「勉強にコツはない」――両手で考え両手でプログラミングするドクターマルティネス:Go AbekawaのGo Global!〜Juan Martinez編(後)(2/2 ページ)
エルサルバドル出身のJuan Martinez(ファン・マルティネス)氏。「不得意を得意に変える」ことでキャリアを積み重ねた同氏が教える「物事を学ぶコツ」とは。
勉強のコツは「取りあえず、まずやる」
阿部川 マルティネスさん自身は、キャリアをより広げるためにどのようなことをなさっていますか。
マルティネス氏 スキルというか、僕のやり方というか、ちょっと話題と外れるかもしれませんが、意識して不得意を得意にしようとしています。今までの人生をそうやってきました。
阿部川 具体的にはどういったことでしょうか。
マルティネス氏 大学生のときの話をしましょう。あるとき右肩を痛めてしまい、医者から「1カ月間、右手を動かしてはいけない」と言われました。教授は「右手が動かせないと中間テストが解けないだろうから期末試験だけで今学期の成績が決まるようにしてあげましょうか」と気遣ってくれましたが、私は「左手でやるので大丈夫です」と、その提案を断りました。それからは左手でテスト勉強しました。もちろん最初は大変でしたが、何度も何度も練習したら、左手でも右手と同じように文字が書けるようになりました。おかげでテストを無事終えることができました。
それ以来、どんなに困難な状況にあっても「克服する方法は必ず見つかる」と考えるようになりました。それに価値があると思えれば、不便なことは必ずしも悪いことではありません。だって多くの人が、難しいことから逃げるわけですから、逃げないで対処した人の価値が上がるのは当然です。だから安心な場所へ戻る避難のための橋を焼き払って、トライしてみるべきなのです。
慶応大学のPh.Dのクラスは全て日本語でしたからトライの連続でしたが、最終的には博士論文の審査を日本語でできるほどになりました。通算7年日本にいるのですからできて当然ですけれど(笑)。
阿部川 左手だけしか使えなかったことが、実はアドバンテージ(優位性)だったのですね。
マルティネス氏 そうですね。体験自体が将来へのアドバンテージだと思います。私の場合は日本語を学んだり、プログラムを学んだりすることが(両手でできるのですから)以前よりずっと早く、簡単にできるようになりました。そして学びを増やすことで、私はもっとクリエイティブな仕事ができるのです。
阿部川 もし子どものころにプログラミングを始めていたら「短い時間で成果を挙げる能力」に目覚めなかったかもしれませんね。というか「劣勢だったこと」そのものを、優勢に変えましたね。
マルティネス氏 はい。恥ずかしがらずにやってみてよかったです。
編集部 短期間で学ぶコツは何ですか。
マルティネス氏 (日本語で)コツは特にないです。状況によって、自分のスキルをうまく合わせることは大切だとは思います。ですが、一番大きなバリア(障壁)は、技術や才能ではなく、メンタル的なものだと思います。例えが正しいか分かりませんが、魚を小さな水槽に入れるとそれ以上魚は大きくできませんが、大きな水槽に移すと大きく育てられます。だから「まずは頭の水槽を大きくして、そして解決したい問題に向かう」というのがコツといえばコツでしょうか。
編集部 大きな水槽というのは、「私はできる!」と決心することでしょうか。
マルティネス氏 えーと……できるかどうかではなく、やっちゃう(笑)。やり始めたら何とかなる。「取りあえず、まずやる」ですね。それは僕にとって一番大事なことです。
Go’s thinking aloud インタビューを終えて
大学院生といえば、そのまま通じそうだった。大きな瞳を輝かせながら、学究の徒のように真摯(しんし)に語る。本当に若いのだが、その経歴の密度はすごい。リーマンショックの中での銀行業務、しかもリスクアナリスト。どれだけの勉強を集中して仕上げたろうか。その後日本へ留学。気付けば博士論文審査まで日本語で行える実力がついていた。そしてプログラミング。現在使いこなすプログラム言語は、全て社会人になってから習得したスキルだ。
オーダースーツを扱う佐田の佐田展隆社長は、祖父から「迷ったらいばらの道をゆけ」と言われ実践して成功してきた。マルティネスさんの人生は、迷うことなくいばらを求めてきた連続だ。何を始めるにも、簡単にできることはないが、しかし遅過ぎることはない。
インタビューは英語で行ったが、最後の日本語での質問には、流ちょうな日本語で答えてくれた。「家内は日本人です」。それっ、早く言ってよ!
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