御社に決めた、なんて誰が言いました?――愛(AI)と追装の日々:コンサルは見た! AIシステム発注に仕組まれたイカサマ(4)(1/3 ページ)
正式受注を目指し、AIを活用したシステムのプロトタイプ制作に励むソフトウェア開発企業「マッキンリーテクノロジー」の面々。だが、顧客の要求は日増しに増え、もはや試作品の域を超えようとしていた。ところが……!
「コンサルは見た!」とは
連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。
前回までのあらすじ
ソフトウェア開発企業「マッキンリーテクノロジー」の日高達郎は、広告代理店「北上エージェンシー」から、AIで折り込みチラシを自動作成するシステム開発の引き合いを受けた。3週間で作ったプロトタイプでデモを行った日高は、北上の社員たちから思わぬ反発を受ける。
このままでは受注が危ない――そう思った日高は……。
現場が陥る「猪突猛進シンドローム」
2017年2月――。
北上エージェンシーの会議室。クリエーターたちが去った後、システム企画部長の生駒は顔をしかめて、マッキンリーテクノロジーの営業日高に言った。
「このままじゃあ、ちょっとまずいですね。何とかしないと……」
「申し訳ございません。ですが、期間も費用も限られている中ではこれが精いっぱいでして……」
日高がそう言うと、生駒が少しだけ表情を緩めた。
「確かに、それは分かります。ですが、このままでは御社の努力も全く報われないことになりますよね……」
(何とか、リトライさせてくれないだろうか)と日高は思った。
エンジニアたちはこの3週間、休日返上で頑張ってきた。デモの失敗はAI自体の出来が悪かったわけではない。もっとたくさんの情報をAIに学習させる時間さえあれば、きっとクリエーターたちを満足させるものができる。日高はそう確信していた。
「どうでしょう。もう少し粘ってみませんか?」
生駒の言葉に日高は顔を上げた。
「もう少し?」
「ええ。今日のお話の内容だと、もっとAIにいろいろな情報を投入しておけば、良い広告が作れたということですよね? ならば、もう少し時間をかけて、その辺りをやってみませんか?」
「それをアンタは二つ返事で受けたのね?」と、コンサルタントの江里口美咲が日高に尋ねた。
「え、ええ。セールス費用を出す営業部門の上長も、『広告作成のAIの実績ができるのなら』と協力してくれました」
「どのITベンダーもAIの実績はまだまだ足りないし、今回のように実際に使えるAIシステムが作れるなら、今後優位に立てるって踏んだのね。それでまた『期間』も『作業範囲』も定めずにズルズルと作業を継続した、と」
「そ、そうなります」
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