CVRをあと10%アップする、ビッグデータ分析とアダプティブUXの使い方:ABテストによるUX改善のコツ大解剖(4)(2/2 ページ)
ABテストを利用したサイト改善の限界にぶつかっている人たちに向けて、リクルートグループ内で実践している改善ノウハウをお伝えする連載。今回は、中古車販売サイト「カーセンサー」を例に「検討フェーズ」を軸とした個別最適化やビッグデータ分析の有効な生かし方について解説する。
カーセンサーにおける事例の紹介
【事例1】「条件形成」フェーズのユーザーの態度変容
カーセンサーでは、いわゆる指名検索やビッグワードでトップページから訪れるユーザーだけではなく、例えば「プリウス 中古」のような「車種名+中古車」のキーワードで、直接物件(※)一覧ページに訪れるユーザーも多く、主要導線の一つとなっている。
※カーセンサーでは個別の中古車1台1台のことを「物件」と呼んでいるため、本稿でもそれに従って呼ぶこととする。
そうしたキーワードで流入するユーザーの中には、下記の両方が存在している。
- 「プリウスの中古相場を知りたい」という「条件形成」フェーズのユーザー
- 「自分の欲しい条件に合ったプリウスの個別物件を探したい」という「比較検討」フェーズのユーザー
そのうち、比較検討フェーズのユーザーであれば、「物件一覧ページに訪れた後、すぐに絞り込み機能を使って自分が求める車の条件を指定した上で、個別の物件詳細ページまで見てくれる」が、条件形成フェーズのユーザーの場合、「一覧で写真や価格の情報を一通り見るだけで、個別物件詳細までは進まずにサイトから離脱してしまう」というような傾向が見られた。
実際、ビッグデータチームの協力を得て一覧ページで離脱するユーザーの行動を分析したところ、「ページに訪れてすぐに離脱してしまうユーザーもいるが、比較的ページに長く滞在していたり、一覧を何ページも進んだりした上で離脱する」という行動も非常に多かった。
そこで、そうした行動を取るカスタマーについて「並んでいる物件を見て相場を知ることはできるが、特に条件などが決まっていないため、それ以上進めないのではないか」という仮説を立て、「ユーザーに対し、こちらから絞り込み機能を積極的に提示することで先に進んでもらう」施策を実施した。
具体的には、物件一覧に訪れた後、絞り込み機能を使わずに一覧ページに一定時間以上滞在した場合に、カーセンサーにおける主要絞り込み条件である「地域」と「価格」の絞り込みを一覧上部に表示するようにしたのである。
こちらの施策についても、絞り込みを表示するパターンと表示しないパターンのABテストで実施したところ、「実際に絞り込み表示されると、それを利用して絞り込む」という行動が増え、UUベースでのCVRも向上する結果につながった。
【事例2】「意思決定」フェーズのユーザーの後押し
続く事例は、候補の物件がいくつか見つかった「意思決定フェーズ」のカスタマーに対する施策である。
具体的には、「ある程度気に入った物件が見つかり、問い合わせしようかどうかを迷っているカスタマーに対し、物件の検討中人数を表示する」ことで、アクションを後押しするということを実施した施策である。こちらの施策もABテストで実施したところ、場合によってCVRが10%以上向上する結果が見られた。
検討中人数の表示は、最近では旅行予約サイトなどを中心に非常にポピュラーな施策であり、目にしたことがある人も多いだろう。中古車は特に、全く同じ物件は世の中に1台もないという「一物一価」であるため、「この物件を他にも狙っている人がいる」と伝えることが強い後押しになるのである。
ただし、アダプティブUXの事例として重要なのは、全ユーザーに一律に表示するのではなく、「気に入った物件に出会えた」というフェーズを捉え、そうしたユーザーにだけ表示したという点である。こちらも、ビッグデータチームと協力して、「気に入った物件に出会えた」という状態をどう判定するかを分析から明らかにし、その条件に当てはまるユーザーを特定して、施策を表示している。
余談であるが、試しに検討フェーズを判定せずに全ユーザーに対して検討中人数を表出したところ、かえってCVRが悪化する結果になってしまった。おそらく、まだ比較検討中のカスタマーの場合、「すでに別の誰かが狙っている」という事実を見せられることで、かえって「無理そうなので、やめておこう」というような意欲減退につながるのではないかと考えている。この試みからも、フェーズに合わせたアダプティブUXの重要性が証明されたわけである。
他にも、ユーザーの行動パターンに合わせ、適切なタイミングで絞り込みや並べ替えといった行動を促すような施策を10以上展開しており、CVRが10%以上向上したケースもある。
複数の領域でアダプティブUXを推進し、知見を共有し合う
今回はカーセンサーでの事例をご紹介したが、同じくリクルートマーケティングパートナーズで運営している「ゼクシィ」でも同様に、アダプティブUXの取り組みを実施している。
花嫁の結婚式準備は、車購入にもまして長期間にわたり、なおかつ式場探し、指輪探し、ドレスやヘアスタイルの検討、演出の検討など、さまざまな検討フェーズがある。そのため、アダプティブUXの重要性はとても大きい。ゼクシィでは例えば、アプリの「ダンドリチェック」によってカスタマーの検討フェーズを把握し、そこに合わせた記事コンテンツを配信するなどといった施策を実施している。
このように、サービス横断的にアダプティブUXの取り組みを進めながら、それぞれの間での知見を共有し合うことで、常に新しい試行錯誤を行い、全領域での成果最大化を目指している。
次回は、アダプティブUXのもう一つの軸、「ペルソナ(探し方)」による個別最適の事例を紹介したい。
筆者紹介
反中望
ユーザー心理分析をベースとしたデジタルマーケティングのコンサルタントを経て、2015年1月にリクルートテクノロジーズ入社。ユーザー理解に基づく成果創出に強みを持ち、現在は「ゼクシィ」「カーセンサー」で「アダプティブUX」デザインを推進。
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