ITを無視していては、経営が破綻します――業績傾き掛けのオレンジ:コンサルは見た! 情シスの逆襲(2)(4/4 ページ)
時代に取り残されつつある老舗高級スーパーマーケットチェーンを引き継いだ47歳の新社長は、観光客誘致、キャッシュレス決済導入、と施策を次々に繰り出した。次に着手するのは……ITだ!
頑張ってください
「会員制?」
「はい。クレジットカード各社のゴールドカード以上を持っている人だけしか会員になれません」
「それは……随分と思い切ったことを」
高橋の目が光ったように見えた。
「全国規模で見れば、ゴールドカード会員だけでもそれなりの数になります。その人たち向けに高級品を、実店舗よりも少し安く売るんです。ネットの方がコストが掛かりませんから、利益率はむしろ上がるはずです。そ、それと会員には年会費も払ってもらいます」
高橋が首を右側に傾げた。
「そんなことまでするの? 会費は?」
「5000円です。年間10万円以上買われるお客さまにはメリットが出ます」
「なるほどねえ。そうすればお客さまに特別感を持っていただけるし、会費分、積極的にお買い物をしていただける。年会費も売り上げになる」
高橋の首が真っすぐに戻った。
それからしばらく高橋は企画書を何度も見返した。その度に小塚の鼓動が大きくなった。
「いいでしょう、進めてください」
高橋の明るい声に、小塚は目の前がぱあっと明るくなったような気がした。かすれた声で返事をする小塚に高橋は柔和な笑顔を向けた。
「スケジュール感はどんな感じなの?」
「1年で立ち上げます!」
小塚の声がさらに高くなった。ほおが紅潮しているのが自分でもよく分かる。
「分かった。じゃあ、後はよろしくね。何とか成功させて、古株の役員連中の鼻を明かせてよ」
高橋はそう言うとニコリと笑った。
「それとね……この春に取締役が退任して欠員が出る。君、後任をお願いできるかな?」
小塚は吸った息を吐くことも忘れて立ち尽くしていた。同期入社の中では最も早い役員昇進だ。
「は、はい。頑張らせていただきます」
こうして、小塚のプロジェクトは社長肝煎(い)りの看板がつき、小塚自身も社長のお気に入りということになった。
つづく
「コンサルは見た! 情シスの逆襲」:第3話「君はライバルに協力するのかい?――ベンダーを探せ!」
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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