金融庁はFinTech革命にどう向き合うのか?――新たな決済サービス、キャッシュマネジメントサービス、電子記録債権、XML電文、国際ローバリュー送金、そして規制改正:特集:FinTech入門(6)(2/4 ページ)
金融とITの融合によって多様で革新的な金融サービスを生み出す原動力になると期待されるFinTech。FinTechは日本の金融システムに何をもたらそうとしているのか? 1月20日に開催された「BINET倶楽部セミナー」では、金融庁総務企画局企画課で企画官を務める神田潤一氏が「日本におけるFinTechの活性化に向けた金融庁の取り組み」と題して講演を行った。
【ホールセール分野】欧米銀に先行を許す「キャッシュマネジメントサービス」の高度化と「電子記録債権」の利用促進が急務
ホールセール分野で検討が進められている課題の1つは、日本の銀行、とりわけ主要銀行におけるキャッシュマネジメントサービス(CMS)の高度化である。
現在、グローバル企業の多くは、グループ全体で経営の集約化・効率化に積極的に取り組んでおり、資金の管理や移動、債権管理、財務/資金リスク管理などを統一的にコントロールするニーズが高まっている。しかし、欧米の主要銀行がCMSを経営戦略の大きな柱と位置付けて先進的なサービスを積極的に提供しているのに対し、日本の主要銀行はそうしたニーズに十分に対応しきれていないのが現状だ。
神田氏によると、英国『euromoney』誌が実施した「Cash Management Survey 2014」の国際CMSランキング(利用企業の評価)を見ると、日本の銀行は最高位でもようやく15位に入っているにすぎないという。
決済スタディグループの中間整理では、日本の主要銀行に対して、CMSの経営戦略上の位置付けを明確化し、IT投資の拡大を図るとともに、海外拠点を活用した機動的な事業展開など進めることによって、企業の資金管理ニーズに対応する環境を整備することを求めている。
ホールセール分野で、もう1つ検討が進められているのが、手形や振込に代わる新たな決済手段である「電子記録債権」の利用を促進することだ。電子記録債権に関しては、2008年12月の「電子記録債権法」の施行を受け、2009年からメガバンク3行が順次サービスを開始。2013年には全国銀行協会が「でんさいネット」のサービスをスタートした。しかし、神田氏によると、その利用件数は伸び悩んでおり、当初の計画の半分程度にとどまっているという。
こうした状況を打開するために、決済スタディグループの中間整理では、メガバンクが立ち上げた電子債権記録機関の間で電子記録債権の移動を可能にしたり、「でんさいネット」においてメガバンクなどが提供するファクタリング(売掛債権買取)の利用を拡大したりするなど、電子記録債権自体の使い勝手を良くすることで活用を促していく方向性が示されている。
【決済インフラ分野】2020年までに「XML電文」への完全移行を目指す
決済スタディグループの中間整理は、決済インフラに関する動向について、「欧州ではEU全体の取り組みとして域内決済のシームレス化が進められており、米国でも、FRBが決済の高度化に関する戦略文書を公開するなど、欧米では競争力強化の取り組みが強化されつつある」と分析する。これを受けて、日本でも、銀行業の将来像を見据え、国際的な動向やニーズも踏まえ、戦略的な改革に取り組むべきだと提言している。
FinTech時代を迎えたいま、「決済インフラの分野における重要な課題は、“機能拡大と高度化”にある」と、神田氏は指摘する。その大きな柱の1つが、全銀システムでの国際標準の「XML電文」への全面移行に向けた取り組みである。
そもそも電文とは、送金や振込の指示など、コンピュータ間で送受信される一定の形式で記述されたデータ(メッセージ)であり、従来は固定長ベースの電文によって処理が行われていた。XMLは、データ項目の長さやデータ間の関係を自由に設定、変更できるなど、柔軟性、拡張性を持ち、システム間の相互運用性にも優れているため、決済インフラにおいても、情報量に富んだXML電文へ移行することによって、企業の会計/財務システムとの連携などのさまざまなメリットを享受できると期待されている。
実際に、決済ワーキンググループでは、XML電文への移行に向けた対応方針案の検討を行っている。方針案では、XML電文への全面移行の実現に向けて全銀システムの加盟金融機関が参加する新システムを2018年ごろのサービス開始を目指して構築を進める。新システムの稼働後は、2020年までに企業間の国内送金指図について、固定長電文を廃止し、XML電文への全面移行を目指すという。
XML電文への移行は、企業や銀行に具体的にどのようなメリットをもたらすのか。企業側のメリットについて、神田氏は、「受発注などの商流情報と決済情報を突き合わせることによって、自動消し込みが可能になるなど、バックオフィスの処理を大幅に省力化できる。こうした効果は実証研究でも証明済みだ」と説明する。
また、EDI(電子データ交換)情報を活用した自社事業の定量分析の他、新たなビジネスチャンスの発掘も期待できる。もちろん銀行側のメリットも大きい。例えば、人工知能を用いたビッグデータ分析、活用の他、さまざまな拡張機能を実装、提供することも可能になると考えられるという。
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