ABテストを利用したサイト改善の限界にぶつかっている人たちに向けて、リクルートグループ内で実践している改善ノウハウをお伝えする連載。初回はユーザー体験(シナリオ)の良しあしの検証と、改善するABテストの基本的な考え方、サービス改善PDCAプロセス、チーム体制について。
WebサイトやWebサービスの改善の現場においては、ABテストを利用して改善を行っていくのは、すでにスタンダードになっている。一方で、ABテストを繰り返して改善を行ってみても、なかなか成果につながらずに行き詰まりを感じているケースも多いだろう。
本連載では、ABテストを利用したサイト改善の限界にぶつかっている人たちに向けて、リクルートグループ内で実践している改善ノウハウをお伝えしたい。Webサービスの改善に関わる企画担当者、ディレクター、デザイナー、エンジニアといった、全ての方々にとって役に立つ内容となると考えている。
ABテストに限らず、Webサイトを効果的に改善して成果を上げるには、サイト上におけるユーザー体験(いわゆる「UX」だが、「ジャーニー」や「シナリオ」というのもほぼ同じようなことを指しているといえる)をきちんと設計することが基本となる。
この「ユーザー体験を設計する」という思想を踏まえて、リクルートマーケティングパートナーズとリクルートテクノロジーズでは協業して、「シナリオベースABテスト」「アダプティブUX」という二つの新しいアプローチによるサイト改善を実践。 実際にリクルートマーケティングパートナーズで運営している「カーセンサー」「ゼクシィ」「リクナビ進学」といったWebサービスを継続的に成長させることに成功している。
「ABテストで成果が上がらない」という壁を乗り越えるには、「ユーザー体験設計」という思想に基づき、この二つのアプローチを理解し、実践することが有効であろう。
一つ目の「シナリオベースABテスト」とは、ABテストを「単なる見た目のデザインの良し悪しではなく、ユーザー体験(シナリオ)の良しあしを検証し、改善するためのツール」として活用する、ということである。
一般的なABテストでよく見られるのが、ボタンの色を変えたり、要素の配置を単純に入れ替えたりするような、サイトのデザインを変えるABテストだが、それではABテストの力を十分に活用できているとは言えない。
シナリオベースABテストの考え方や具体的な事例、進め方のポイントについては連載第1回である今回と第2回で詳しくお伝えする。
シナリオベースでの改善を推し進めた先にあるのが、二つ目のポイントである「アダプティブUX」である。
耳慣れない言葉だと思うが、「アダプト(Adapt)」とは「適応・順応」という意味だ。「アダプティブUX」とは、ユーザー体験を一律に提供するのではなく、個々のユーザーに適応させていくことを指して、筆者たちが作った造語である。
詳しくは連載第3回以降で詳述するが、「カーセンサー」や「ゼクシィ」といったサイトでは、個々のユーザーの嗜好(しこう)性や検討フェーズに合わせて、機能やコンテンツを動的に変化させることで、最適なユーザー体験を提供し、大きな成果を上げている。
一般的なABテストというと「ボタンの文言を変更することでXX%の改善!」のような、ページ内の特定のパーツのデザインの変更を行う内容を想像される人が多いだろう。もちろん一つのパーツのデザインが、ユーザーの態度変容に対して影響が大きい場合は適切なテストである場合もあるかもしれない。
しかし、近年のWebサービスは総合的な体験を提供し、ユーザーとの関わりは深化し続けている。店頭に行かずとも日常消費の買い物ができるECサイトのように1回1回のユーザー体験のゴールまでが比較的短期で廉価のものだけではなく、購入単価がより高く、必然的に検討期間も長くなる商品を提供するサービスも日々増え続けている。
このような規模のサービスにおいては、表面的なデザインの変更のみでは全体に与えるインパクトが相対的に小さい。そこで、シナリオベースABテストが必要になってくる。
シナリオベースABテストを設計するに当たって重要な概念が、「ユーザーはどのような経路をたどり、ゴールである問い合わせ・購買行動に至っているか」だ。ユーザーに対して提供している価値は、単一の画面の機能やデザインに収まらず、掲載されている情報の検索・絞り込み・閲覧・検討という一連の経路全体によって構成されている。この経路のことを筆者たちは「導線」という呼び方をしている。
シナリオベースABテストでは、導線上での動きを定量的に分析し、課題となっている箇所はどこかを特定する。そして当該部分のユーザー体験を変えてみる。それに伴って全体の導線の流れがどのように変化するか、提供価値にどのような影響をもたらしているのか。これらを俯瞰して捉えた結果から、サイトがユーザーに対してより良い形に改善できたかどうかを判断できる。
前提として、高単価で長期間の商品の購買行動、例えば中古車の購入問い合わせや結婚式場の予約などをゴールとして、そこまでに至るユーザー体験が設計されていなければならない。これについては本稿では詳細に触れないが、マーケティング領域において定義されてきた「AIDMAモデル」や「AISASモデル」などの購買プロセスの整理、ユーザーニーズの発生からサービスの認知・接触・利用に至るまでのカスタマージャーニーマップの作成などを組み合わせながら、Webアプリ/サービスの利用開始からゴールに至るまでを対象範囲として適用することで設計していくことが可能になる。
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