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第183回 IntelとMicronの新メモリ「3D Xpoint」が世界を変える!頭脳放談

IntelとMicron Technologyが共同開発中の新メモリ「3D Xpoint」。「速い」「安い」「消えない」といいことづくめのこのメモリは、ストレージクラスメモリの新しいスタンダードになるかもしれない。3D Xpointは、ストレージの世界を変えるのか?

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 前回もメモリ関係の話題を取り上げたが、書いた直後の2015年7月末に大きなニュースが出てしまったので、今月もメモリを取り上げることにする。IntelとMicron Technologyが共同で「3D Xpoint(スリーディー クロスポイントと読ませる)」と名付けた新メモリ技術を開発したというニュースだ(Intelのニュースリリース「インテルとマイクロン、画期的なメモリー技術を開発」)。もともとIntelとMicron Technologyは、それぞれの主力製品であるマイクロプロセッサーとDRAMをめぐる開発で何かと協力関係にある。そして、今回は「NANDフラッシュの登場以来の新技術」と自ら豪語する新メモリ製品でのタッグである。

IntelとMicron Technologyが共同開発した「3D Xpoint」
IntelとMicron Technologyが共同開発した「3D Xpoint」
3D Xpointは、クロスした配線と配線の交差点にトランジスタなしに「ビット」を蓄えられる不揮発性メモリの新技術。NANDフラッシュと比べて、1000倍の速さを実現するという。

 最初に一言書いておくと、今回の発表は「上場会社として、投資家に対する必要かつ正確な情報の開示」という視点からなされたものだろうと推測されることだ。IntelやMicron Technologyの社内事情は知らないが、「自ら豪語」するような新規の技術について、まだ開発途上のものであっても、何も情報公開しないでいると、後でまずいことになりかねない。

 豪語するほどの新技術と考えているのならば、商品化できた暁には会社の業績に大きな影響があるはずだからだ。当然「商品化に向けて未来のことにはいろいろリスクもある」ことも含めて2社が共同でそういうものに取り組んでいるということを投資家に向けて開示しておかないとならない。多分、これだけの新技術の商品化ともなると両社内で関わっている関係者の数も相当数になるだろう。

 開示しないでいて、変なうわさなどが出たときにたまたま自社株を取引した関係者がいたら、インサイダー取引などに問われかねない。市場にまずは知らせておかないとならないわけだ。かといって、期待をあおっておいて、「駄目でした」では不正な情報操作ともみられかねないから、事実と見通しを「冷静、正確」に述べなければならない。立派な上場企業の神経を使うところである。

 その代わりと言ってはなんだか、そのような目的の開示であろうと思われるので「詳細な技術」については開示する必要は全くない。ビジネス的なインパクトに焦点があるのであって、技術の内容そのものが問われるわけではないからだ。実際、今回のニュースリリースには、既存技術と比べてどのくらいのインパクトがあるのか、小学生の算数的な例え話ばかりを並べてある。

 半導体屋からしたら「全く説明になっていない」のだが、半導体業界向けにニュースリリースを書いてしまうと、一般の人には何だか分からないものになってしまうので、あえてという判断じゃないだろうか(それにしてもちょっと読む人をなめている感じもしなくもない……)。

 それでも、クロスした配線と配線の交差点にトランジスタなしに「ビット」を蓄えられる、そしてその層は、最初の2層で始まるが、もっと積層できるので集積度はうなぎ上りだ、ということくらいは分かる(Intelの「不揮発性メモリー」ページ参照のこと)。それ以外の詳しいことはほとんど何も書いていない。当然、基本的な特許などは今回の公表前に出願しているだろうが、周辺特許などを網羅していくのには結構な時間がかかるものだ。細かい技術的なことは、一通り関連特許の出願などを済ませた後、学会発表や特許公報の公開の中で明らかになっていくということだろう。

 さて、この3D Xpointという新メモリだが、狙っているのは「ストレージ」としてのメモリ市場のようだ。売り込みポイントは「速い」「安い」「消えない」と、どこかの牛丼チェーンのようである。その比較相手はフラッシュメモリだ。現在ハードディスクの市場をフラッシュメモリが脅かしているが、その後ろからこのメモリが襲おうという構図である。「ストレージクラスメモリ」という言葉もあるのだが、どうもそれよりも狙いは広そうだ。大上段にNANDフラッシュを主敵として粉砕するもくろみのようである。

 本コラムで何度も取り上げさせてもらったが、消えない(ノンボラタイル)新メモリ技術というのは他にいくつもある。名を挙げればSTT-MRAM、ReRAM、PCRAM、FeRAMなどだ。どのメモリも速いというところではアピールしているが、「安い」という点では「将来安くなる可能性は十分あるけれども、最初から既存のメモリ技術と値段でぶつかるとつらい」ので、直接にはぶつからない隙間をターゲットとして市場参入を狙っているものが多い。

 STT-MRAMあたりは、その高速性でキャッシュSRAMと主記憶DRAMの隙間あたりを狙っているようだし、いくつかあるReRAM系統は、DRAMとNANDフラッシュの隙間(そこがストレージクラスメモリといわれるあたりだが)を狙っているようだ。それに対して3D Xpointは、NANDフラッシュに真っ向勝負を宣言している。まぁ、投資家向け発表ということを考えるとそれも当然だろう。

 既存のメモリ市場で何兆円といった市場規模があるのはNANDフラッシュかDRAMしかない。今のところささやかな市場規模にとどまる隙間メモリ市場を狙いますなどといっても、「投資家をミスリードするような低い目標の開示」と言われかねない。「敵は本能寺」とハッキリ言っておかないとならないわけだ。

 実際には、このメモリの本格出荷が始まり、応用製品が市場で受け入れられるかどうかハッキリするまでは、即座にNANDフラッシュのビジネスが変調をきたすとも思えない。何せNANDフラッシュは、現物が大量に流れていて実需が伴っているからだ。鳴り物入りで発表されたメモリは数々あり、製品にならなかったものも多い。製品出荷までこぎ着けたものも多いが、その後尻すぼみで終わったメモリもまた多い。

 NANDフラッシュ陣営にしたら冷や冷やものだが、現流品を握っている強みで取りあえず迎え撃つ準備をしておくくらいのものだろう。それより即座に影響が大きそうなのは「隙間狙い」の新メモリを持つ各社だ。特にターゲットがかぶってくるReRAM系統じゃないだろうか。

 IntelとMicron Technologyという強力なコンビが価格の安い新製品を出してくるとなると、市場参入に向けて進んでいた商談も吹き飛びかねない。メモリを買う側からしたら、新たなメモリを使った新規製品の企画は、「取りあえずIntelとMicron Technologyのサンプルを見てから考えようね、それまでは今までのメモリでつなごう」などという話がでてしまうかもしれない。そうなると足場が弱いだけで万事休すとなりかねない。

 このメモリ、年内にはサンプルが出てくるらしい。本当にNANDフラッシュを打倒できる雰囲気のあるものがそのタイミングで出てくると凄いかもしれない。なにせ、ネットワーク上のストレージに溜まっていくデータ量は、爆発的に増えており、それに対して業界が製造可能な記憶装置の「ビット数」が足らなくなる、という予想があるからだ。この先、ストレージとしてのメモリ市場が急激に伸びる可能性があるわけだ。そこにこの新メモリがうまく適合すると、既存のメモリ市場を総取りした上にさらに大きなパイが望めることになる。

 それにしても3D Xpointという名には引っかかりがある。もう二昔以上も前になるが、まだFPGA業界が百家争鳴状態だったころに「クロスポイント」という名のFPGAがあったのだ。ちなみに日本ではアスキーが売っていたはず。今のXilinxやAlteraなどのLUT(ルックアップテーブル)を使ったFPGAとは異なり、クロスポイントのチップは、縦と横に編まれた配線の間にNAND回路が敷き詰めてある感じのシンプルな回路のものだったと記憶している。名は体を表す。魚竜とイルカくらいの世代差がありそうだが、なりは似ている。そのころを知るものとしては「クロスポイント」の亡霊がメモリになってさまよい出た感じがしなくもない。荒れるであろうメモリとストレージの海を席巻することになるのかどうか、サンプルが出ればそう遠くなく答えはで出るだろう。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサーのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサーの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサーを中心とした開発を行っている。


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