秘伝のソースは門外不出。お客さまには差し上げません:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(40)(1/3 ページ)
システムの開発を発注した会社が廃業することになった。今後のメンテナンスのためにソースコードの引き渡しを求めたが、契約書で約束していないからと断られた。よし、訴えてやる!
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は「請負契約で実施したソフトウェア開発では、要件定義書やテスト結果の納品が必須であるか」について裁判所が下した判決を取り上げた。
裁判所は「納品したシステムが本当に契約の目的を果たすものであったかどうかを判断する上でも、これらのドキュメントは必要である」との判決を下したが、多くの読者から、「そもそも、なぜこれらを納品物とすることを契約書に明記しなかったのか」という声が寄せられた。
もっともな意見である。私も納品物を明記しない契約の下で作業を行った経験はないし、もしこのような契約書があれば、印鑑を押すことはないだろう。しかし、「ドキュメントを作らない」とする開発プロジェクトはかなりの数存在するし、だからこそこうした紛争も発生する。まだまだ、啓蒙(けいもう)が必要といえるだろう。
利害が対立する「ソースコードの権利」
今回も、「請負契約における納品物」について争われた裁判を紹介する。取り上げるのは、「プログラムのソースコード」だ。
ソースコードを納品物とするかどうかは、受注者と発注者の利害が対立しがちな問題である。プログラムを作った受注者は「苦労して作ったソースコードなので、流用して他のプロジェクトに生かしたい」と考えるだろうし、「複製、流用を一切認めない」と決められたら、他の開発ができなくなる可能性もある。
一方、発注者が「自分たちのために作ったソースコードを他社にも使うなら、開発費用の一部を他社のために使われたようなものだ」と捉えたら、簡単には使用を承諾したくないだろう。
ソースコードの権利について契約時にもめることはしばしばあり、私も交渉が決裂して億単位の受注を逃した苦い経験がある。システム開発の契約では、「受注者がソースコードを流用した際には、発注者に使用料を払う」とか、「あえて、発注者は目を瞑る」などの取り決めを、契約時に行う必要がある。
では、そうした約束事がなく、契約書にも記されていない場合、ソースコードは発注者と受注者どちらのものなのだろうか。
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