データを確認せずに「できます!」と役員が確約した、ディープラーニング案件の末路:開発残酷物語(4)(1/3 ページ)
トラブルの原因は何だったのか、どうすれば良かったのか。実在する開発会社がリアルに体験した開発失敗事例を基に、より良いプロジェクトの進め方を山本一郎氏が探る本連載。今回は「ディープラーニング」にまつわる失敗談を紹介します。
「開発残酷物語」は、システム開発会社比較検索サービス「発注ナビ」ユーザーのシステム開発会社の方々に過去の失敗事例をお話しいただき、契約で押さえるべきポイントやプロジェクト運営の勘所を読者諸氏と共有し、これから経験するトラブルを未然に防ぐことを目的としている。
聞き手は、山本一郎氏。今回、失敗談をお話しいただいたのは、「コンピュータマインド」の常務取締役 萱沼常人氏だ。
同社は山梨県に本社を構え、東京都新宿区に東京本社を置き、沖縄にも事業所がある。従業員数130人ながら、制御系、金融系、業務系など、幅広い分野でのソフトウェア開発を行う同社は「ソフトと名の付くものは全て手掛ける」(萱沼氏)というスタンスだが、近年では数学分野に強いエンジニアを積極的に採用して「AIチーム」を構成し、ディープラーニング(深層学習)分野の開発も積極的に行っている。
「御社の規模で、ディープラーニングに取り組んでいる会社は珍しいですよね。今なら、勢いに乗ってグワーっと攻められるんじゃないですか?」と山本氏。
確かに、現在ディープラーニング分野を手掛けているのは、大手SIerか新進のベンチャー企業がほとんどで、同社のような中堅企業は珍しい存在といえる。
「当社の規模ですと、何かしらの会社としての強みを持たなければ生き残れません。そこでこの分野に目を付け、少しずつ取り組み始めて、ようやく事業化できたところです。グワーっといきたいのですが(笑)、数学に長けているエンジニアが足りておらず、なかなかそうもいきません。中には数学オリンピックの予選に出場した人物もいるのですが、そうした数学を得意とするエンジニアは、残念ながらまだ全体の1割程度でしょうか」(萱沼氏)
今回、事例として伺った失敗談も、そうした同社のAI分野への取り組みの初期段階で発生したものだった。
ディープラーニング案件の成否は、基になるデータ次第
それは、まだAI分野への取り組みを事業化する前の話だったという。制御系の開発を行っている関係もあり、顧客企業から製品の外観検査にディープラーニング技術を導入したいと相談されたという。
「AIを強みにしたいと考えていた当社にとって大きなチャンス。お客さまから学習データを頂く前に『成果を出せます』と言い切ってしまいました」(萱沼氏)
しかし、データの粒度が粗かったこともあり、結果的にクライアントが望むほどの成果が出せなかったという。
これまでにマーケティングや物流の分野でAI導入に携わってきた経験がある山本氏も、ディープラーニング案件の成否にはデータのクオリティーが重要だという。
「機械学習全般に言えますが、導入するのであれば、ノイズを除去するなど、あらかじめデータにクレンジングをかけておく必要があります。データ量に対して結果がリニアに付いてくるわけではないので、お客さまもそうした認識を持っていないと、期待した結果は得られません」(山本氏)
もちろん、萱沼氏もそうしたことは承知していた。
「しかし、これから実績を築いていこうという時だったので、『やります!』と引き受けてしまいました。NDA(秘密保持契約)を取り交わした後に実際のデータを見たら、これが粗かった……」(萱沼氏)
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