データを確認せずに「できます!」と役員が確約した、ディープラーニング案件の末路:開発残酷物語(4)(2/3 ページ)
トラブルの原因は何だったのか、どうすれば良かったのか。実在する開発会社がリアルに体験した開発失敗事例を基に、より良いプロジェクトの進め方を山本一郎氏が探る本連載。今回は「ディープラーニング」にまつわる失敗談を紹介します。
営業が安請け合いした結果、エンジニアにお鉢が回ってくるのはよくある話だ。現場の反応はどうだったのだろうか。さぞ険悪な雰囲気になったのではないかと期待して、当時の状況を問い詰めたところ……。
「ボクたち、やりたかったんです」――思わず会話に割って入ったのは、対談を後ろで見ていた同社のエンジニアだ。
「私が勝手に動き回って取ってきた仕事だったんですけれど、最新技術ということもあり、技術指向のエンジニアたちが『やってみたい』と言ってくれました。予定より長い期間のプロジェクトになりましたが、みんな頑張ってくれて、それが今のディープラーニング事業の礎にもなりました」(萱沼氏)
(「うん、うん」とうなずくエンジニア)。
「うわっ! いい会社だ。私が現場のエンジニアだったら絶対に逆上してますね。『どうしてそんな仕事取ってきたんだ』と、ダイナマイトを投げ合う(笑)」(山本氏)
「あの時は、エンジニアたちに助けられました」(萱沼氏)
AI=ディープラーニングではない
そもそも、人間の手で判断基準となる対象物の特徴(パラメータ)を調整していく「機械学習」と、判断基準そのものを自分で学習して見つけ出していく「ディープラーニング(深層学習)」との違いが、世間にはあまり周知されていない。
「AI(人工知能)という言葉の適用範囲が広過ぎるのかもしれません。クラウド、ビッグデータ、IoTなどもそうですが、言葉の定義が曖昧ですよね。何でもかんでもディープラーニングというのはどうなのか。例えば良品と不良品の検品ならば、センサーと制御で十分だし、より高度なものでも、パターンマッチング法でベイズ確率による推定を使った機械学習で効果が得られるでしょう。人工知能、ディープラーニングといった流行の技術よりも、枯れたアルゴリズムの方が成果が出しやすい事例も多いと思うんですが」(山本氏)
もちろん、ディープラーニングの導入で解決できる課題も無数にある。しかし課題によっては、投資に見合う効果が得られないこともある。
「お客さま側でもディープラーニングがどういうものか分かっている方は少なく、『とにかくAIがスゴイらしい』と。それで、社長が『うちもAI導入だ』と言えば、現場担当者は、何かしなければいけない。でもどうすればいいか分からない。それで相談に来られるケースも多いですね。上を説得する材料が欲しいと(笑)」(萱沼氏)
「現状では、お客さまの思惑と、開発サイドの思惑との間にズレがある。どうも同床異夢になっている気がしてなりません。そこのところをきちんと説明していかないと、やがて、お客さまが離れていってしまうのではありませんか?」(山本氏)
同社では、その後、受注の際、顧客に導入効果を丁寧に説明するようにしたという。結果が見込めない分野では、はっきりそのように伝えることもある。
「それでもというお客さまには、当社の持ち出しで、事前に小規模なトライアルを行うことにしています。その上で、『このデータの粒度なら、これぐらいの結果が得られます』と説明し、納得していただいた上でお引き受けしています」(萱沼氏)
「それはいい。持ち出しでというのは厳しいですが、後々の信頼につながるでしょう。パイロット版がうまくいかないと、そのプロジェクトは大抵沈みます。またデータ周りの受発注で言えば、どうしても『思ったようなパフォーマンスが出ないとすぐに解約になりやすい』ところはありますよね」(山本氏)
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