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プライバシーフリーク、就活サイト「内定辞退予測」で揺れる“個人スコア社会”到来の法的問題に斬り込む!――プライバシーフリーク・カフェ(PFC)後編 #イベントレポート #完全版混ぜるな危険(4/4 ページ)

求人企業は自分たちの問題とは思っていないのではないか――リクナビ事件の論点は、業務委託とコントローラーの視点へ。鈴木正朝、高木浩光、板倉陽一郎、山本一郎の咆哮を聞け! ※本稿は、2019年9月9日時点の情報です

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高木 こういう話って1970年代からとっくに議論されていたことを最近になって確認しました。図8は、1974年の国連の事務総長報告書です。


図8

山本 これはまた地味なものを持ってますね。

高木 ここには自動決定が人権にもたらす影響が書いてあって、人事担当者が機械を信用してしまって、「もっと情報を調べる必要があるところ、考えなくなってしまう」と指摘されていたり、画一的な判断になってあぶれる人が出てしまうとの指摘が書かれていたのです。そういう問題に対処するためにこそ個人データ保護制度の創設が世界で取り組まれていたはずなのに、日本の制度はどうもそこの目的を置き忘れてきたのではないかという疑いがあります。

山本 この辺りの話は、リクナビが骨子にはなったけれども、リクナビの問題だけでは終わらせてはいけない。今後、健康情報や教育に関するEd Techも問題になっていくと思う、ところで提言みたいなもの、鈴木先生いかがですか?

鈴木 この後の報告で高木さんから法改正に向けた提言がなされるとも思いますが、まずは現状の手続的な規定の中で本人の同意などにかかわらしめてきっちり適切にさばいていく問題と、人権侵害的な差別的なところに踏み込んでしまうことになれば、それは分かる類型を作って禁止していくと。むしろ要配慮個人情報みたいに取得制限するよりも、結果制限の方がAIの利活用の幅が広がるようにも思えます。やはりコンピュータ処理が一番怖いんですよ。

 本来的な法目的を忘れて、第1条には、もわっと「個人の権利利益」の保護と書いていますが、コンピュータ処理を忘れてしまっては、来るべきAIの時代、データエコノミーの時代におけるデータによる人間の選別を通じた人権侵害や、人間疎外的結果を防げないのです。散在情報もみんな重要だといった散漫な規制を整理して、シャープに本当に怖い最悪のところを捉えた立法に組み替えていく契機にすべきだろうと思います。しかし、Suica履歴データ無断提供事件同様に、タイミングよく事件が起きてくれたなぁと。大変勉強になります。時代の要請なんでしょうかね。

山本 To Be Continuedでいろんな問題が起きますよと点でいうと、大手企業に対して一部の人材会社が「あなたの会社の幹部がそろそろ退職しそうですよ」と情報提供することがあります。「社員がエントリーシートを書いて、いろんな会社の面接を受け始めた」という情報を提供するバカな人材会社は結構あってですね。

高木 それって生データがぐるぐるまわっているということではないですか?

山本 人材会社同士で何か突合でもやっているではないかとも思っていますが、結構大手のヘッドハント会社で横行しているのが、目的外利用そのものではないかと。そもそも、退職したくない人が同意するはずないであろうし、企業内での賞罰情報などは本来転職の際に本人の同意なく他社で参照できてはいけない情報のはずです。

鈴木 え! 本人の同意なく第三者提供しているなら、AI以前の問題ですよね。守秘義務やぶって「御社の鈴木某さん現在転職活動中ですよ」とか「セクハラやった処分歴ありますよ」とか登録者の情報を教えるんですか。もしそういう事実があるなら職業モラルも何もない、ど真ん中の違法状態じゃないですか。

山本 それを言うと、このセッションが何だったかという話になってしまいます。この辺でプライバシーフリーク・カフェをお開きにします。どうもありがとうございました。

プライバシーフリーク メンバー

鈴木正朝(すずきまさとも)

新潟大学大学院現代社会文化研究科・法学部 教授(情報法)、一般財団法人情報法制研究所理事長、理化学研究所革新知能統合研究センター情報法制チームリーダー

1962年生まれ。修士(法学):中央大学、博士(情報学):情報セキュリティ大学院大学。情報法制学会運営委員・編集委員、法とコンピュータ学会理事、内閣官房パーソナルデータに関する検討会、同政府情報システム刷新会議、経済産業省個人情報保護法ガイドライン作成委員会、厚生労働省社会保障SWG、同ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進TF、国土交通省One ID導入に向けた個人データの取扱検討会等の構成員を務める。

個人HP:情報法研究室 Twitter:@suzukimasatomo

高木浩光(たかぎひろみつ)

国立研究開発法人産業技術総合研究所 サイバーフィジカルセキュリティ研究センター 主任研究員、一般財団法人情報法制研究所理事。1967年生まれ。1994年名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。

通商産業省工業技術院電子技術総合研究所を経て、2001年より産業技術総合研究所。2013年7月より内閣官房情報セキュリティセンター(NISC:現 内閣サイバーセキュリティセンター)兼任。コンピュータセキュリティに関する研究に従事する傍ら、関連する法規に研究対象を広げ、近年は、個人情報保護法の制定過程について情報公開制度を活用して分析し、今後の日本のデータ保護法制の在り方を提言している。近著(共著)に『GPS捜査とプライバシー保護』(現代人文社、2018年)など。

山本一郎(やまもといちろう)

一般財団法人情報法制研究所事務局次長、上席研究員

1973年東京生まれ、1996年、慶應義塾大学法学部政治学科卒。2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産管理、コンテンツの企画、製作を行う「イレギュラーズアンドパートナーズ」を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務。資金調達など技術動向と金融市場に精通。著書に『ネットビジネスの終わり』『投資情報のカラクリ』など多数。

板倉陽一郎(いたくらよういちろう)

ひかり総合法律事務所弁護士、理化学研究所革新知能統合研究センター社会における人工知能研究グループ客員主管研究員、国立情報学研究所客員教授、一般財団法人情報法制研究所参与

1978年千葉市生まれ。2002年慶應義塾大学総合政策学部卒、2004年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻修士課程修了、2007年慶應義塾大学法務研究科(法科大学院)修了。2008年弁護士(ひかり総合法律事務所)。2016年4月よりパートナー弁護士。2010年4月より2012年12月まで消費者庁に出向(消費者制度課個人情報保護推進室(現 個人情報保護委員会事務局)政策企画専門官)。2017年4月より理化学研究所客員主管研究員、2018年5月より国立情報学研究所客員教授。主な取扱分野はデータ保護法、IT関連法、知的財産権法など。近共著に本文中でも紹介された『HRテクノロジーで人事が変わる』(労務行政、2018年)の他、『データ戦略と法律』(日経BP、2018年)、『個人情報保護法のしくみ』(商事法務、2017年)など多数。

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