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納期が遅れているので契約解除します。既払い金も返してください「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(27)(4/4 ページ)

東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は頓挫した開発プロジェクトの既払い金をめぐる裁判例を解説する。

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プロジェクト管理義務を果たしていたか

 ベンダーはスケジュールの遅延について、ユーザーに比較的早い段階から開示して、複数回の協議を重ねた上で、納期の延長の合意を獲得していた。

 これは、ベンダーが「プロジェクトのリスク管理」を行っており、「専門家のプロジェクト管理義務」を果たしていた証跡と捉えられたのではないだろうか。

最善をつくす「姿勢」があったか

 また、ベンダーは、第1回、第2回の納品はきちんと行っており、一部とはいえ最終的な納品も行っている。一部の機能は本稼働に入っており、契約の目的を果たしたとまではいえないが、最終成果物としてのプログラムが全くなかったわけではない。

 プロジェクトの終盤で10人もの技術者を無償で貼り付けるなどの、完成に向けて「できることは、全てやろう」としたベンダーの姿勢も評価されたのではないかと思われる。

「結果」も大切だが「プロセス」も大切

 もちろん、裁判官はベンダーの一生懸命な姿に心を動かされたわけではない。ベンダーが小まめに納期交渉をユーザーと行い、都度、合意を得ていた結果であろう。

 スケジュールの遅れを隠し、最後になって「実は……」と言い出したり、簡単に納品を諦めてしまったりするようなベンダーであれば、こうした判断はなされなかったように思う。

 請負契約は、原則として「契約の目的」が支払いの条件であり、分割検収の場合でも、費用の返還を求められるケースはある。しかしながら、今回取り上げた裁判例のように、ベンダーの「姿勢」が、結果として支払いに結び付くこともあり、「請負だから完成しないと1円も払わない(もらえない)」というほど、単純なものではない。

 ITプロジェクトは「結果」も大切だが、「プロセス」も同じように大切なのだ。

細川義洋

細川義洋

東京地方裁判所 民事調停委員(IT事件担当) 兼 IT専門委員 東京高等裁判所 IT専門委員

NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。

2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。


ITmedia オルタナティブブログ「IT紛争のあれこれ」

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