ABテストを利用したサイト改善の限界にぶつかっている人たちに向けて、リクルートグループ内で実践している改善ノウハウをお伝えする連載。今回は、「ペルソナ(嗜好性)」の重要性とカーセンサーにおける、3つの「探し方の嗜好性」の例、ペルソナによるアダプティブUXの有効性などについて。
これまで4回の連載を通して、「ABテストによるUX改善のコツ大解剖」と題して、リクルートグループ内において実際に行われているABテストの手法をお伝えしてきた。
第1回では、表面的に画面の要素単位で回収するABテストから、複数の画面や機能にわたってトータルの体験シナリオを分けてテストする「シナリオベースABテスト」の考え方を紹介。第2回は、それらのABテストを組織内で正しく素早く行いながら意思決定を重ね、サービスの成長サイクルを高速化していくためのノウハウを6つに分けてお伝えした。
第3回は、ABテストの改善による3つの限界と、「アダプティブUX」の重要性について解説。そして、第4回では、具体的なカーセンサーでの事例として、検討フェーズやペルソナ(探し方)によるユーザーの個別最適化施策を紹介した。
今回は、いよいよ最終回。「ペルソナ(嗜好(しこう)性)」というテーマについてお話しする。
前回は「検討フェーズ」によるアダプティブUXは、結婚式場探しや中古車探しといった、単価が高く、検討期間も比較的長くなる「ライフイベント領域」のWebサービスにおいて有効なアプローチだとお伝えした。
今回取り扱う「ペルソナ」という概念は、ユーザー一人一人が持つ、そもそもの考え方や生活・消費の仕方の特性を指す。この概念は「ライフイベント領域」はもちろん、「ライフスタイル領域」と呼ばれる、ECサイトや、飲食・旅行など日常的なサービスにおいても有効となる概念である。
例えばECサイトに訪れるユーザーに対して、レコメンデーション機能を提供することを考えてみよう。「ペルソナ」によって、「他人の行動を気にする人」なのか「とにかくお買い得な限定商品を探している人」かなどで分けられる。一つ視点を広げ、サービスが提供する体験としても、「情報が多い中で見つけるのが好きな人」なのか「絞り込まれた状態を見た方が早く決められる人」なのかといった特性の違いはアクションに対して大きな違いを生むことが想定される。
「カーセンサー」(リクルートマーケティングパートナーズ運営)では中古車を探す際のペルソナを、「探し方の嗜好性」という軸で分けており、カスタマー調査などの結果から、下記のような3つのペルソナが見えてきた。
この切り口は、前回の「検討フェーズ」のように段階が進むにつれて変化するのではなく、個人の行動特性として検討期間を通じて一貫した嗜好性であると捉えることができる。
連載第3回では、「ABテストの結果が、効果が現れているユーザーと、そうでないユーザーが混ざってしまい、全体としては効果が出ていないように見えてしまう課題が生じる」ことを書いたが、ペルソナによるアダプティブUXは、この問題に対して取り組むことを可能にする。
特定の機能を提供した結果、あるペルソナに対しては効果が現れたが、一方で逆効果が生じているという問題が可視化できたならば、それを踏まえ、個別にUXを提供することで、サービスへ来訪している複数のユーザー層に対して、個別に“おもてなし”ができる。
通常のサイト改善が「多数派ユーザーのCVR向上」を志向するのに対し、ペルソナによるアダプティブUXは「少数派も含めたあらゆるユーザーのCVR向上」を志向するといえる。
カーセンサーにおける、「探し方の嗜好性」の違いによるアダプティブUXの具体的事例を2つ紹介する。先ほど述べた3つのタイプをベースに実際に行った施策である。
初めの事例は、「物件単位で自分のこだわりから良いものを見つけよう」とするのではなく「中古車の購入検討自体を人に頼りたい」と考えている層(先ほどのペルソナ2)を対象とした施策だ。この施策のターゲットは以下の特徴が挙げられる。
このことから、「全国から希望の中古車を探せる体験の提供」ではなく、「近くに用途にあった安心の車を置いている中古車販売店を探せる体験の提供」をゴールに置き直し、サイトへ実装した。元来カーセンサーに実装されている、メーカー名などから車種を指定するような知識を必要とせず使えるようになっている。
この機能を提供した結果、利用意向を示したユーザーについては、全体の平均に対してCVRが高まる傾向が見られた。特に、カーセンサーに訪れた経験回数が少ないユーザーにおいて、相対的に利用者の割合が高くなる傾向があった。
次の事例は、自分で決定していくつもりはあるものの、深い知識は付けずに失敗しない購入をしたいと考えている層だ。この層の特徴としては以下のような点が挙げられる。
例えば、家電製品の購入を検討する際に、「今売れているのか」「人気のものか」はしっかり吟味する一方、「どこのメーカーのものか」「スペックの違いはどうなっているのか」までははっきり見ない方も読者の中にはいるのではないだろうか。
このユーザー層に対しては、カーセンサーで独自集計しているデータを用いて、車種ごとのランキング情報から選ぶことができる機能を実装した。
このアプローチの結果でも前項と同様に、一部のユーザーに対してはCVRを改善する結果を得ることができた。
前回から、「検討フェーズ×ペルソナ」という考え方でアダプティブUXの試みを具体的に紹介してきた。第4回で紹介した事例は、「アダプティブUX」の考え方を用いて行ったほんの一例にすぎない。
サービスのターゲットカスタマーを複数セグメントに分けて捉える概念は、マーケティング上、大きな目新しさはなく、例えば「One to Oneマーケティング」といった言葉は以前から言われてきた。どちらかというとWebサービスにおいて、このような試みを可能にする技術が使えるようになってきた。つまり、やっと理論に応用が追いついてきた状況に思える。
リクルートの各サービスにおいては、今後もカスタマーセグメントの定義の仕方、現在サイトにはない、提供可能な体験について、取り組んでいく予定だ。
これまでの連載がABテストを行う意義を組織の中で伝えていきたい人や、テストを実施しながら日々繰り返す中でなかなか効果が上げられない壁に当たっている人にとって、ITスキルにマーケティングの観点を取り入れることで新たな施策が見えてくるヒントになれば幸いである。私たちの組織でも日々チャレンジを繰り返しており、グループ全体として、こうした仕掛けをより加速させるべく目下メンバーの採用・育成に努めている。
2010年4月新卒入社。2011年よりリクルートテクノロジーズのUXデザインG、2015年10月より同社サービスデザイン部デジタルマーケティングGに所属。グループ横断でUI/UXの改善施策の推進やCRM施策の実施、DSPを利用した商品開発など、デジタルマーケティング領域を担当。現在は「カーセンサー」のアダプティブUXデザインを推進。
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