本社に支援を頼むから安心して!→だが、助けは来ず:コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(8)(2/3 ページ)
契約外で行った作業のミスが元で地獄と化したプロジェクト現場。倒れるエンジニア、姿をくらます経営者。孤立無援のプロマネに救いの手は来るのか――?
サンリーブスの成長戦略
「A&Dコンサルティング」の江里口美咲は、A&D本社近くのカフェにいた。遅れてやってきた白瀬が、興奮気味に報告を始めた。
「いろいろと話を聞いてきたぞ」
「どうだった?」
「やっぱりサンリーブスは、客先にエンジニアを常駐させては偽装請負を繰り返している」
白瀬はここ数日、サンリーブスの他の取引先についてA&Dの同僚コンサルタントや自分の顧客に聞きまわっていた。
「『優秀なエンジニアを好きに使ってください』って常駐に出すんだから、便利に思う客も多いでしょうね」
「ああ。これを派遣か準委任契約でやってるなら、それはそれで一つの商売だけど、サンリーブスの契約は全て請負だ。ベンダーが完成責任を負う請負契約の方が、客としては助かるからな。その上、契約外の仕事もさせられて、それで残業が嵩(かさ)んでも社員が健康を害しても、サンリーブスは何も文句を言わない」
「しかも、そのせいで本来の成果物の品質が落ちたり納期が遅れたりしたら、全部サンリーブスの責任になるしね。発注側にとっては便利この上ない形だわ」
「サンリーブスはそうやって大手の取引先を増やし、売り上げも伸ばしている。景気のいい話だよな。株価もここ最近、どんどん高くなってるみたいだぜ」
「株価?」
白瀬はスマートフォンでサンリーブスの株価を調べ、美咲に見せた。
「3900円だよ。上場当初は700円だったから、株主は数年で大もうけさ」
「株の4割を持ってる社長の布川が一番得をしてるわね。でも、どうして株価のことなんか話すの?」
「ああ、大したことじゃないんだけどな。豊玉自動車を担当しているコンサルタントによると、布川社長が会食の場で豊玉のお偉いさんからすごく怒られたことがあるらしいんだ」
「何で?」
「食事中に、布川がスマホばかりみるんで、失礼じゃないかと問い詰めたら、『自社の株価が気になる』なんて言い訳をして、火に油をそそいじまったらしい」
「自社株の値段を?」
「ああ。それと、翔子さんによると、最近は社内の会議でも株価の話をすることがヤタラと多くなったとか」
一瞬、美咲の目が光ったように白瀬には思えた。
「こっちもいろいろ調べてみたわ。イツワのプロジェクトがあんなに苦しいのにサンリーブスが応援を出さないのは、とにかく人手が足りないらしいの。1000人近くいた社員が大量に辞めた後も、イツワや豊玉を始めたとした超大手ユーザーから無理な受注を続けてるから。これじゃあ、放っておいても破綻してしまうわ」
「その話、俺も聞いた。しかも、偽装請負の帳尻合わせは社員たちの長時間残業で補っているから、心身の健康にも影響している。給料もそこまで高くないから退職者は増えるばかりで、社員は今や400人程度だとか」
美咲は注文を取りにきたウェーターに「コーヒーを2つ」と白瀬の希望も聞かずに答えた後、小さくほほ笑んだ。
「無理に会社を大きくするオーナー社長が、株価をしきりに気にするっていったら……考えてることは、想像つくわね。許せない。そのために社員たちを苦しめ、翔子先輩まで……ばかにしてるわ」
「ああ」
「そろそろ、反撃に出ないとね」
「どうやって?」
「株価のことなら、他の大株主とも協力しなきゃ」
「大矢さんか?」
「ええ。白瀬、イツワに行ってくれる?」
「おお。山谷本部長と対決か?」
「いいえ。そんな正面突破したところで……それよりも側面攻撃の方がいいわ」
運ばれてきたコーヒーを一口飲んで、美咲は再びニコリとした。
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