Windows 10 October 2018 Update騒動を振り返る:その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(123:特別編)(2/2 ページ)
2018年のユーキャン新語・流行語大賞のノミネート語に、ITプラットフォーム企業の巨人を示す「GAFA」(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字)が選出されましたが、MicrosoftもまたIT業界に長く君臨してきた巨人です。その巨人がWindows 10 October 2018 Updateのロールアウト問題(現在は再開)について、1カ月以上の長きにわたって沈黙を続けました。
Windows 10の過去のリリース状況をまとめてみた
半期チャネル(SAC)のWindows 10の各リリースは、リリース後、18カ月間サポートされます(バージョン1809に関しては、EnterpriseとEducationに対して30カ月間サポートを提供)。10月2日にリリースされ、40日間も利用できない状態が続いたWindows 10 バージョン1809は、18カ月のサポート期間のうち1カ月以上経過してしまったことになります。
しかしながら、Microsoftは今回の影響を受けたバージョンについて、サポート開始日(新たなリリース日)を11月13日にし、サポート終了日を当初の2020年4月14日から5月12日(EnterpriseおよびEducationは2021年4月13日から5月11日)に繰り下げることを明らかにしました。これは当然の対応だと思います。
- Windows lifecycle fact sheet[英語](Windows Support)
さて、今回の騒動を風化させないように、これまでのWindows 10のリリース状況について、GAとなったビルドがWindows Insiderから一般提供になるまで、まとめてみました(表1)。公式ブログでのアナウンスに基づいてまとめたものですが、ブログの変更などで追跡が難しくなっているものもありました(今後も続くようです)。
Windows 10 バージョン |
日付 (米国時間) |
Windows Insider向け リリース |
一般向けリリース |
---|---|---|---|
初期リリース(OSビルド10240) | 2015/6/1 | GA日(7/29)のアナウンス *1 | |
2015/7/15 | Fast および Slow(10240.x) | ||
2015/7/29 | GA(10240.16405) | ||
バージョン1511(OSビルド10586) November Update |
2015/11/5 | Fast(10586.0) | |
2015/11/9 | Slow(10586.0) | ||
2015/11/12 | GA(10586.3) および GAのアナウンス *2 | ||
− | 2016/2/10 | Release Previewリングの導入 *3 | |
バージョン1607(OSビルド14393) Anniversary Update |
2016/6/29 | GA日(8/2)のアナウンス *4 | |
2016/7/18 | Fast(14393.0) | ||
2016/7/28 | Slow および Release Preview(14393.5) | ||
2016/8/2 | GA(14393.10) | ||
2016/9/26 | Windows Server 2016のGA日(10月中ごろ)のアナウンス *5 | ||
2016/10/15 | Windows Server 2016のGA(14393.321) | ||
バージョン1703(OSビルド15063) Creators Update |
2017/3/20 | Fast(15063.0) | |
2017/3/23 | Slow(15063.0) | ||
2017/3/30 | Release Preview(15063.0) | GA日(4/11)のアナウンス *6 | |
2017/4/05 | GA日(4/11)の詳細なアナウンス *7 | ||
2017/4/06 | GA(15063.138)、メディア提供、手動更新 | ||
2017/4/11 | Windows Update、WSUSでの配布開始 | ||
バージョン1709(OSビルド16299) Fall Creators Update |
2017/9/26 | Fast(16299.0) | |
2017/10/4 | Slow(16299.15) | ||
2017/10/10 | Release Preview(16299.15) | GA日(10/17)のアナウンス *8 | |
2017/10/10 | Fast、Slow、Release Preview(CU 16299.19) | ||
2017/10/17 | GA(16299.19)、メディア提供、手動更新、Windows Update、WSUSでの配布開始、Windows Server, version 1709も同時にGA *9 | ||
バージョン1803(OSビルド17134) April 2018 Update |
2018/3/27 | Fast(17133.1) | |
2018/3/30 | Slow(17133.1) | ||
2018/4/10 | Release Preview(17133.73) | ||
2018/4/16 | Fast(17134.1) | ||
2018/4/20 | Slow および Release Preview(17134.1) | ||
2018/4/27 | GA日(4/30)のアナウンス *10 | ||
2018/4/30 | GA(17134.1) | ||
2018/5/7 | Windows Server, version 1803のGA(17134.1) *11 | ||
バージョン1809(OSビルド17763) October 2018 Update |
2018/9/18 | Fast(17763.1) | |
2018/9/20 | Slow(17763.1) | ||
2018/10/2 | Release Preview(17763.1) | GA(17763.1)、GAのアナウンス *12、メディア提供、手動更新、Windows Update、WSUSでの配布開始、Windows Server version 1809とWindows Server 2019も同時にGA *13 | |
2018/10/5〜6 | Windows 10 バージョン1809のWindows Update および WSUSへのロールアウト一時停止、Serverを含めメディア提供も停止 *14 | ||
2018/10/9 | Slow および Release Preview向け機能更新(17763.17) | GA向け累積更新(17763.55) | |
2018/10/16 | Slow および Release Preview向け累積更新(17763.104) | ||
2018/10/30 | Slow および Release Preview向け累積更新(17763.107) | ||
2018/10/13 | 修正版GA向け機能更新(17763.107)、GA向け累積更新(17763.134)、Windows 10 バージョン1800のWindows Update および WSUSへのロールアウト再開のアナウンス *15、Windows Server 2019提供再開のアナウンス *16 | ||
表1 Windows 10のWindows Insider および 一般向けリリースの履歴(Windows Server 2016以降のWindows Serverを含む) |
Windows 10はWindows Insiderへの提供とフィードバックにより開発が進められ、GAとなって一般提供されます。Windows Insiderへの提供方法には、頻繁なビルド更新がある「Fastリング」、Fastリングよりも頻度が少ない「Slowリング」、そしてGAビルド向けの更新プログラムを先行的に取得できる「Release Previewリング」の3つがあります。
Release Previewリングは、Windows 10 バージョン1607の開発中に導入されたもので、一般提供より少し前にGAビルドが提供され、そのフィードバックを生かして一般提供を行うためにも利用されています。注目していただきたいのは、次の2点です。
1つ目は、事前のアナウンスについてです。これまでWindows 10がリリースされる際には、GAになる予定日を事前にアナウンスしていました(数カ月前だったり、数日前だったりの違いはありますが)。事前アナウンスがなかったのは、「Windows 10 November Update」と呼ばれたバージョン1511と今回の「Windows 10 October 2018 Update」のバージョン1809です。「Windows 10 April 2018 Update」のバージョン1803も3日前という直前でした。
偶然かどうかは分かりませんが、事前アナウンスがなかったバージョンには“提供月”が入っているという共通点があります。提供月を示しているのだから事前アナウンス済みということでしょうか。しかし、30日前後の幅がありますし、少なくともここ2回のリリースではその名が示すように一般提供されたとは言えません。
April 2018 Updateはぎりぎりセーフかもしれませんが時差の関係で日本は5月でした。October 2018 Updateのサポート上のリリース日は、11月13日になってしまいました。数日前にも予告してくれれば、絶対にその日、その時間、あるいは期間に更新したくない(バックグラウンドでの負荷の上昇を含めて)ユーザーが対応しやすくなると思います。
2つ目は、Windows 10 バージョン1803での経験が全く生かされていない点です。Windows 10 バージョン1803の開発時は、ビルド17133がGAビルドになる予定でした。それがRelease Previewリングでの結果を踏まえて取り下げられ、新たにビルド17134が作成され、一般提供となりました。その結果、Windows 10 April 2018 Updateと呼ぶにはぎりぎりの4月30日のリリースとなったのです(日本では5月1日でした)。
Windows 10 バージョン1809では、Windows InsiderのRelease Previewリングによる一定期間の先行的な展開を経ることなく、10月2日に突然、一般提供が開始されました。そして、数日後に配布停止という失敗をしてしまったのです。Microsoftは今回の事件から大いに学ぶことになったでしょう。しかし、少なくともWindows 10 バージョン1803の経験からは何も学んでいなかったようです。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(Oct 2008 - Sep 2016)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows Server 2016テクノロジ入門−完全版』(日経BP社)。
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