転職などについて、パンカー氏のキャリア観をじっくりと伺った。
専門職からマネジメント職へ移行すべきか否かは、多くのエンジニアが持つ悩みではないだろうか。Webメディアの編集という現場の業務からマネジメントへのキャリアチェンジを行い、海外に活躍の場を広げたパンカー氏の実体験に基づくアドバイスは、きっとエンジニア読者に響くものがあるだろう。
BtoB界のエクスペディア
阿部川“Go”久広(以降、阿部川) ようこそ、「Go Global」へ起こしいただきありがとうございます。最初にTechTargetについて教えてください。
Jon Panker(ジョン・パンカー)
TechTarget Vice President, International
米国のテレビ局で10年間ジャーナリストとして活躍。1999年にTechTargetに入社。編集記者、編集長、編集統括マネジャーを経て、ビジネスマネジメント担当に。現在はシンガポールでアジアパシフィック地域全体を統括している。好きな日本食は寿司。
Jon Panker氏(ジョン・パンカー:以降、パンカー氏) TechTargetは、ITの製品やサービスに関する情報を提供するWebメディアで、15年以上の歴史があります。
セキュリティやストレージ、ネットワークなど、100以上の分野やカテゴリーに細分化した専門サイトを運営し、専門情報を提供しています。専門サイトに載せる記事やクライアント提供のコンテンツは2000超のサブトピックにタグ付けされており、それらを会員が読んだりダウンロードしたりした行動が記録されます。それらの行動記録を基に、さらにニーズにあった情報を会員に届けられる、という仕組みです。
旅行情報サイト「エクスペディア」を例に説明しましょう。エクスペディアは「あなたが最近いつWebサイトに立ち寄ったか」「ハワイ行きのフライトをいつチェックしたか」、また「ハワイの島の中でも、特にカウアイ島に関する情報を収集していること」など、あなたのWebでの行動履歴を把握しています。
それを踏まえてエクスペディアがあなたに送るメールは、カウアイ島であなたが泊まりたくなるようなホテルの情報でしょう。それはあなたがオンライン上で行った行動にマッチするものなので、あなたはメールを不要なものやスパムではなく、むしろ自分に役立つものだと考えるでしょう。これをBtoBの分野で行っているのが、TechTargetです。
TechTargetのWebサイトは、英語や40以上の言語で情報を提供しています。APACの活動は、米国とほぼ同時に開始しました。APAC全体で400万人以上の会員を持ち、150社以上の提携会社とともにアジア地域に最適化した情報提供活動を推進しています。
この4〜5年は、市場へのさらなる定着を図るために現地オフィスの強化に努めています。シドニー、シンガポール、北京にオフィスがあり、東京ではアイティメディアと共同で事業を行っています。
阿部川“Go”久広(Hisahiro Go Abekawa)
ITmedia グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、キャスター・リポーター
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語トレーナー、コミュニケーションに関する執筆、講座、講演も行っている。
阿部川 パンカーさんは、いつからTechTargetで働いているのですか?
パンカー氏 1999年です。創業間もないTechTargetが若干名の社員募集広告を新聞に出しているのを見て面接に行きました。
阿部川 TechTargetは世界的に発展する企業になるだろうという予感はありましたか?
パンカー氏 正直に言って「この企業は必ず成功する」という確固とした思いがあったわけではありません。設立して日の浅い、まだまだ小さなスタートアップ企業でしたから、さまざまな問題を抱えていました。でも社内には活気がありました。何より卓越したビジネスプランがあり、「ぜひこの組織の一員になりたい」と私は思いました。
経営陣は常にビジョンを力強く語ってくれました。創設者でCEOのグレッグ(ストラコッシュ)が語る「TechTargetをこんな会社にしたい」という思いや、「この企業だけが提供できる価値」についてのビジョンは、15年間まったく変わっていません。
社内のタレント起用を優先する
パンカー氏 そしてもう一つ、私が「TechTargetは特別だ」と思っていることがあります。それは従業員に対する姿勢です。
例えば新たな事業やプロジェクトを立ち上げる際、TechTargetは社外から人を招き入れるのではなく、社内のスタッフに目を向けます。個人の能力をトレーニングによって高め、機会を与えて登用して、その能力を遺憾なく発揮してもらうのです。
私もそのステップを踏んできた一人です。私のTechTargetでのキャリアのスタートは編集者としてでした。そこで日々努力し、その努力が認められ、希望してマネジメント部門へ異動しました。新しい役割になってからも努力を重ね、その努力に応じた地位と報酬を得る、というプロセスを重ねてきました。
新しいプロジェクトを開始したり、新しい事業を展開したりする際に、自社のスタッフの育成や能力に目を向けるリーダーは、実はそれほど多くはないと思います。しかしわが社は、一番初めに社内のスタッフを起用することを考えます。それは従業員の会社に対する高いロイヤリティにもつながります。現在の経営陣の多くが、TechTargetに長く在籍し訓練を重ねてきた人々です。
オーストラリア地域本部の責任者は、22歳の時にマーケティング部の雑用係として入社しました。新卒で営業部に配属された青年は今、APACの副社長です。私は、優秀な社内スタッフをしっかり登用する文化を持った企業に属していることを大変誇りに思います。多くの同僚がどんどん責任あるポジションに登用されるのを見るのは、大変うれしいことです。
阿部川 素晴らしい。そのような伝統があるなら、「一所懸命仕事をしていれば、必ず誰かが見ていて、認めてくれる」という気持ちになれますね。
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