「2001年宇宙の旅」の「HAL 9000」を、2019年のテクノロジーで解説しよう:デーイジー、デーイジー(2/7 ページ)
スピルバーグが、手塚治虫が、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2019年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画や漫画、小説、テレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第5回は「2001年宇宙の旅」だ。
HAL 9000はメインフレーム
HAL 9000は「一種のAI」である。まぎれもない。
IBMではIBM 1400、IBM 4380、IBM 3090、IBM 9370といったように数桁の番号でシステム名を付ける。これに倣ってHAL 9000としたとも推測できる。ハードウェアの構成は、巨大なコンピュータシステムが、いわゆる「システム室」においてあり、宇宙船の各所に「端末」がある。
若い人は知らないかもしれないので、コンピュータの利用スタイルの変化を説明しよう。コンピュータは、だいたい次の3つのパターンをへて今に至った。
1.単体利用型(スタンドアロン)
最も初期の真空管で動いていたようなシステム。コンピュータに入出力機能がついており、他の機器と接続しない。パンチカードとプリンタが主な入出力だったり、ネットワークで接続できなかったりした。
2.端末利用型(ターミナルアクセス)
システムに「端末機」という専用機器を接続して利用するシステム。最も古い時代ではカードパンチ機+カードリーダー+プリンタがセットの機器(Remote Job Entry:RJEという)が端末として遠隔操作できた。
その後、メインフレームに接続するキーボード+ディスプレイ+プリンタの組み合わせになる。最も広く世界に普及したメインフレーム用端末は、IBM 3270ではないかと思う。
3.相互接続型(コミュニケーション)
複数のコンピュータがネットワークを介してつながっているシステム。
2019年現在は、コンピュータの小型化とインターネットによるネットワークコストの激減により、そこいら中にコンピュータが存在し、ネットワークで相互接続されるようになった。
PCもスマホもスマートウォッチもみなコンピュータシステムである。インターネットとその入り口となるイーサネット、Wi-Fi、LTEはみなネットワークである。クラウド事業者はそれらのネットワークを通して膨大なコンピュータをデータセンターで動かし、相互接続させている。
HAL 9000は、2の端末利用型。端末が接続されたメインフレームコンピュータとして描かれている。
(作品中に説明がないので確定的には言えないが)HAL 9000の機能のほとんどは、ボーマン船長がHAL 9000を停止させるために入る「LOGIC MEMORY CENTER」という大きな部屋に置かれているようだ。
SPACE PODが置かれている部屋に横長の大きな箱があったり、人工重力の効いたドーナツ形のエリアにもHAL 9000の端末が置いてあったりしている。
Point!
HAL 9000はメインフレーム型で、乗組員がアクセスしているのは端末装置
お手本は「System/360」
現実世界では、1964年にIBMが「System/360」を発表し、プログラム式汎用(はんよう)コンピュータの時代に突入した。写真のシステム360は、HAL 9000をほうふつとさせる。
「2001年宇宙の旅」はその時代に作られた映画である。それ以前のコンピュータシステムは、配線で機能を作ったり、集計や弾道計算を用途ごとに作ったりしていた。
1964年に開催した前回の東京オリンピックで、初めてSystem/360が集計に使われた。IBMは2000年シドニー大会まで長い間オリンピックシステムを提供しており、1964年の東京大会が初めてリアルタイム集計をした年だと聞いている。
System/360はアポロ計画にも使われており、スペースシャトル計画にまで活用されている。
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