【USB】第4回 最新のUSB規格「USB 3.2」はどこが変わったのか?:ITの教室
USB規格は、バージョンアップを重ね、現在の最新規格は「USB 3.2」となっている。USB 3.2は、これまでとどのような違いがあるのか、複雑に絡み合うUSB規格を整理してみた。
「ITの教室」は、ITに関わる規格や仕組みなどを簡潔に紹介するコーナーです。まずはUSBについて、その概要を解説します。
前回は、USBの充電仕様である「USB Battery Charge」について解説したが、今回はUSBの最新規格である「USB 3.2」について解説する。
USB規格の歴史
USB 3.2は、高速なSuperSpeedを実現する最新のUSBの仕様だ。このSuperSpeedには、USB 3.0で定義された5Gbpsの「SuperSpeed Gen1」とUSB 3.1で定義された10Gbpsの「SuperSpeedPuls(Gen2)」がある。USB 3.2では、USB Type-Cケーブルを使うことで10Gbpsを2ポート使い、最大20Gbps(Gen2×2)を実現している。
USB 3.0は、PCI Express 2.0をベースとしていたが、それをPCI Express 3.0に合わせて高速化したものがUSB 3.1である。さらに、もともとPCI Expressにあった複数レーンを組みあわせて高速化する手法を持ち込んだのがUSB 3.2というわけだ。
このUSB 3.2になるまでの経過を押さえておこう。USB 2.0は2000年に仕様が成立したが、その後しばらくは、細かい改良などが続いた。「第3回 USBの充電仕様『USB Battery Charge』とは」で解説した「USB Battery Charge」などがこの時期に成立している。
制定年 | 仕様 | 概要 |
---|---|---|
2000年 | USB 2.0 | (参考)480Mbps High-Speed、12Mbps Full-Speed、1.5Mbps Low-Speed |
2008年 | USB 3.0 | 5Gbps SuperSpeed(Gen1)、USB 3.0コネクター(標準とマイクロ) |
2013年 | USB 3.1 | 10Gbps SuperSpeedPlus(Gen2)、USB 3.1コネクター(3.0から改訂) |
2014年 | Type-C | USB Type-Cコネクター仕様書 Rev.1.0 |
2017年 | USB 3.2 | 20Gbps(Type-CコネクターでGen2×2レーン)、Gen1×1、Gen2×1、Gen1×2 |
USB規格の歴史 |
高速なUSB 3.0規格が制定されたのは2008年である。このとき、USB 3.0〜3.2向けに、内部に青色のパーツを使ったコネクターが作られた。2013年には、USB 3.0が改良され最大10Gbpsの通信が可能になっている。
また、このときUSB 3.0で定義されたコネクターにも一部改良が行われ、現在では、USB 3.1標準コネクター、マイクロコネクターとして、USB 3.2でも引き続き利用されている。このため、USBの仕様は3.2でも、コネクターの仕様では「USB 3.1標準コネクター」などとなっている点に注意が必要である。
現在のUSB 3.2の仕様が成立したのは2017年だが、USB 3.1が成立した翌年の2014年に仕様が確定したUSB Type-Cを利用することで、最大20Gbpsの通信を可能にした。
市場には、過去に作られた製品やデバイスがまだ存在しているため、古いUSB 3.0、3.1に基づいた製品も存在している。USBの仕様は、あとからソフトウェアで改良できるようなものではないため、いったん特定の仕様に基づいて作られた製品の仕様のバージョンが上がることはない。
しかし、USB 3.2の仕様は、USB 3.0、3.1の仕様を完全に含んでいるため、製品としては、USB 3.0/3.1の仕様と同等の製品を作ることは可能だ。これは、USB 2.0の仕様が成立して仕様書としてはUSB 1.1を置き換えたからといって、Low-SpeedのUSBデバイスを作ることができるのと同じである。
ただし、USB 3.2では、USB 3.0相当のものを「Gen1×1」、USB 3.2相当のものを「Gen2×1」と表現することがある。また、カタログなどでは、「USB 3.1(Gen1)」といった表記も見かける。これはUSB 3.1が最新版である時点で、USB 3.0相当のGen1(5GbpsのSuperSpeed)の製品を作ったということになる。
このように市場には過去のバージョン表記などがあるため、混乱しやすいが、ここでは、USB 3.2が最新の仕様で過去のUSB 3.0と3.1を含むものであるとして、USB 3.xといった表記は行わない(このような表記は複数の仕様が有効であるとの誤解を与えるため)。ここでUSB 3.2と表記した場合、過去のUSB 3.0や3.1のことも含んだ話と解釈していただきたい。
なお、実際のPCなどのUSBコネクターでは、SuperSpeed(SS)やSuperSpeedPlus(SuperSpeed+、SS+)と表記されている。USB 3.1やUSB 3.2といった表記は使われない。スペックなどの表記も、USBのバージョンで記載するのではなく、SuperSpeed、SuperSpeedPlusといった動作モードの表記を使うことで、USBの仕様書のバージョンが変わっても、問題なく通用する。
USB 3.2とUSB 2.0の互換性
USB 3.2は、USB 2.0と完全に互換性を持つ。というのは、電気的にみると、USB 2.0の部分と3.2の部分は完全に独立しているからである(ただし、ホスト側のコントローラー内でどうなっているのかは別のはなし)。これをUSB 3.2では、「Dual Bus System Architecture」と呼ぶ。簡単に言うと、USB 3.2とはUSB 2.0と独自部分(これをEnhanced SuperSpeedシステムという)を組み合わせたものになっている。
USB 3.2のシステムアーキテクチャ
USB 3.2は、最大20Gbpsの転送速度を可能にするEnhanced SuperSpeedシステムとUSB 2.0システムを組み合わせた「Dual Bus」システムアーキテクチャを持つ。
※仕様はUSB 3.2になったが、ケーブルの仕様書は独立しており、USB 3.1のままで変更されていない。
これは、コネクターやケーブルの実際の構造を見ると理解しやすい。USB 3.1標準コネクターは、USB 2.0のコネクターと別に新たに5つの接点を追加したものになっている。
USB 3.2の標準コネクター
USB 3.2で利用する標準コネクターは、USB 2.0と形状が同じで信号線を追加したものになっている。このため従来のUSB 2.0コネクターと組み合わせて利用できる。
※記事初出の際のコネクター配線に一部誤りがありました。おわびして訂正させていただきます。(2022/02/14)
USB 2.0の信号線は4つ(VBUS/D+/D-/GND)で、この部分の形状は従来と同じだ。USB 3.2標準プラグでは、この接点の奥(逆にレセプタクル側では手前)に新たに5つの端子を付け加えている。コネクターを装着する場合、最初に両端にあるUSB 2.0のVBUSとGNDが接触し、続いて、内側のD+とD-が接触する。そのあと、USB 3.2の5つの信号線が接続するという順番になっている。
また、USB 3.2で利用するケーブルは、やはりUSB 2.0の信号部分とUSB 3.2用の信号の両方が含まれている。ケーブル自体が9本(USB 2.0の分が4本、3.2の分が5本)の信号線から構成されていて、USB 2.0部分は完全に独立している。
このため、USB 3.2のポート(ホスト/デバイス/ハブのどれでも)にUSB 2.0のプラグを入れても、USB 2.0はそのまま問題なく動作する(ただし転送モードは最も低いものに合わせられることになる)。USB 3.2は、USB 2.0から見て、完全に互換性が取れるようになっているわけだ。
ただし、Micro USBコネクター(USB Microネクタ)の場合、端子が小さく、USB標準コネクターのように同時に両方に対応するようにはできなかった。そこで、隣にUSB 3.2相当の信号を伝えるところを持つ、幅広のコネクターを使うことにした。
ただし、USB 3.1 Microレセプタクルは、USB 2.0用のMicro USBコネクターを片側に装着できるようになっている。このとき、Micro USBには、OTG(On-The-Go)サポートの有無によりAとBの2種があるため、USB 3.1 Microのプラグには、AとBの2種類が、レセプタクルには、BとABの2種類が存在する。
USB 3.1 Micro ABレセプタクルには、「USB 3.1 Micro Aプラグ」「USB 3.1 Micro Aプラグ」「USB 2.0 Micro Aプラグ」「USB 2.0 Micro Bプラグ」の4つのプラグを装着することができる。
USB Microプラグの関係
ホストケーブルを装着可能なUSB 3.1 Micro ABレセプタクルは、USB 3.1 Micro A、同Micro Bプラグ、USB 2.0 Micro A、Micro Bプラグの4種のプラグを装着できる。
USB 3.2と関連の仕様
ここで、仕様書の点からもう少しUSB 3.2を見てみることにしよう。
USB 3.2の仕様
USB 3.2は、USB 3.2のコア部分の仕様書とUSB 2.0やコネクターの仕様書などから構成されている。また、USB 3.2の仕様書は、USB 3.0、3.1をアップデートするものであり、その仕様を含んでいる。このため、現在有効なのはUSB 3.2およびUSB 2.0の仕様書のみである。
USB 2.0のとき、後からUSB BCやMicro USBコネクターなど幾つもの仕様変更があった。こうしたことから、USB 3.0の時点で、コネクターなどの仕様を分離し、それぞれで独立した仕様書を持つようになった。
また、USB 2.0はすでに完成していたため、USB 2.0についても独立した仕様書として残し、USB 3.0では、それ以外の部分を仕様書に入れることにした。このため、USB 3.0、3.1、3.2と仕様書のバージョンが変更になっても、USB 2.0やコネクターの部分には影響が及ばなくなった。
なお、前述のUSB 3.0で定義された「標準コネクター」「Microコネクター」に関しては、3.1の時点で改良が行われたが、3.2ではそのままであるため、コネクターの仕様書のバージョンは3.1のままとなっている。そのため「USB 3.2のUSB 3.1標準Aコネクター」といったちぐはぐな表現となるが、これはコネクターの仕様が独立しているためだ。
新しいコネクターであるUSB Type-Cや電力供給の仕組みであるUSB Power Deliveryについても、それぞれ独立した仕様書を持つ(これらについては次回解説予定)。もう1つ、ソフトウェア側からみたUSBデバイスの仕様は、USB Device Classとして、クラスごとに定義がある。これも、USB 3.2、USB 2.0とは独立した仕様であり、それぞれの仕様書がある。
つまり、USBデバイスのクラスごとの仕様は、USB 3.2の定義で影響を受けず、そのままになっている。逆に言うと、USB 3.2でもUSBデバイスのソフトウェアから見た振る舞いは同じとなる。なお、第3回で解説したUSB Battery Chargeは、現在では、USB Device Classの1種としてUSB仕様とは別に定義されているため、USB 3.2に対しても有効である。
SuperSpeedとSuperSpeedPlusの違い
最初のUSB 3.0で定義されたのは、転送速度が最大5Gbpsの「SuperSpeed(SS)」である。SuperSpeedは、USB 2.0の「High-Speed(480Mbps)」「Full-Speed(12Mbps)」「Low-Speed(1.5Mbps)」と同じく、転送モード(転送性能)を示すものだ。そのアーキテクチャを「SuperSpeedアーキテクチャ」と呼ぶ。
USB 3.1では、これに対して最大10Gbpsの「SuperSpeedPlus(SS+)」が追加定義された。SuperSpeedPlusは、5GbpsのSuperSpeedとは、物理層から違うものであり、論理的には、お互いに独立している。
また、3.1の時点では将来的な発展(つまりUSB 3.2)が想定されていたため、SuperSpeedとSuperSpeedPlusは個別のアーキテクチャとして定義されることになった。このとき、SuperSpeedとSuperSpeedPlusのアーキテクチャを合わせて「Enhanced SuperSpeed System」と呼ぶことにした。さらに、Gen1、Gen2は、物理層の仕様とした。
USB 3.1の時点では、Gen1(SuperSpeed System)とGen2(SuperSpeedPlus System)という2つの物理層の仕様があるのみだったが、USB 3.2では、Gen1×1(SuperSpeed System)、Gen2×1、Gen1×2、Gen2×2(3つともSuperSpeedPlus System)の4つの仕様が入ることになった。注意すべきなのは、USB 3.0では単なる物理層の仕様だったものが、USB 3.2では、Gen1×1として再定義されたことだ。
USB 3.2のアーキテクチャ構成
USB 3.2では、USB 3.0相当のSuperSpeedアーキテクチャと、USB 3.2で規定するSuperSpeedPlusアーキテクチャの2つからなる。USB 3.1相当のSuperSpeedPlusは、Gen2×1として仕様が残っている。
また、同様にUSB 3.1でGen2とされたものは、USB 3.2ではGen2×1となった。ただし、これは、USB 3.2で新たに定義されたGen2×2、Gen1×2と区別するためのものであり、仕様が変更されたものではない。このため、USB 3.2という仕様書に準拠しながらも、USB 3.0相当、USB 3.1相当の製品を作ることは可能だ。すでに過去の仕様で出荷した製品をどう扱うのかはメーカー次第である。多くの場合、出荷当時の仕様で製品としているところが多い。
PCI Express並の転送速度を実現できるUSB 3.0の登場により、外付けストレージなどの接続が容易になった。また、それ以外の高速なデバイスも接続が可能で、最近では、ノートPCなどの内部のデバイス接続にUSBを使うこともあり、こうした内部接続用のUSB仕様も定義されている。
今回解説したように、USB 3.2は、複数の仕様書から構成されており、それぞれが独立して変更されることがある。次回は、その中の1つであるUSB Type-Cについて解説する。
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