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最後に重大発表も飛び出したMA2017決勝戦まとめ――年末恒例「テクノロジーの異種格闘技イベント」2017年の覇者は?(2/3 ページ)

街に年末の喧噪が見え始めた2017年12月16日。東京・日の出桟橋に近い倉庫のようなたたずまいの会場で、開発者が互いにアイデアと技術力で覇を競う開発コンテスト「Mashup Awards 2017」ファイナルステージ(決勝戦)が開催された。全447作品の中から激戦を勝ち抜いた15作品が、賞金と誇りを懸けて挑んだ決勝戦の模様をお伝えする。

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味憶(みおく)

 京都で結成されたエンジニアリングデザインユニット「xorium」が開発した「味憶(みおく)」には「お酒の記憶を呼び覚ます酒器」とのキャッチフレーズが付けられている。「酒を注ぐ」といった動作を各種のセンサーで検知し、さまざまな演出を発生させることで、味覚や嗅覚だけでなく、視覚、触覚、聴覚といった人間の五感全てを使って「日本酒をよりおいしく飲む」ことができるシステムだ。

 味憶のシステムは、PCと、プロジェクターやセンサー類、Raspberry Piなどを収めた「櫓」「酒器(杯)」から構成されており、大掛かりな設置が不要な点も特長の1つ。白い酒器の表面は、プロジェクションマッピングのスクリーンにもなっており、酒を注いだり器を持ち上げたりすると、内蔵のセンサーがそれを察知し、タイミングを合わせて映像や音響、振動などを発生させる仕組みになっている。

 プレゼンテーションでは、京都府伏見区の酒蔵で、実際に「味憶」のデモを行った際の映像が流された他、会場内で体験可能な形での展示も行われた。日本酒のPR活動だけでなく、結婚式のようなイベントなどでの演出にも、広く応用できる。

Draw Shop

 ネットショッピングの魅力の1つは、膨大な品ぞろえの中から、自分が欲しい商品をじっくりと探せることだが、「こんな型で、こんな色のカバンが欲しい」といったイメージが既にある場合に、それに合う商品を素早く見つけ出すのは案外難しい。「Draw Shop」は、スマホ上のツールで簡単な絵を描くと、そのイメージに近い商品を検索してくれるツールだ。

 手描きの絵から、商品検索に至るまでのプロセスには機械学習のテクノロジーが活用されている。本来、「手描きの絵」と「実写の商品画像」との間では、画像としてのさまざまな条件が異なる。そのため、絵をそのまま商品画像の検索クエリとして使うことは難しい。そこで、Draw Shopでは手描きの絵を、一度サーバに送り、そこで機械学習を用いて、より実写に近い「架空の商品画像」へと変換する。この「架空の商品画像」を仲介することで、簡単な手描きの絵を使って、精度の高い商品検索を可能にしている。

 クライアント側では「Yahoo! ショッピング商品検索API」、サーバ側では画像生成に「iGAN(Interactive Image Generation via GAN)」、ベクトル検索に「NGT(Neighborhood Graph and Tree)」といった技術を活用している。今のところ「カバン」と「靴」の検索が可能だが、対応する商品の種類は増やすことも可能だという。機械学習を行うためのサーバリソースが大量に必要なため、現時点では一般に向けた公開は難しいとしているが、「画像検索の技術として特許出願も行った」とのことで、今後の発展が期待できそうだ。

Water Melon Sound

 ……ここまで、比較的ビジネス色が濃い作品の発表が続いたため、「え? これってMashup Awardsのレポートだよね?」と不安を感じ始めている読者もいるのではないだろうか。安心してほしい。この「Water Melon Sound」は、審査員からも「ちょっと安心した」「ほっこりした」と絶賛(?)された、Mashup Awardsらしさが光る脱力系プロダクトだ。

 プレゼンテーションに当たって、発表者と共に壇上に現れたのは季節外れの2玉の「スイカ」。Water Melon Soundは、機械学習を応用し、スイカをコンコンと叩いた「音」から、そのスイカが「熟れている」か「未成熟」かを判定してくれるデバイスだ。

 あらかじめ、YouTubeなどで収集した「熟したスイカ」と「熟していないスイカ」を叩いた音からMFCC(Mel-Frequency Cepstral Coefficients、音声の特徴表現に使われる)を算出。これらをSVM(Support Vector Machine)にかけて機械学習を行い、判定器を作成している。ハードウェアとしては「Raspberry Pi」を採用。マイクで拾った音声から、叩いているスイカが熟しているかいないかを判定し「緑」あるいは「赤」のLEDを点灯させる。

 事前に用意していた「未成熟」のスイカを不注意で割ってしまうハプニングに見舞われながらも、急きょ事務局が用意したスイカ(成熟度不明)で実演に臨み、2玉とも「成熟」判定を出して会場を沸かせた。2017年夏に開催されたハッカソンイベントをきっかけに開発を始めたそうだが、開発者の「どうせならおいしいスイカを買いたい」という思いは、2018年の夏には実を結びそうだ。

Yaba Coin System

 「言葉」の持つ意味は時代によって変わるもの。10年ぶりに改訂された「広辞苑(第7版)」では、「やばい」という言葉の意味として、新たに「のめり込みそうである」が加えられたことも話題になった。この「ヤバい」を、ネガティブかポジティブかは関係なく、喜怒哀楽のような感情の「大きさ」を表す言葉と定義し、可視化を試みたアート作品が「Yaba Coin System」である。

 Yaba Coin Systemは「エクスチェンジャー」「プロバイダー」と名付けられた2つのデバイスと、バックエンドのデータベースから構成される。ユーザーが、自分の体験した「ヤバいこと」を文章として入力すると、その内容の「ヤバさ」が感情解析APIを通じてベクトルデータに変換される。体験の「ヤバさ」は画面上にビジュアル表示され、同時に測定された「ヤバさ」に応じた枚数の「ヤバコイン」が払い出される。次に、このヤバコインを「プロバイダー」に投入すると、その投入枚数に応じた他の人の「ヤバい」体験がデータベースから検索され、結果がプリントアウトされる。

 開発者は「感情という実体のないものを可視化し、コインやプリントアウトといった物理的なモノに変換して所有したり、人と交換したりすることを試みたかった」と話す。展示型メディアアートとしての利用を想定しているそうだ。

人力で仮想通貨をマイニングする装置 〜Garimpo〜

 ここ最近、過熱気味ともいえる盛り上がりを見せている「仮想通貨」。「人力で仮想通貨をマイニングする装置 〜Garimpo〜」は、このトレンドをいち早く題材にした作品だ。

 仮想通貨を入手する方法の1つに、取引過程の整合性を確保するための演算にコンピューティングリソースを提供した報酬として通貨を得る「マイニング」がある。Garimpoは「手回し式」の発電機から得られた電力でRaspberry Piを動かし、この「マイニング」を実行するデバイスである。

 Raspberry Pi標準のOSでは起動に時間がかかったため、Garimpo専用の独自ディストリビューションを作成。実演では、手回しで発生した電力でRaspberry Piを起動し、見事にMonacoinのマイニングを成功させた。約1時間の手回し発電で、日本円にして約0.0018円(仮想通貨側の価値に応じて変動あり)のマイニングが可能だという。

 開発者は「これまで通貨の価値は、希少性や発行主体への信頼が担保していたが、『仮想通貨』の価値は一体何が担保しているのだろうと疑問を持っていた。マイニングが価値を生みだす手段だとすれば、それを担保しているのは単なる『エネルギー』なのではないか」とGarimpo開発のきっかけを話す。「お金」とは、「労働」とは、「信頼」とは、そして「価値」とは何なのか。Garimpoは、見るものに、さまざまな問いを投げかけるアート作品としての側面が強い。ちなみにGarimpoとはポルトガル語で「金鉱」の意味だ。

ヒボたん〜移動式植物栽培ロボット〜

 街中で「Pepper」を見かけることが珍しくなくなり、さらには「RoBoHoN」や約10年ぶりに新型が出た「aibo」などの家庭用ロボットも注目を集める昨今。しかし、小型マイコン向けの開発環境が整備され、3Dプリンタを個人で利用することも難しくなくなった現在では、開発者がインディーズ的に自分好みのロボットを一から作り上げることも決して夢物語ではない。「ヒボたん 〜移動式植物栽培ロボット〜」は、そうしたことを実感させてくれる作品だ。

 「ヒボたん」のチャームポイントはメカニカルに動く脚部と、大きな頭部。頭部には小さな植木鉢を載せられるようになっている。尻尾に相当する部分に取り付けられた小型のソーラーパネルで蓄えた電力を使い、明るさセンサーを頼りに日の当たるところへ自律的に移動することができる。ちなみに名前の「ヒボたん」は、観賞用の小型サボテン「緋牡丹」から取られており、その栽培に適したサイズで作られている。

 心臓部にはAMDのプロトタイプ向けワンボードマイコン「mbed」を採用。各種センサー類に加えて、BLE(Bluetooth Low Energy)による通信機能を搭載しており、スマートフォンでの制御や、PCを介したネットへのデータ蓄積が可能となっている。

 またファイナルステージで披露されたヒボたんでは、1つ前に発表された作品「Garimpo」とのマッシュアップも実現。周囲が暗くなった際に、バッテリーが十分に充電されていれば、自動的に仮想通貨を発掘する「マイニングモード」に移行する。会場内が明るかったため、残念ながら実演はできなかったが、Mashup Awardsらしくシャレの利いたアドリブに、場内は大いに沸いた。

4919 for Ikoma

 特定の物質に身体が過剰な反応を示す「アレルギー」。中でも、小麦、卵、そば、牛乳、ナッツ類と言ったありふれた食材が引き起こす食物アレルギーは、重篤な場合、命に関わるほど深刻な症状を引き起こす。食物アレルギーを持つ人にとって、食品に含まれるアレルゲン(アレルギーの原因物質)を確実に管理して避けることが、不幸な事故を防ぐためには必要だ。

 「4919 for Ikoma」は、「学校給食」にフォーカスを当て、日々の献立におけるアレルゲン管理を中心として、カロリーや栄養素などの情報を参照できるようにすることで「食育」のサポートまでを視野に入れたスマートフォンアプリだ。

 このアプリは、奈良県生駒市の主催するコンテスト「Ikoma Civic Tech Award 2016」で最優秀賞を受賞。その後、生駒市や市内の給食センターとの連携をスタートさせ、同市では、4919 for Ikomaなどでの活用を前提に、全国で初めて、アレルゲン情報を含む給食献立データのCSV形式による配布を行うようになった。同アプリケーションは、現在、生駒市公認のアプリケーションとして100人を超える市民に活用されているという。

 現在、こうした給食情報の提供や公開については、自治体により対応がばらばらな状況だ。開発チームでは、将来的により多くの自治体への働き掛けを行い、オープンデータ形式の標準化なども進めていくことで、効率的な給食情報管理ツールとしての「4919」を横展開したいとしている。

不可視彫像

 作品が載せられていない、台座だけが並んだ風変わりな展示室。しかし、来場者に手渡された懐中電灯のようなデバイスで空間を照らすと、展示室の壁面にはそこにはないはずの彫像の「影」がくっきりと映し出される。坪倉輝明氏の「不可視彫像」は、そうした幻想的な空間を作り出すメディアアート作品だ。

 「懐中電灯で照らす」というメタファを利用しているが、作品で実際に使われているのはVRコントローラーによるモーショントラッキングと、プロジェクションマッピングとの同期技術だ。来場者の位置や動きに応じて、さまざまな間取りが想定される展示室の壁に「そこにできるはずの影」をリアルタイムに投影するにあたっては、「仮想空間にある3Dモデルの座標」「プロジェクション座標」「トラッキング座標」の全てを完全に対応させる必要がある。坪倉氏は、そのためのツールを自作することから始めた。

 「不可視彫像は、鑑賞者の創造力が働くことで完成する作品。自分の作品は美術館に展示されることが多いので、美術館ならではの新しい展示スタイルを作りたかった。このシステムによって、大勢の人で同時に鑑賞できるVR作品が実現できる」と坪倉氏は言う。今後は、仮想空間上の3Dモデルと、懐中電灯型デバイス(実体はHTC Viveコントローラー)との接触によるインタラクションや触覚フィードバックなどを取り入れていくことも検討している。

GROOVE v2.0

 プレゼンテーションは、LEDがきらめくグローブを付けたストリートダンサーのパフォーマンスでスタート。「GROOVE v2.0」は、約50個のLEDと各種センサー類が満載されたグローブを使い、ダンサーが照明や音響、映像などを自らの意思でコントロールしながらパフォーマンスできるようにするデバイスだ。

 従来、ダンサーは映像や音楽に合わせて踊ることしかできなかった。GROOVEを使えば、ダンサーがそれらを変化させることができる。パフォーマンスの常識をリデザインするデバイスだ。グローブに搭載されている「曲げセンサー」「圧力センサー」「6軸加速度センサー」によって、指の形や手の振りの大きさ、速さなどを測定。BLEで通信するiOS用アプリケーションで、あらかじめ設定しておいた内容に合わせて各種の機器をコントロールする仕組みだ。

 実は、GROOVEは2016年のMashup Awardsにも出品されていた。以後、改良を重ね、通信は有線から無線へ、プロセッサはArduinoからESP32(ファームウェアも自作)へと、よりダンスパフォーマンスでの利用に適したものへとブラッシュアップを続けてきた。今回出品された「v2.0」では、フレキシブル基板を採用することで、当初からの懸案だった「使用中の断線問題」も解消。満を持してのファイナルステージ進出となった。

Eyebrojector

 「眉毛」は、顔の印象を決める重要なパーツの1つ。多くの女性(男性も?)にとって、眉毛のケアは手間やコストがかかり、自分でやろうとすると失敗も多いことが悩みのタネになっている。「Eyebrojector」は、簡単かつ低コストに「理想の眉」を手に入れられるツールだ。

 「Eyebrojector」という作品名は「Eyebrow(まゆ)」と「Projector(プロジェクター)」を組み合わせた造語。スマホアプリで好みの眉を選び、自撮り画像と重ねてシミュレーションをした後、その眉の「テンプレート」を、自分の顔に投射し、光の型をなぞるようにメイクをすることで、失敗の少ない眉メークを行える。この「テンプレート」は、A4サイズの厚紙にレーザーカッターで切り出されており繊細なラインの違いが表現できる。また、投影機も同じ厚紙で自作する仕組みになっており、少し暗めの部屋の中で、スマホのライトを使って、手軽に顔面に眉の型を投影できる。もちろん、シミュレーションした画像をそのままサロンに持ち込んで、同じように整えてもらうという使い方も可能だ。

 現在、用意されている眉のテンプレートは「石原さとみ風」「安室奈美恵風」「ゴルゴ13風(!)」の3種類。さまざまタイプの眉を厚紙のテンプレートとして販売するビジネス展開も考えられるとしている。ちなみに、発表者の女性はプレゼン前に眉毛を落とし、説明ビデオ上映中に自ら「Eyebrojector」を使って右眉だけを石原さとみ風に仕上げるという、気合いの入った実演で会場を沸かせた。「普通にサロンで眉毛をメークしてもらえば数千円かかる。それを、100円程度の型紙を買って自分で手軽にできるようになる点をアピールしたい」と言う。

Uchiwaction

 エンジニアにもファンが多いと思われる「アイドル」。その応援グッズとして欠かせないのが「うちわ」だ。アイドルが好き過ぎて、自らもアイドル運営に関わった経験を持つ開発者の熱い思いが込められた「Uchiwaction」は、この「うちわ」にテクノロジーを詰め込むことで、「アイドルを応援したいファン」と「ファンとのコミュニケーションを演出に取り入れたいアイドル」の双方を支援するデバイスだ。

 例えば、ファン側で「応援」に使える機能としては、うちわ表面に配置されたLEDへの任意の文字列表示機能、収録された音声の同時出力機能などがある。また、運営側では、楽曲に合わせて複数のうちわデバイスのLEDを一斉にコントロールしたり、内蔵された「振り量センサー」で取得したデータに基づいてステージ演出を行ったりすることも可能だという。

 ネットがつながりにくいライブ会場でも、確実なデータ送受信を実現するために920MHz通信を利用しているところもポイント、実際に複数の会場での実証実験も行っており、もし大量生産が可能になれば、基本的な機能をオープンにすることで「ファンと運営との共創による、これまでにない演出ができる可能性がある」とする。

「猫になる」VR

 人間、生きていれば、自分ではどうしようもならないくらいにツラかったり、シンドかったりすることがある。そんな時「誰かにナデナデしてほしい……」と心から願ったとして、それがどうして責められよう。いや、誰にも責められない。「猫になる」VRは、「誰かになでてほしいけれども、なでてくれる人がいない」人向けに開発された「なでなでシステム」である。システムは、VRヘッドマウントディスプレイのアタッチメントとして作られた「なでなでロボット」と、VR環境内のアプリケーションから構成される。

 VRデバイスを装着したあなたは「猫」になる。街のどこかにいる「Unityちゃん」(女の子)を探し出し「にゃーん」と鳴くと、マイクに拾われた鳴き声が感情分析され、VR内で「言弾」として発射される。見事ヒットすれば、彼女が駆け寄ってきて頭を「なでなで」してくれるのだが、その際、頭部の「なでなでロボット」がシンクロして動作し、あなたの頭にリアルになでられた感触が生まれる。

 VR内で自分が「猫」になるというフォーマットが決まるまでには、幾つかの試行錯誤があったそうだ。開発者によれば「単純にロボットがなでてくれるだけではうれしくなかったので、VR内で女の子になでられる方がいいのではないかと考えた。しかし、自分のキャラクターが人間だと、なでられる際に妙な気恥ずかしさがあった。そこで、自分を猫にしてみたところ、非常にしっくりきた」。

 「猫」は「人間が生まれ変わりたいものランキング」で常に上位を占める人気の動物でもある。「人になでられたい」そして「猫になりたい」という2つの欲望がマッシュアップした結果、究極の「癒やし」をもたらすデバイスが爆誕したという奇跡に感動を禁じ得ない。

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