トラブルの元凶が退職したら、炎上プロジェクトは正常に戻せるのか?:コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望(最終回)(5/5 ページ)
箱根銀行はここ数年、システム開発プロジェクトが失敗し続けている。「与信管理システム」はALMが接続不良、「ネットバンキングシステム」は相次ぐ要件変更でプロマネがダウン。トラブルの元凶はシステム部の草津係長にあると読んだ、ITコンサルタントの白瀬と江里口が調査を進めると、とんでもない事実が!!!――書籍『システムを「外注」するときに読む本』のスピンアウトストーリー、最終回は江里口が何かを飛ばします。
お人よし=努力不足?
「スキルマップとか育成計画とか、そんなもの知らなかったよ」
箱根銀行からの帰り、ロマンスカーの中で仏頂面を続ける白瀬に、江里口は説明した。
「別に帳票の名前を知らなかったことが問題なんじゃないわ。要はアンタ、お人よしなのよ。人を疑うことを知らない。だから別府部長の言葉だけで、会ったこともない大江戸ソリューションズを信じちゃった。ユーザーはベンダーの弱みを知ろうと努力しなきゃいけない。何度も言ってることでしょう?」
「何でも疑ってかかれってことか?」
「ことシステム開発に限ってはね。ベンダーを信頼する一方で疑い、仕事を任せた裏では検証をする。そういう『注意深さ』が必要なのよ。アンタはまだまだね」
「『餅は餅屋』ってわけにはいかないんだな」
「そうよ。お餅だって、餅屋で買ってくるより、みんなで協力してついた方がおいしく食べられるでしょ? ITだって、結局ユーザーがどれほどに汗をかいたかによって、おいしさ、つまり出せる成果が変わる。アタシはそう思うわ」
「そういえば、餅つきって2人でやるよな。あれはユーザーとベンダーの関係と同じってことか」
「そう。どちらかがタイミングを間違えたら、どちらかが合わせる。お互いにフォローする関係が必要ってことよ」
システム開発といえど、デジタルな部分だけではなく、アナログな部分にプロジェクト成功の秘訣があると改めて理解した白瀬であった。
「コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望」 完
「コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望」は、今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。白瀬と美咲のその他の事件解決譚は、書籍『システムを「外注」するときに読む本』でお楽しみください。
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※この連載は、本書制作時に諸所の事由から掲載を見送った「幻の原稿」を、@IT編集部が奇跡的に発掘し、著者と出版社の了承を得て独占掲載するものです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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