会計士が解説する「FinTech(フィンテック)って何ですか?」:お茶でも飲みながら会計入門(104)
元ITエンジニアで現会計士の吉田延史さんが会計用語や事象を解説する本連載。今回は、今さら聞けない「FinTechの基礎の基礎」を解説します。
会計システムに携わるITエンジニアに、業務知識として会計の基礎知識をお伝えする本連載。前回は、監査法人の仕事と新日本監査法人に下された処分の理由を、システム開発になぞらえて解説しました。
今回のテーマは「FinTech」。そもそもFinTechとは何か、どのようなサービスがあるのか、などを会計士目線で分かりやすく解説します。
最近、新聞などで「FinTech(フィンテック)」という言葉をよく見掛けるようになりました。言葉の定義があいまいなので、「何となく分かったような」気がしている人がいるかと思いますが、実態はどのようなものなのでしょうか。
【1】FinTechの意味
日本経済新聞は、FinTechを以下のように解説しました。
FinTech:「金融(Finance)」と「技術(Technology)」をあわせた米国発の造語。世界的に普及したスマホのインフラや、ビッグデータ、人工知能(AI)などの最新技術を駆使した金融サービスを指す。(日本経済新聞 2015年10月25日 朝刊より)
「技術」については、「連載:FinTech入門」などをご覧いただくとして、本記事では「金融サービスとは何なのか」を説明します。
【2】金融サービスとは
金融サービスを分かりやすくいうと、「お金を○○するサービス(○○には任意の言葉を入れる)」です。
例えば、お金を「払う」サービスには、「クレジットカード」サービスがあります。クレジットカードを利用すれば、現金を持っていなくてもお金を払えます(実際に払うのは少し先ですが)。お金を「借りる」サービスなら、住宅を購入するときに利用する「住宅ローン」サービスなどがあります。
「お金を預ける」「借りる」などの「金融サービス」そのものは、コンピュータが生まれるずっと前から存在していました。
【3】FinTechの代表例
20世紀に入り、それまで「人」が行っていた銀行内部の業務を「システム」に置き換えるようになりました。さらにインターネットが普及し、オンラインバンキングなど、IT技術を使った金融サービスが誕生しました。
これらの「金融IT」は既に存在していた業務やサービスを効率化したり便利にしたものでした。これに対しFinTechは、テクノロジを活用して今までは存在しなかったようなサービスやビジネスを実現するものといえます。
代表的なFinTechビジネスを、見ていきましょう。
(1)お金を「払う」
Square社は、スマートフォンを利用してカード決済できる仕組み「Square」を構築しました。
今までは、お店がカード決済するためには専用のカード決済機が必要でしたが、Squareを利用すれば専用端末は不要になりました。
(2)お金を「貸す」
LendingClub社はお金を貸したい人と借りたい人を結び付ける仕組み「lending club」を作りました。
これまでは、お金を貸すのは基本的には金融機関のみでしたが、lending clubは、不動産と同じ発想で「お金の貸し借り」を仲介したのです。
(3)お金を「増やす」
投資の世界では、人工知能(AI)を利用して、「これまでの証券市場の動向データから、自動的に将来を予想して投資家に利益がでるような仕組み」の構築が進んでいます。
(4)お金を「作る」
ビットコインなどの仮装通貨に代表される新たな決済手段の創造が進んでいます。
IT技術の進化により、新しい通貨を「誰が」「幾ら」持っているのか管理する仕組みが整ってきました。
(5)お金の出し入れを「記録する」
入出金データから自動的に家計簿や企業の帳簿を記録する仕組みも進歩しています。【やってみた】クラウド会計ソフトを使って確定申告の計算をしてみたで体験リポートした「Freee(フリー)」や「マネーフォワード」が、代表例です。
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FinTechが登場する背景には、金融サービス関連のIT業界に構造転換が生じている状況があります。
公認会計士業界でも、「人工知能によって会計監査される時代がやってきて、多くの専門家がお役御免になる」という話があります。変化に順応していかないと、ビジネスとしてやっていけないことになるかもしれませんね。それではまた。
イラスト:Ayumi
筆者プロフィール
吉田延史(よしだのぶふみ)
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピューターの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
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