大手の下僕として安定の日々を送るなんて、まっぴらゴメンだね!:コンサルは見た! オープンソースの掟(2)(2/2 ページ)
大手企業の下請けとして粛々とやっていくか、イチかバチかで新分野にチャレンジするか、それが問題だ――大手カーナビベンダーに自社開発ソフトをソースコードごと提供してしまった松井は、何を考えていたのか。
われわれは、良いことをしているのだ
「それで、三浦はおとなしく帰ったのか?」
夕刻、木村は社長室に呼ばれた。社長の武田は木村の報告に満足気だ。
「当然です。われわれには何の落ち度もないわけですから。薄っぺらな基本契約書で、ジェイのようなベンチャーがわが社がといつまでも付き合い続けられるだなんて、甘いにもほどがあります」
「ベンチャー企業は、ときにわれわれ大手が考えつかないトガった製品を作り出す。だが、それを商品化して広く売り出す組織力や販路は持っていない。そこでわれわれの出番だ」
三浦は頷きながら武田の言葉を引き継いだ。
「良い技術を頂いて、製品化して世に送り出す。そうなってしまえば、製品を作ったベンチャーには用はない。今回のようにソースコードを提供してくれるようなお人よしの会社は、本当に助かりますわ」
「まったくだ。いつもなら、もっと法外な値段を吹っ掛けられたり、会社を丸ごと買って事業部にしたりといろいろ手間が掛かるのだが、松井が実に都合の良い条件で飲んでくれたからな」
「きっと、日銭が欲しかったんでしょうね。『ソースコードも提供してくれるなら、価格に色を付ける』と言ったら、二つ返事でOKしましたもの」
「反対する三浦を出し抜いて、そこまでやってくれるとは。彼には感謝状の1つも送らにゃあならんな。ふは、ふは、ふはははははは!」
武田が笑い出した。
「ソフトの価値を分からず簡単に手放す松井、技術バカで製品を展開する能力のない三浦――彼らに任せていたら、せっかくのソフトウェアも日の目を見ないところでしたわ」
木村の顔にも、三浦との面談では見せなかった笑顔が浮かんでいた。
「はっはっはっ。木村君の言う通りだ。そのソフトをウチが有効利用してやるのは、彼らの技術を世に残すという意味で良いことかもしれんな。」
「ええ。われわれは、カーナビ業界、いえ日本のソフトウェア産業のためにも、意義のあることをしているのですわ。」
木村の答えに、武田はさらに大きな声で笑い返した。
「はーっはっはっはっはっは! 詭弁(きべん)ここに極まれり。実に爽快だ!」
「コンサルは見た!」Season3「オープンソースの掟」は、毎週木曜日掲載予定です
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- コンサルは見た! オープンソースの掟(1):ベンチャー企業なんて、取り込んで、利用して、捨ててしまえ!
ソースコードを下さるなんて、社長さんたらお人よしね――「コンサルは見た!」シリーズ、Season3(全9回)のスタートです - コンサルは見た! AIシステム発注に仕組まれたイカサマ(1):発注書もないのに、支払いはできません。――人工知能泥棒
「間もなく上長の承認が下りるから」「正式契約の折りには、今までの作業代も支払いに上乗せするから」――顧客担当者の言葉を信じて、先行作業に取り組んだシステム開発会社。しかし、その約束はついぞ守られることはなかった……。辛口コンサルタント江里口美咲が活躍する「コンサルは見た!」シリーズ、Season2(全8回)は「AIシステム開発」を巡るトラブルです。 - コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望(1):はめられた開発会社、要件定義書に仕掛けられたワナ
書籍『システムを「外注」するときに読む本』には、幻の一章があった!――本連載は、同書制作時に掲載を見送った「箱根銀行の悲劇」を、@IT編集部がさまざまな手段を使って入手し、独占掲載するものです - ARで実際の風景にナビ情報を表示――Yahoo! MAPのiOS版に試験導入
ヤフーは、スマートフォン向けの地図情報サービス「Yahoo! MAP」のiOS版に、AR(拡張現実)を活用したナビゲーション機能「ARモード」を試験導入した。カメラで撮影している実際の風景に、ルートや曲がり角を示す「看板」などを重ねて表示する - 自動車界を開拓する「DeNA」が、カーシェアリングサービス「Anyca」で目指す未来
自家用車のシェアリングサービス「Anyca」は、入社3年目の2人のエンジニアの発案から始まった。さまざまな業種とのコラボレーションで守備範囲を広げ続けている同サービスは、どのような体制でプロジェクトを回しているのだろうか。事業責任者とリードエンジニアにお話を伺った