原因追求型のフィードバックをされると、気がめいる:仕事が「つまんない」ままでいいの?(57)(3/3 ページ)
部下や同僚にネガティブなフィードバックをしなければならないことがありますが、伝え方に気を付けないと、相手のやる気を削いだり人間関係を崩したりします。本来、どのようなコミュニケーションをとるべきなのかをエンジニア視点で考えてみました。
解決志向のコミュニケーション手法
では、「未来」に目を向けた「解決志向」にするためには、具体的にはどのようなコミュニケーションをすればいいのでしょうか。
「どうすれば?」という問いを使う
1つ目は、「なぜ?」ではなく「どうすれば?」という問いを意識することです。
「なぜ、失敗したの?」「どうして、できなかったの?」「何が問題だったの?」のような、「なぜ?」という質問は、相手の意識を過去に向けさせ、思考を問題の範囲にとどめてしまいます。
一方、「どうすれば?」は、相手の意識を未来に向けさせ、思考を問題の解決へと導きます。
問いを、「なぜ?」から「どうすれば?」に変えることで、相手の意識を「原因追求」から「解決志向」に導くことができます。
「目標」や「理想」を積極的に伝える
2つ目は、「目標」や「理想」を積極的に伝えることです。
相手の言動の問題点を伝える際、私たちはよく「あなたの○○が良くない」といった問題点だけを伝えてしまいがちです。しかし、それでは「何が理想なのか?」「目標は何なのか?」が分かりません。そのため、問題の言動は改善されるかもしれませんが、理想に近づくかどうかは分かりません。
また、指摘される側も、理想や目標を伝えられないと、「そもそも、何のためにやっているのか」「どういう状態になるのが理想なのか」が分からないため、相手の意識は問題の範囲にしか向けることができません。
それは、目的地を伝えられないまま、ナビゲーションの指示に従って運転する感じに似ています。「そこを右に曲がれ」「その道を真っすぐ」「違う、そこは左だ」のように、目先の交差点だけを指示されれば、目的地には着けるかもしれません。
けれどもドライバーは、「ゴールはあと1キロ先なのか、100キロ先なのか」が分からず不安ですし、途中で通行止めになっていたら、目的地が分からないため迂回(うかい)できません。
しかし、目的地が分かれば、現在地が目的地に近づいているのかが分かりますし、時間の予測もできます。途中で通行止めになっていても迂回できるでしょう。このように、ゴールに着くためには、目的地が必要なのです。
フィードバックも同じです。「この報告書の書き方は良くないよ」「○○を、□□に書き換えてくれる?」という、現状を知らせるだけではなく、「報告書のポイントは、まず、結論を簡潔に述べて、その後で、その理由を書くことだよ」「○○を、□□に書き換えると、読み手は次のアクションが分かるからもっと分かりやすい報告書になるよ」のように、「現状」に「理想」を加えて伝えると良いでしょう。
「理想」と「現状」、その間にある「ギャップ」、それを改善するためには「どうすれば」を合わせて伝えることで、ネガティブなフィードバックも、理想を実現するためのポジティブなフィードバックになります。
問題の背景には、理想がある
今回は、「問題点の指摘とフィードバック」を、「フィードバック制御」を基に考えてみました。
同僚や部下の言動を「問題だ」と思うのは、仕事をしていれば、誰しもが感じることだと思います。それ自体は、何も悪いことではありません。
けれども、相手に伝える際に、批判や人格否定、プレッシャーをかけるなど、相手のやる気やテンションを下げていては、フィードバックの本来の目的「結果を理想に近づける」にはなりません。
目の前の出来事に「問題だ」と思うのは、あなたの中に、「本当なら、○○だったらいいのにな」という「理想」があるからこそ。
それならば、「お前の○○が問題だ」ではなく、「理想的な状況は○○で、現状は□□だよ」「このギャップを埋めるためには、△△が必要だよ」のように、フィードバック制御で行われる内容と同じように伝えれば、理想や目標を実現するための、ポジティブなフィードバックになります。
そのためには、「どうすれば?」という問いと、「目標」や「理想」を都度伝えるという、シンプルなことを意識してみてはどうでしょうか。
また、指摘を受ける側も、「○○が問題だ」「だから、□□にしなさい」という指示に従うだけではなく、「これが改善されると、どのようになれますか?」「もし、理想的な状況や目標値があったら教えてください」のように、理想や目標値を確認しましょう。
そうすれば、「そもそも、何のために」という理想や目標値が分かり、ネガティブなフィードバックで落ち気味な意識を前向きに切り替えていくことができ、楽しくはたらけるようになるでしょう。
筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
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