御社に決めた、なんて誰が言いました?――愛(AI)と追装の日々:コンサルは見た! AIシステム発注に仕組まれたイカサマ(4)(3/3 ページ)
正式受注を目指し、AIを活用したシステムのプロトタイプ制作に励むソフトウェア開発企業「マッキンリーテクノロジー」の面々。だが、顧客の要求は日増しに増え、もはや試作品の域を超えようとしていた。ところが……!
あなたに決めた……とは言ってない
「『後は形式的な稟議だけ』――生駒さんは、確かにそう言ったのね?」
尋ねる美咲に日高は大きくうなずいた。
「ええ、ハッキリと言いました」
「で、開発はアンタのところに依頼するって、そうも言ったの?」
「そこが……今にして思えば」
「どういうこと?」
「はっきりとマッキンリーに決めたとまでは……」
「では早速、営業を呼んで正式な契約を……」――意気込む日高に、生駒が小さく首を振った。
「いやいや。ですからね、日高さん」
「はい?」
「御社に決めるには、お願いしたカラー印刷や画面への対応まではしっかりとやっていただきたいんですよ。ウチのクリエーターもね、最近あちこちの展示会なんかで他社のAIを見てましてね。『あっちの方がいいんじゃないか』って言う輩もいましてね」
冗談じゃない!――日高は下唇を噛んだ。ここまで来て他社に受注を奪われたら、これまでの『努力』と『費用』が無駄になるだけではない。この数カ月、マッキンリーと北上が広告作成のために検討して蓄えてきたさまざまなAIの『ノウハウ』や苦労して登録した『情報』を、北上を通して競合相手に奪われる可能性だってあるということだ。
そんなことは絶対にあってはならない。日高はしばらく黙りこんでから、一度、大きく息を吐いた。
「その辺りの対応をすれば……弊社と正式契約を結んでいただけると?」
「それで話を進めます」――生駒は自信ありげに大きく頷いた。
日高は、すぐに自社に戻り、半分あきれ顔の技術部門や上司たちを説得して作業継続の承認を取り付けた。皆、日高の申し出に不安を隠さなかったが、最終的にはこれまで数多くのセールスを獲得してきた日高を信頼することにした。
「ところが正式契約直前になって相手が突然、契約しないと言ってきたのね?」との美咲に問いに、日高は「はい」と両手の拳を強く握った。
「あんまりです。こっちには契約すると約束しておきながら、突然、しかも……」
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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