“データ”を医療サービスの向上、病院経営の武器に――ときわ会 常磐病院のDWH/BI活用:最新のIT技術で変わる医療の現場(2/3 ページ)
「病院内で利用しているさまざまなシステムのデータを集約/分析するDWH/BI基盤を整備し、医療サービス向上や経営効率化の推進力とする」──福島県いわき市の常磐病院で進められているこの取り組みが、大きな成果を生みつつある。そのDWH/BI基盤を担うのが“Oracle Database 12c on ODA”だ。[プライベートクラウド/データベース統合][パブリッククラウド][高可用性/災害対策][Engineered System][Oracle Cloud][Oracle Enterprise Manager]
このように経営層とIT部門が一体となって検討を進めた結果、データ二次利用の推進に向けて次の施策を決定する。
- 電子カルテや医療事務会計、物流の他、透析や検診といった各医療支援システムからデータを収集し、データの検索/分析が行えるDWH基盤を構築する
- DWH基盤に蓄積したデータを基に、病院運営の効率化やサービス向上、経営効率化などを図るための指標値を可視化し、各担当者が課題解決を図ることのできる医療用BIツールを導入する
- 高速なDWH基盤としてOracle Database 12cとOracle Database Applianceの最適な組み合わせを採用。同じ基盤でBIツールも稼働
これらの施策の実現で第一の関門となったのは、各システムからデータを集約するデータベース基盤の選定である。木村氏は検討の末、「Oracle Database 12c」と「Oracle Database Appliance(ODA)」の最適な組み合わせの採用を決めた。その理由を次のように説明する。
「Oracle Database Applianceの導入を決めた最大の理由は、高いパフォーマンスを備えながら、低コストでOracle Database Enterprise Editionを利用できることです。また、セキュリティ機能が充実しており、各システムから集約したデータをセキュアに扱える点も大きな魅力でした」(木村氏)
Oracle Database Appliance上で利用するOracle Databaseについては、将来的なパブリッククラウド(Oracle Cloud)の活用も視野に入れ、最新のOracle Database 12cを採用した。12cであれば同一のアーキテクチャ/機能を活用できるため、将来、オンプレミスのシステムとパブリッククラウドの間でデータ移行を容易に進められるからだ。この決断の背景には、東日本大震災でときわ会が直面した一つの苦難がある。
「震災の際、いわき市では約1カ月にわたって断水が続きましたが、大量の水を使用する人工透析治療にとって、これは危機的な事態です。急きょ、約400人の透析患者を他県の医療機関に移送し、そこで治療を継続することにしました。ところが、当時は治療歴や投薬歴を紙ベースで管理していたため、それらの情報を正確に把握して治療を行うのに多くの苦労を伴いました。
これは、私たちがパブリッククラウドに注目する契機にもなった出来事でした。パブリッククラウドであれば、災害が起きてもデータが失われることはなく、さらにそのデータをどこからでも利用することができます。人命を預かる医療機関の事業継続性を高める上で、パブリッククラウドは極めて有効であり、将来的には常磐病院やときわ会の全システムをパブリッククラウドに移行することも検討しています。それにより、当会の病院/クリニック間で患者が転院する際にも、診療情報をスムーズに引き継げるようになります」(木村氏)
医療用BIツールについては、全国の医療機関で豊富な実績を持ち、Oracle Database 12cにいち早く対応していた医用工学研究所の「CLISTA!」の採用を決める。その稼働基盤としてアプリケーション用サーバが必要となるが、ここで早速、Oracle Database Applianceの採用効果が現れる。
「Oracle Database Applianceでは、オラクルの仮想化技術である『Oracle VM』を実行することができます。そこで、Oracle VM上でCLISTA! を動作させることにより、ハードウェア構成をシンプルにし、運用管理の手間やファシリティコストを削減するというアプローチを採ったのです」(木村氏)
なお、「医療機関におけるOracle Database 12cの採用」と「Oracle Database Appliance上でのアプリケーション実行」の組み合わせは、国内医療機関ではときわ会が第一号ユーザーとなる。
各種レポーティングのスピード化と省コスト化ですぐに導入効果を実感
常磐病院では、Oracle Database 12cとOracle Database Applianceを核に据えたデータ活用基盤の導入を、大きく二つのフェーズに分けて進めている。
まず2014年9月から2015年10月にかけて実施された第一フェーズでは、電子カルテ、医療事務会計、物流及び医療支援の各システムからデータを取得し、検索や統計出力が行える環境を構築。さまざまな観点から診療指標などを算出できるよう、データの二次利用基盤を整えた。
この中で、Oracle Database Applianceによるデータベース基盤の導入はスムーズに進んだ。汎用サーバ製品を用いた場合、データベース基盤の構築には、通常であれば数週間〜数カ月を要する。それに対して、Oracle Database Applianceはハードウェアとソフトウェアが事前に構成済みで納入されるため、わずか2日間でデータベース基盤が稼働を開始したという。
また、第一フェーズと並行して2014年4月にスタートした第二フェーズでは、人事給与や財務会計システムからもデータを取得し、第一フェーズで取得可能となったデータと合わせて活用することで、精度の高い原価計算が行える経営分析基盤の整備を進めている。現在は2016年3月の完了を目指して作業が進むが、「既に収益についてはスピーディなレポーティングが可能となり、その効果を実感している」と常磐病院 事務長の黒田浩行氏は話す。
「従来、経営会議で使うレポートを出すまでに約2カ月かかっていましたが、収益に関しては現在、1週間程度で出せるようになりました。今後は支出に関しても同様のスピードで確認できるようにしていきたいですね」(黒田氏)
レポーティングのための集計業務も大幅に効率化/省コスト化された。
「これまで、外部の監督機関やグループの管理部門、経営会議に提出する各種レポートに掲載するデータは、全て手作業で収集/集計していました。それがデータ活用基盤によってスピーディに取得/集計できるようになり、データ収集/集計に要していた手間とコストが大きく削減されました。この部分だけでも大きな効果があるため、手作業で行っていたデータ収集/集計作業は全てこの基盤で行うよう置き換えを進めています。最終的には、看護師が提出する看護日報なども、データ活用基盤を使って電子的に作成/管理していきたいと思います。それにより、現場の負担が大きく減り、職員が本来の業務に集中できるようになります」(黒田氏)
その一方、データの可視化を進める中で新たな課題も浮上してきた。
「例えば、一人の患者の診療に要しているコストを算出するためには、薬剤や医療器具をどれだけ使用したのか、詳細かつ正確な情報が必要になります。しかし、なかにはそうした情報の把握が十分ではない項目のあることが分かりました。この情報がなければ、正確な原価計算は行えません。そこで、第二フェーズではそれらの情報を記録する体制/仕組みを整え、DWHに対する入力の精度を高める取り組みも進めています」(黒田氏)
加えて、第一フェーズで整備したデータ二次利用基盤に対し、各部門から「こんなデータを見たい」といった要求が新たに寄せられている。そこで、第一フェーズの追加作業として、それらの要求に応えるための追加開発が並行して行われているという。
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