「契約不適合責任」を盛り込んだ契約書作りのポイント、教えます(サンプル付き):瑕疵担保責任じゃダメですか?(2/4 ページ)
「ユーザーはどこまでも無限に作業を命じてくるのではないか」「受け入れ試験を真面目にやらないのではないか」――改正民法の「契約不適合責任」にまつわるベンダーの不安にお答えしましょう。
そもそも何を意図しての改正だったのか。
しかし、そもそも民法の改正には「IT契約の現実に法律を合わせていこう」という意図があるのではないでしょうか。
私の経験では、ITのシステムは「納品後1年」で不具合が全て見つかることはまずありません。例えば、年次処理の不具合は1年を過ぎてから見つかるものです。何年もデータがたまったり、ユーザーが増えたりして、初めて分かる不具合もあります。また、数年たって初めて使われる機能などもありますから、実際のところ、1年以内に不具合を全てたたき出せないケースは多々あります。
小さなシステムなら、数週間も動かせば一通りの確認ができるものもあるでしょう。しかし、規模や特性にかかわらず全てを「1年」とくくってしまうのは、あまり現実的ではありません。だから今回の民法改正では、この1年という縛りを取り払って、「不具合を発見してから1年以内に通知」すればいいということになったのでしょう。
すり合わぬ平行線
しかし契約現場のやりとりを聞いていると、ユーザーが改正民法をそのまま取り入れようとしても、ベンダーがそれを拒んで交渉が暗礁に乗り上げる、ということが頻繁に起きているようです。
ユーザー、つまり発注者は「せっかく民法がユーザー有利になったのに、わざわざ昔の不利な瑕疵担保責任を維持することはない」と考え、民法そのままに「契約不適合責任」の条項を乗せようとします。しかし受注者であるベンダーは、最長10年もの間、いつ不具合を指摘されても無償で対応できるように、要員や開発環境を維持し続けなければならないのは負担です。何とか1年で責任から逃れられる瑕疵担保責任にしておきたいと考えるのは、自然なことではあります。
ベンダーには、もともと別の不満もあります。
不具合の中には、そもそもユーザーがきちんと受け入れ試験を行っていれば容易に発見し、その場ですぐに修正できたものも多い。それをいい加減なテストで、あるいはテストらしいテストも行わずにシステムを受け取っておいて後から指摘する、といった無責任な行動を取られることです。もし契約不適合責任で契約を結べば、そうしたユーザーの無責任さを助長し、「不具合はいつでも修正させられるから、受け入れテストは、そこそこに」などといういい加減なユーザーが増えることになるのではないか、との不安もベンダーにはあるようです。
しかしユーザーには、前述の通り「不具合の中には、1年を過ぎて初めて判明し、またそれが業務に大きな影響を及ぼすものもあるのだから、1年過ぎたら無罪放免では納得できない」という考えもあります。それはそれで理解はできます。
保守契約は有効か
この問題の解として「保守契約」を利用する案があります。
システムが納入された後、ハードウェアの故障やそれに伴うソフトウェアやデータの破損、小規模な機能修正や追加など、個別に契約を立てるにはあまりに小さな作業について、月額の定額サービスとして契約し、定めた工数の範囲内で必要な作業を実施するという契約です。開発中に仕込まれたソフトウェアの不具合が判明しても、契約工数の中で対応すれば、新たな費用が発生せずに作業を行ってもらえるという考えです。
しかし私は、保守契約が必ずしも「銀の弾丸」になるとは思いません。保守契約は、上述のように、何か後発的な事情で発生した作業を行うためのものです。納入時の品質には問題なかったがその後に起きた事象に対応するもので、潜在的な不具合に対応するのは本来の姿ではありません。
例えば、限られた保守工数を不具合のために使い、本来行うべき作業の時間が取れなかったとしたら、ユーザーの目に見えない損失です。ベンダーも顧客満足度低下という被害を受けることになります。多少のことならともかく、あまり多くの工数を不具合のために割くのは控えるべきでしょう。また、不具合の発生によってユーザーに生じた損害についてはもちろん保守契約の対象外になりますから、やはり、このやり方には限界があります。
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